2-23 首、もげる
再開に向けてのリハビリでちょい短めでm(_ _)m
【時計塔上層 ジン(鬼神教官)】
――俺は、死んだのか?
手足の感覚もない。視界も真っ黒。
ただそう思いつつ、ちゃんと思考ができている自分に気付き少し笑った。
もっとも既に顔の筋肉はもちろん体は動かず竜の生命力ゆえに意識だけある状態なのだ。
――そうか。そういや、負けたな。
俺は負けたのだ。
ウサ耳の道化師に開放され塔にロック達を助けにきたは良かったが、あの教国軍の元総長であるバルトス・メラに敗れた。流石は最強剣士と謳われる男。
心臓は既にあの剣士に潰されている。
こうして脳への血流が止まった以上、残された時間も僅かだろう。結末は覆られない。
俺は死ぬ。
――案外、呆気ないもんだ。
死は平等。俺自身、かなりの人間を戦争で殺してもきた。次は俺の番が来ただけの事。
ただその平等さの中でふと考えてしまう。
俺のこの三十年に、果たして意味はあったのたのか。
三十年前、半人半竜としての力に目覚めた日。――そして同時に、一族より与えられた使命から逃げ出した日。
あの時から、今日まで逃げ続けた事に意味は本当にあったのか。
「倅よ。皇国の勇者様の武器となるべく、お主の竜核を捧げ人々を救うのだ。それこそがお主の、いや、一族の中で竜の血として生まれた者の使命である」
それは生まれて初めて魔物を一人で殺し、成人と認められた日に父から聞かされた言葉。
竜核とは、俺のように半人竜人として先祖帰りした者だけに備わるもう一つの心臓。竜の力の源となる体内にある核、実の父はそれを勇者様に捧げろと言った。
つまり死ねと。
見たこともない勇者様の為に犠牲になれ、それで人々は救われるのだと。それに対して俺は――。
逃げた。
見たこともない人々なんて知った事じゃなかった。
そもそも勇者っていったい誰だ。その人々にはどれたけの価値があるのか。なんで俺が。なんで俺だけが。どうして俺が。
そして大人達に殺されそうになりながらも逃走した俺は、今でこそ先代のご領主様に拾われヴォルティスヘルムの学園で教官などしているが、それまでの間ずっと正体を隠して一人の傭兵として戦場を渡り歩いてきた。
その選択にも、逃げ出した事にも後悔はない。
けれどあの時もし、もし俺がその宿命を受け入れていたら、その“人々”とやらは救われていたのだろうか?
傭兵として、ただただ数十年もこの力で人を殺し続けた俺の人生よりも勇者様とやらがこの力を振るえば遥かに価値があったのではないか?
――下らねぇ。
朦朧とする意識の中で膨れる可能性どもを切り捨てる。
考えても仕方がない。……だってあの時は、俺はどうしても、死にたくなかったのだ。
十五歳。生まれて初めて女を抱き、生まれて初めて魔物と対峙し、生まれて初めて勝利に酔ったあの夜。
自分の本当の力に目覚め、自分は将来英雄となるのだと、心を踊らせ輝きに満ちた星空を見上げたあの瞬間。
皆に祝福され、恋患っていた少女に褒め称えて貰える嬉しさに、皆の前で誰よりも強くなると夢を語ったあの輝かしい時間。
その時だけはどうしてもどれだけ不様だっとしても、ただただ死にたくなかったのだ。
――ああ、疲れた。
竜の力に期待し、英雄への夢を膨らませていたかつての少年はもういない。
殺し、殺され、逃げ続ける日々の中で擦り切れてしまった、色褪せてしまったかつての夢。今はもう、未練すらない。
――そうして残ったのは結局、何の意味も価値もない一人のオッサンって訳か。
遠ざかるかつての自分の後ろ姿。
それを振り払う様に、俺は薄れる意識を――。
「――おおっっ!! っ、危なッ!? けど、ギリ生きてる! ここは……時計塔か?」
“バッカ!! ほら言わんこっちゃねぇ! 回避できても完全にいろいろ飛び越えやがった! とにかく戻るぞ! 早く戻らないと異空間が消滅する!”
