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2-19 崩壊(闘技場Side)


【闘技場 騎士科生徒リドル】




「おっ、おい。俺達はここで見ているだけでいいのかよ。クラフトガン様の援護とかさぁ?」


「そりゃあ、本来なら俺達も動いた方が良いんだろうが……お前、あの戦いに割って入れるのか?」


 そんな二人の工作員の会話を、俺は人事の様に聞いている。


 いや、正確にはこうして何かしらの術にかかり、身体が動かず処刑されるのをただ馬鹿みたいに突っ立っている事しか出来ない。


 全てはあの鐘が鳴った時から。

 闘技場で他の生徒達と共に訓練をしていた時だ。あの鐘がなりローブを着た異様な存在が現れた直後、俺の体の支配権は奪われた。

 そして今では頭の上から、周辺の状況を見聞きすることしか出来ない。


「無理だよなぁ。あのアンデッドもそうだが、少年の方もだいぶおかしいって」

「なら大人しくしている他にない」


 そう話す工作員の視線の先には黒い巨大なアンデッドと、一人の学生が死闘を繰り広げている。


 学生を襲っているアンデッドは間違いなく、魔物として上位にカテゴライズされるだろう。

 何しろアンデッドにも関わらず、無数の魔技を自在に使い、アンデッド特有のダメージを無視した多種多様な攻撃を繰り出す。

 間違いなくA級以上。ベテランが集団で戦いを挑まなければならない危険種。それを召喚し操っている死霊魔術師はとんでもない実力者だ。


 だが。


 驚愕すべきはそれを一人で捌く学生もまた同じだ。俺と同じ学生である、アイツの動きは奇天烈だ。空を飛び、攻撃を曲げ、遅らせる。


 あんな魔技も魔術も聞いたことがない。もしかしたら神の祝福持ちなのかもしれない。


 けれど一人では限界がある。

 アイツがアンデッドに吹き飛ばされる度に、俺はただただ、悔しくてならなかった。

 確かに体は乗っ取られ、ただ目の前の風景を見ていることしか出来なくなったが、上から状況が見えて、耳も聞こえ、思考もできるのだ。


 だからこそこの闘技場に集められ、ゾンビが再び現れた時は死を覚悟した。

 他の者達も同じだろう。


 諦めにも似た感情が芽生えたか或いは……死にたくないと誰にも聞こえない叫びをひたすら上げたか。


 けれどそれは一人のメイドによって変化した。


 学園最強、序列一位。

 なぜ彼女が動ける様になったのかは分からない。だが彼女は動け、殺されそうになっていた女子生徒を助ける。


 もしかして――。


 一瞬そう考えた。だが彼女は一度、学園襲撃時に負けている。しかも今度はたった一人の状況。


 再び捕まるのは時間の問題だと、そう思いながら心の何処かで期待した――が、やはり彼女は敗れた。


 ああ、やはり俺達はどうあっても死ぬんだ。


 学園最強の敗北で俺の心も折れた。

 もし身体が動くようになっても勝てる訳がないと。

 俺達はどうあっても死ぬ。そう諦めてしまった。


 ――アイツが現れるまでは。


 ポーター。


 闘技場に落下して死霊魔術師を蹴り飛ばしたヤツを俺は知っていた。

 そうだ。

 忘れはしない……。


“せんせいー、こいつ自分で剣を壊したのを、俺たちに擦り付けようしてくるんですけど”


 アイツがあの出来事を覚えているかは分からない。

 なにせ半年も前の話だ。

 学園の中庭で訓練中に間違って、あの幸薄そうなヤツの剣を折ってしまった。


 当初はうろたえていた俺だが、友達の一人がその剣の持ち主は学園初の一般科からの転科で、ポーターだと教えられた。


「ポーターの剣なら別に壊してもよくない?」

「どうせ安物だぜ? 自分で壊したってことにしとけばいいって」

「そもそも一般が冒険者の真似事してるってのがありえないって」


 そう盛り上がり俺達はポーターが壊したことにした。

 幸い先生も信じてくれて、その時は丸く収まった。

 何よりその後、学園にこなくなったので俺達は「所詮その程度のヤツ」と言って馬鹿にさえしていたのだ。


 それが――。


「空間捻転――ブレイクッ!」

「SEねぇIAAAAAAぁぁaa!!」


 それが今、俺達を助ける為に……学園を開放をする為にたった一人で、俺達が束になっても敵わない様な化物に挑んでいる。


 その体は既に傷だらけであり、満身創痍なのがありありと分かる。決してアイツは相手を圧倒する勇者などではない。


 けれど、それでもポーターは化物を相手に立ち回り続ける。


 ――…………なにやってんだよ、俺は。


 ただただ自分が不甲斐なく、そして恥かしくなった。


 勝手に諦めていた俺を、ずっと馬鹿にしていたアイツが必死になって救おうとしてくれている現実に。

 そんなヤツに助けられる申し訳無さと、それに対して何も出来ない自分の不甲斐なさは、思わず目を覆いたくなる。


 ――学長とは違う。本来なら戦う側ではないポーターが命を賭けて一人で戦ってるのに、何がどうせ状況は変わらないだ。何を勝手に俺は諦めてるんだ。


 自分が虐げ馬鹿にしていた男が自分達の為に傷だらけになりながら闘っている。

 なのに自分は一体ここで何をしているのか。


 ――良いわけないだろッ。冒険者でもない一般科のポーターがあれだけ必死に俺達の為に戦っているのに、ただ見ているだけだなんてッ。


 それも俺だったら逃げ出してしまうかもしれない化物を相手にして。

 決して引かず劣勢でありながら挑み続ける。


“勘違い野郎が”


