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2-21 バベルの塔



【時計塔 隠し部屋を見つけたプティン】




 最上階手前で謎のローブに襲われた俺達は、死に物狂いで逃走。ロック降臨という意味不明現象の後に何とか逃げ延びた。


 しかし当初の予定である鐘の破壊には失敗。失意の中、眼帯と共に階段を降りていた時だ。


“アハハハッ! 分かったか? 俺には疑似聖剣がある以上、アンデッドは無限に沸き続ける! もはや誰にも俺を倒す事は出来ないんだよオッッ!”


 滅茶苦茶イキった男の声が壁からしてきた。

 眼帯がその壁を調べるとそこは隠し部屋になっており、中にあったのは……。


「剣がめっちゃ喋ってんな」


 中央に置かれている喋る剣。


 それは金と銀の装飾が施された非常に精巧なものであり、近付くと魔術師でない俺達ですら分かる膨大な魔力を感じた。


 しかし。


 俺達の意識は小部屋に入った直後、全く別なものに意識を奪われる。


「……このおぞましい絵の数々は何なんだよ」


 小部屋には一面、絵が置かれていた。


 赤と黒。


 問題はその絵が全て赤と黒で描かれた、多くの人間がもがき苦しむ姿や殺される姿、地面から無数の手が生えているなど、お世辞にもまともな神経の人間が書いたものだとは思えない代物だということ。


 憎悪。

 ただ、すべての絵からは、絵心のない俺でさえ伝わる底知れない何かに対する憎悪が見て取れた。


「酷いな。もしかしてこの絵、全て呪具ってヤツじゃないか?」


「どうでしょう。少なくともいい趣味とは言えませんね。何かに利用しようとした可能性もありますし、触らないのがベストですぜ」


「そうだな。しかしこんな小部屋あったんだな……」


 塔は基本的に生徒の立ち入りが禁止されている。

 明らかに後から作られた物ではなくこの小部屋は建てた頃からあったものだろう。


 ただ、剣が置いてあった以上は教国軍の人間が出入りしているのだ。

 なぜ教国軍はこんな小部屋を知っていたのか。そもそも時計塔に入れるのは職員だけのはず。たまたま見つけたのだろうか?


「まぁそれより今はコイツだ」


 俺は刺さっている抜き身の剣を抜いた。


“……ハッ。それにしても思ったより呆気ない最後だったな。念のため、ぺしゃんこだろうが死体は確認しておくか”


 するとまた剣から声が聞こえる。


「ってか……あれ、これ、闘技場から喋っていたヤツじゃないか?」


 そう俺は眼帯に喋りかけた。

 ――しかし。


“……ん? 待てッ。誰だ今の声は!?”


 なぜか剣の方から反応が返ってきた。


「まさかこっちの声も聞こえているのか?」


“だっ、誰だテメェ! 何処から喋ってやがる!? まさか……疑似聖剣と声まで繋がってんのか!?”


 あ、間違いない。

 弓使いを殺そうとしていたヤツだ。じゃあやっぱり敵じゃん。しかも疑似聖剣がどうだこうだ言っていたが、もしかして……。


「おい。お前が死霊魔術師で、これがさっき喋っていた疑似聖剣ってヤツだな?」


“は? なっ、なな、なんのことだ? ばばばは馬鹿じゃねぇの?”


 めちゃ動揺している。

 だがこれが今喋っている死霊魔術師の魔力タンク的なものだと言うのなら――。


「じゃあこれはお前にとって、とっても大事な魔導具なんだな?」


“そっ、そうだ! テメェが勝手に触ったら呪いが降りかかってだなッ、ええとっ、あれだ! そう、ケツが爆発して死ぬッ!”


 俺と眼帯はそのガキ丸出しの脅し文句に顔を見合わせ――ニチャアと嗤った。


「へぇ~、ふ~ん、それは大変だなぁ~。誰かが壊してケツが爆発しないうちに」

「あっしらで壊してしまいましょうや。ひひっ」


 二人揃って完全に悪役である。


“オイ待てマジでやめろ聞いてんのかぶっ殺すぞオイッ!?”


 とは言え俺の斧はさっきので壊れてしまったし、眼帯の持ち武器であるナイフじゃ、逆に負けそうだ。

 しかも疑似だが聖剣とか名前で呼ばれている以上、生半可な威力ではダメだろう。


「窓から落としましょうぜ」

「天才かよ。採用」


“待てっつってんだろッ!? オイッ! 話を聞け馬鹿共がッ!”