――手放そうとした直後。
突然騒がしい声が響く。
誰だ?
声からして二人とも男だ。しかもそのうち一つは、ついさっき聞いた覚えがある。
「だが戻ったとして、天より高い溶岩の津波なんてどうやって――って、教官!?」
“は? おい、待て、そいつに声を掛けるんじゃねぇ!”
何処かで聞いた事のある少年の声。けれどアイツはここに飛び込んでくるはずがない。
「無事ですか教官!」
「……お…………ま………………は……」
目が見えない中で声を絞り出す。
けれどやはり間違いない。こいつは――。
“ああ、クソっ。そうだよな勇者だもんな一応。こうなったらこの男を巻き込む……おいオッサンまだ生きてるな? だったら手伝って貰うぞ”
これはどういう事だ。
闘技場で戦っているはずのロック・シュバルエが何故か俺の前にいた。
【時計塔上層 教国軍総長バルトス・メラ】
整った顔立ちの黒髪の少年――この手で殺した部下の息子、レインバック。
彼の放った刺突は、心臓ギリギリまで到達していた。
筋肉と魔技が一瞬でも遅れていれば、風穴が空いたであろう。即死は免れない。
が、それはいい。
頭蓋骨を割られた事もあった。上半身と下半身が分離しかけた事もあった。
流石に五十年近くも戦の指揮をしていれば、戦場で様々な危機に直面してきた。
それでも首を斬り飛ばしながら復活した人間は初めてだ。
「――その生首と体はどうくっつけたんですかね? レインバックッ!」
振り返ったそこにいたのは確かにその首を斬り飛ばしたはずの少年。
「そんなの有り得ないでしょうっ――一ノ太刀!」
呪術剣。
受けた傷を相手にも法則を無視して負わせる呪いの太刀。
腰の愛剣を掴むと同時に、即座に呪いにより心臓近くに受けた傷を反射。
刀身の煌めきと共にレインバックから血飛沫が上がった。
「がはっ!」
――やはり遅いですか。
しかし呪術剣は受けた時間やダメージにより、返せる威力にムラがある。
結果、呪術の返しが十分ではなく、同程度の傷とはいかない。
それでも彼は肺から空気を出しよろけて距離を取った。その隙にこちらも背中に刺さった黒剣を抜き捨てた。
「んッ……それで? 何なんですか貴方。一人で奇跡でも起こせるとでも?」
「知るか、分からん!」
「……はい?」
あまりに潔い切り返しにむしろ言葉に詰まる。そこへレインバックが予備の剣を抜いて私に突きつける。
「どうして俺が生きているのかなんて分からん……が、お前を殺せるんならもはや何でもいい!」
――まぁ、復讐者なんてそんなものですよね。
彼と私は再び対峙する。
ただ彼はまず、距離を取りいつの間にか壁際に避難しこちらの様子を伺う眼帯の斥候と太った騎士へ口を開く。
「……おいデブ! 眼帯! 貴様等は今のうちに逃げろ! 俺はここでこの男を殺す!」
「はぁ!? いや待て待て待て! この塔、もうすぐ倒壊すんだぞ!? そもそもお前勝てないだろ!」
「そうですぜっ! ってかそもそもこっちもあの男の足元にある剣を回収せにゃならなのですよ!?」
――余裕ですね。そんな話は何の意味もないのに。
もはや容赦はしない。
私は再び鞭の様に自在に動く魔剣へと変化させ、今度は全身をバラバラにさせようと振りかぶった――が。
「なっ!?」
またしても邪魔。
突如、足元が吹っ飛んだ。
浮遊する体。
さらに礫の様なものが眉間を狙って飛んでくる。即座に私の切り札――ギフトの“気化”を使う。直後、霧となった身体を無数の飛礫が通りすぎる。
このギフトがある限り、物理において私は負けない。
だが問題はそこではない。
下から床を突き抜けて攻撃してくる輩なんて、一人しか考えられなかった。
「……テメェの相手は俺だろうがぁッ!」
――まさかッ。
追撃する様に床から飛び出してくる金剛石の右拳。スキンヘッドの教官と呼ばれた男である。
「貴方もかトカゲ! どうして生きて――いやッ」
だが違う。
よく見ると左腕がなく、確かに貫いた心臓にも穴が空いていた。
レインバックと違い確実に死んでいるはずだ。
だだ二箇所、無くなった心臓部分になぜか透明な時計を映す石の存在と、斬った覚えのない左腕がなくなっている違和感。
――なぜ片腕がなくなっているのですか? いや、それよりなんですかあの時計の魔術は?
場違いとも言える、得体の知れない神々しさを感じる時計。
と、同時にその影に隠れた心臓のあるべき場所にある赤い宝玉が見えた……あれは。
「竜核を心臓の代用にしたのかっ?」
竜核。
それはドラゴニュートの持つ竜としての力そのもの。
しかしそれを心臓に代用するということは、生命力を伸ばしている。それは竜核が限界を向けえたらそのまま死ぬということ。
つまり目の前の男は、あと一分も立たず勝手に――死ぬ。
「ご明察だ……景品として地獄へ片道だけ招待してやるよッ!」
「チッ――」
繰り出される拳。
気化できる回数には限界がある。私は連続での気化を避け、それをまともに愛剣で受けて吹き飛ばされた。
「教官! その落ちてる剣をこっちに!」
「あ?」
眼帯の声に反応して、トカゲ男は床に転がった疑似聖剣を片手で掴み、教え子達に投げつける。
「これでいいな! プティン! レイ! ヴァロメ! テメェらは今すぐ逃げろ! 俺は最悪、塔に潰されても死なんッ、だから行け!」
嘘だ。この男は死ぬ。
けれどその真偽が分からない太った騎士は頷き「待て! 俺は死んでもあの男を――ちょ、首がっ、首が絞まッ」と抵抗するレインバックにヘッドロックを掛け、無理やり引き摺って行こうとする。
……なるほど、生徒だけでも救おうとするその心意気は認めましょう。ですが愚かという他にない。
刻一刻と揺れる時計塔。
その最中、必死に私を殺しに来る男を内心で嘲笑う。
“気化”のギフトを持つ私に勝つのは、攻撃が物理しかない上に数十秒しか生きれない貴方では不可能。
せいぜい足掻くだけ足掻いて……死ね。
ゆえに目の前の男より、もう一つの方へと意識を向ける。
「やめろ馬鹿! 俺はッ、俺はあの男を――」
「そんな場合じゃねぇだろ! 今はこの剣を持って逃げるしかないんだよ!」
未だに揉めている少年達。
――その愚行の代償くらいは、ここで精算してもらいましょう。
トカゲの攻撃を避けながら、今度こそ剣を魔剣へと変貌させた。
――ニノ太刀。
愛剣がその形状を変える。昔殺した悪魔の持つ凶悪な意思が剣に宿る。
目の前で残り少ない命しかない男が、こちらの狙いに気付き目の色を変えた。
「バッ、テメ――」
――死になさい。
そう鞭と化した魔剣を遠距離より目視不可能な速度で走らせ、三人の身体を引き裂く。……その瞬間。
「離せッ! 離せこのクソデブがぁ!? そんなに止めたければ俺を殺して行けぇ!」
「ええいっ、この分からず屋! いい加減に――しろやッ!」
そう叫んでレインバックの首を、太った騎士が強引に引っ張った。
その結果。
――ブチッ!
レインバックの首がもげた。
各人の状況
『学園闘技場』
・ロック(宿屋の倅、闇の中でプルートゥといちゃいちゃ)
・二人目のロック?(時計塔で教官蘇生)
・道化師プルートゥ(道化師、闇の中でロックといちゃいちゃ)
『学園時計塔』
・プティン(元パーティーメンバー、デブ、殺人を犯す)
・眼帯さん(元パーティーメンバー、認識阻害ギフト持ち、 ( д) ゜ ゜)
・総長(教国軍元騎士団総長、現状最強、困惑)
・黒髪イケメン(本名レインバック、首から上が緊急離脱)
『日本』
・沁黒(暗殺者、23時 東京湾アクアラインにてポルシェ パナメーラの上に沁黒 VS フォード46台 うち一台の上に神道庁直轄名倉神道執行宮司 木崎智彦)