 俺達は剣から聞こえる声を無視して、階段を降り、窓から下を見る。

 流石にこの高さから落とせば無傷では――。


「……えっ?」

「はっ?」


 だが下を見て固まる。

 そこには全く予想していない光景が広がっていたからだ。


「あれって……まさか」

「どう見ても……ですよね?」


 二人して窓から離れ、また顔を見合わせる。「やっぱり、アレって……する気だよな?」「ええ、でも、そうなるとここにいるのって」と目と目とで確認しあった後――。


「いやいやいや、どういう発想してたらそうなるんですかっ馬鹿じゃないですかっ!?」

「走れ! 逃げっぞッ!」


“はっ? 走れ? オイ待て、なにを言ってやがる! 総長はどうした! ってかアレってなんだ!?”


 そんな所じゃねぇんだよ!


 俺達は喚く疑似聖剣を持ったまま、猛ダッシュで塔の階段を再び駆け下り始めた。




















【闘技場 死霊魔術師クラフトガン】




“走れぇッ! 逃げっぞッ!”


「くそっ、どうなってやがるッ。あの聖剣を通して声が筒抜けになるなんて、なんも聞いてねぇぞ技術部の奴等!?」


 俺は疑似聖剣から聞こえる何者かの声に焦る。

 なにせ疑似聖剣は俺にとっての魔力タンクだ。疑似とはいえ聖剣ゆえ、祝福や加護と言った神の影響下にない打撃などでは、まず破壊されはしないだろう。技術部いわく。


 けれどもし破壊されれば、ゾンビ達は復活できず俺の魔力も底を尽きる。

 しかもそれだけではない。


 塔で何が起きてやがる?


 あそこには総長がいる。

 俺を含めてサシで総長に勝てる存在なんて知らない。


 その総長が声の主を野放しにしてしまったという事実がまずおかしいのだ。


「総長が本気で相手にしなければならないヤツがいる? そんなのがこの土壇場に……」


 ――出せやコラァ!?


「……ぁ」


 だが一瞬、この学園に再び戻ってきた時に、暴れに暴れていた人間とは思えない男がいたのを思い出す。まさか?


「クソッ。とりあえず宿屋は殺したし、ゾンビ共だけでも塔に向けた方が――」


 ――……ドーン。


「ん?」


 塔を見ながらそんなことを考えていた時のことだ。

 遠くで妙な音が聞こえた。


「なんだ今の音?」


 さらにまた。


 ――……ドーン。


 同じ音が聞こえる。

 待て待て。どこから聞こえてくるんだよこの音。

 方向は塔がある方に間違いない。


 塔から聞こえるのか?


「しかし、だとしたら、なんだこの音? そういや疑似聖剣から伝わってきた声のヤツが逃げろとか何とか……」


 そんな時だ。

 再びドーンと少し反響して間延びした様な音がまた聞こえた。直後、見ている風景に違和感が生まれる。


「……あれ?」


 遠くに見える時計塔。

 なんだろうか。今、なんか。


 ――……ドーン。


「…………いや。いやいやいやそんなこと」


 けれど再び音がした直後、それは確信に変わる。

 そうだ間違いない。あの塔、今、確かに――。


 ――……ドーン。


「間違いねぇ……ちょっと待て、あの塔――」


 次の瞬間、塔がクイッとわずかに動く。


「段々と傾いてんじゃねぇかッ!?」


 俺は顎が落ちそうになるほど口を開けて帽子を掻き毟った。



















【時計塔地上部 神官リース(神官ちゃん)】




「皆さん! 今こそ悪の権化っ! 諸悪の根源っ! 人類の敵っ! あの悪魔の時計塔に正義の鉄槌を下すのですッ!」


『おおっ!!』


 私達は今、時計塔の入り口その真ん前にいます。


 そして即席の神輿から叫ぶ私の声に反応して我が信者達総出で時計塔へと突撃します。


 ――それも学園の倉庫に眠っていた“破城槌”を使って。


 流石は元侯城跡を改造して作った学園です。まさか攻城兵器まであるとは……。


 ――ドォーンッ!!!


 結果、縦に長いだけの防御力のない時計塔はその一撃で塔を支える側面の壁が粉砕されていきます。


 そう。アリーナを脱出した私達は突然現れた“ウサ耳の道化師さん”から事情を聞き、時計塔攻略の為に動いていたのです。


 しかしこれだけ数がいても、時計塔内に入れる人数には限りがあります。

 何より……てっぺんに催眠装置があるなら、わざわざ昇らず時計塔ごと倒してしまえばいいじゃないですか。


 え? 塔を昇って破壊した方が確実?


 ハハッ、そういう問題以前にアンデッドを前にぱんつに染み作っている私に、そんな攻略戦が出来る訳がない。ヘタレを舐めてはいけません。


 それに。


 ――あのウサ耳道化師さんの言う通りなら、絶っ対、上の階にはヤバイ化物がいるに決まってますからねっ。


 そんな怖い所は絶対に昇りたくありません。死んでも御免です。小物暦16年の私を舐めないで頂きたい。


 ――つまり戦わずして勝つ。小心者の私の王道戦法。


「ふふっ……」

「どうしたんですかお姉様?」


 私と一緒に神輿に乗っている少女の一人が首を傾げる。

 ああ……なんて可愛らしいのでしょう。お姉ちゃん濡れちゃいそう。


 だがそこへ――。


「こんのッ――馬鹿やろおっ、俺達まだ塔にいんだぞッ!?」


 塔の上から何処かで聞いたことのある怒声が降って来ました。


「――え? あれ? あれは確か……」


 顔を上げてよく見ると塔の上の方で、見たことあるおデブさんが絶叫しています。


「お姉様、あれはお知り合いですか?」


「……」


 逡巡します。

 中に人がいるなら攻撃を止めるべきです。

 けれどそうしているうちに中にいる敵がわんさかこられても、ぶっちゃけ怖いですし……うーん。でも彼は沼の森での元パーティー。


「し……」

「し?」

「――知らない人ですね」


 ゆえに信じましょう、彼等の実力とやらを。


 彼等ならきっと独力で必ずや脱出を果たしてくれるはず。

 なので私は上から顔を覗かせるおデブさんに、満面の笑みを浮かべサムズアップを送ります。


「おっ。良かった! 伝わっ――」


「自力で頑張って脱出して下さい」


「あのクソアマぁッ!?」


 酷い言い草です。

 ですが仕方ありません。


 塔への突撃は始まっています。ここでモタモタしていたら、周囲の工作員達まで集ってくる可能性があります。

 私にとって一番大切なのはそう、保し――。


「……でも、味方みたいですよ。当然、攻撃は待つんですよねお姉様?」


「え? あっ、そうですよ。当然です。はーい皆さん! 一旦攻撃は中止です! ストップ!」


 ――んではなく、慈愛の心でした。うっかりです。


 ……ですが流石にあの高さから、すぐには降りてはこれないでしょう。かと言ってゆっくり待つ時間もありません。


「卵系騎士さぁーん! す、少し待ちますっ。けれどあまり待っている時間もないので急いでだ――」


 そう伝えようと上を見た時です。


「プティンの旦那っ、後ろ!」

「んっ――ぎゃあッ!」


 もう一人の声がした直後、いきなりおデブさんの叫び声が聞こえました。


 すると壁の外にしなる様な鞭とも剣とも言えないものが躍り出て、外壁を切断して再び戻っていきます。


 お、おう……やっぱり、上は上でかなり大変なことになっていそうですね。


「聖女様っ!」


 そこへ突撃している男子学生の一人がやってきてひざまづきます。


「私のことは教祖と呼びなさい」


「っ、失礼致しました教祖様。それで上にまだ人がいる様でしたが、どれくらい待つのですかっ?」


「上は戦闘中のようです。彼等が四階くらいまで降りるのを待ちます。けれど塔の周囲に工作員達が出現したら……分かりますね?」


「ハッ。全ては教祖様の遂せのままに!」


 頷き再び上を見ます。

 さっきの攻撃は明らかに敵性のもの。


「頼みますからさっさと脱出して下さいよぉ」


 じゃないと私のメンタルが耐え切れず突撃を指示しちゃいますからね。ホント、頼みますよ。






各人の状況

『学園闘技場』

・クラフトガン(死霊魔術師、塔の傾きに右往左往)


『学園時計塔』

・プティン(元パーティーメンバー、デブ、総長に捕縛される)

・眼帯さん(元パーティーメンバー、認識阻害ギフト、総長に捕縛される)

・神官ちゃん(元パーティーメンバー、聖女から教祖にランクアップ、怖いなら・倒してしまえ・時計塔)


『日本』

・沁黒(暗殺者、キサラギコーポレーション本社ビル12階社長室にてオネエとジジイの悪巧み)


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