 過去にポーターに浴びせた言葉が蘇る。


 違う。アイツは勘違い野郎なんかじゃなかった。勘違い野郎は、俺だ。俺の方だったんだ。勝手に見下し自分を正当化して、笑っていた馬鹿な俺の方だったんだ……。


 ――謝りてぇな。


 強く思う。もっと話すべきだった。もっと自分の驕りに気付くべきだった。


 ――そして戦いたい。アイツと一緒に肩を並べて俺は戦いたい。


 もしアイツをこのまま一人で戦わせたら騎士を目指す俺の中の何かが大事な何かが終わってしまう。アイツを一人で戦わせ続けてはいけない。


 ――なのに何でだよ、ちくしょう。


 しかし身体は動かない。

 見ているだけ。どれだけ足掻いても、叫んでも、声は広場に響かない。


 けれど俺は意味があるかも分からず、念じ叫び続ける。動け、と。

 今、ここにいる学生達は目の前の光景に皆同じ気持ちだと思いたい。


 特にポーターと言って馬鹿にしてきたヤツは、今のアイツの姿を見て酷く後悔しているだろう。そして恥じるはずだ。


 ああ、自分は一体何をやっているんだ、と。


 もちろんだからと言って体が動いてくれる訳でもない。やはり全ては無駄なのかもしれない。


 それでもここで諦める事だけは絶対に出来なかった。アイツが戦う限り、俺達が諦めるなんてあってはならない。だからそれまで。


 ――何としても生き残ってくれ、ポーター。


 そう祈りながら俺は動かない体を動かそうと試み続けた。
















【闘技場 ロック・シュバルエ】






「くッッ! 時間遅延――」


「超KAAAASOOKUUUUUUUUU!!」


 沁黒の弟子達の肉塊が集って出来たゾンビ、ニッゲル・バッゲルの薄黒い拳が俺の側面を捉えた。


 ――ぬぅッ!


 時間遅延を掛けたにも関わらず、魔技による加速で相殺された拳。

 受けた左腕がみしりっ――と嫌な音を立てると共に、身体が吹き飛ばされる。


「ぐッ――」

「ポーターっ!」


 ペッタンさんの悲鳴を聞きつつ、再び吹っ飛ばされる。もう何度目か分からない。


 しかしこれでも先ほどからの即死級の猛攻を全て紙一重で殺し続けているのだ。


 何故こんなに押されているのか。


 ――問題はそう、手札の差。


 強化、加速、巨大化、硬化、変形、分身、幻術、隠密、槍術、剣術、格闘術……。


 ニッゲル・バッゲルの使用する魔技の数は十を超え、それらはどれも最大級の効力を持つ。

 当然、発光するので発動のタイミングは分かる。

 が、問題は何を発動させたかが、まるで分からないこと。


「SEねぇIAAAAAAぁぁaa!!」


 ……これもそうだ。

 巨体から繰り出されるのはただのパンチ。


 一見すると、時間加速、時間遅延、空間捻転。どれでも回避が出来そうな気がする。


「くそっ! どれで来るッ!」


 しかしそうは行かないエラー。この中に絶対に使ってはいけない組合せが存在するのだ。


 例えば……。


 もしこの拳が加速した場合――時間遅延ではさっきの様に普通の速度に戻っただけで、殴り飛ばされる。


 もしこの拳が巨大化した場合――空間捻転では捻った空間に入りきらず、そのまま押し潰される。


 もしこの拳が変形した場合――時間加速で避けても回避速度が上がるだけで、動く距離は変化しないため、即座に追撃を受ける。


 ――まるでジャンケンだ。


 加速なら空間捻転で。

 巨大化なら時間加速で。

 変形なら時間遅延で。


 最適な組合せを選択し続けなければ、一方的に削られる戦い。


「っ、時間遅延ッ!」


 拳が数多の肉の槍に変化し、突き刺さる瞬間、ギリギリでその速度を遅らせて回避する。


 それでも選択が遅れた結果、一本をかわし切れず肩を穿たれる。貫通はしなかったものの吹き飛ばされ、再び闘技場に転がされた。


「ざまぁねぇなァッ! ええっ、助けにきてこの様かよ宿屋ッ!?」


 骨で出来た巨大な掌の上で煽る帽子男。


 いっそ先に向こうを潰してやろうかと思う。けれどニッゲル・バッ――ええぃっ、名前が面倒臭い! 黒肉! そう黒肉は明らかに俺に憎悪を向けてくる。背を向ければやられる。


「くそっ、これ本当にマズイぞ……っ」


 もはや試行錯誤の領域じゃない。

 黒肉と俺の手札と戦術の相性があまりに悪すぎた。

 全身も傷だらけで、いつ致命的なダメージを受けてもおかしくない。


 ――防御の選択はジリ貧。一か八か仕掛ける以外に道はないッ。


 意を決して黒肉に突撃する。


 頭のないずんぐりむっくりした巨大な人型。

 どう見ても弱点がなさそうに見えるが、師匠達いわく高レベルなアンデッドならぱ、必ずコア――魔石が存在する。

 だからそれを破壊すればいい。そしてそういう物は大抵、身体のど真ん中にある。


 脚力強化。

 魔技で走る速度とジャンプ力を上げ、時間遅延&空間捻転の合わせで足場を作り、飛び上がる。


「S死UUねEEEEああ!!」


 空中にいる俺への最初の一撃。

 ここから先はギャンブルだ。


「空間捻転ッ!」


 と同時に、加速した拳が突っ込んでくるが、その拳は曲がり自分自身を殴りつける。つまり正解。


 ――よしっ!


 自らの胸を殴打したことでやや屈む黒肉。

 その隙にさらに足場を作り、高く飛び上がる。


 それでも今度はもう片方の手で俺を掴もうとしてくる。


「時間遅延ッ!」


 二度目のじゃんけん。

 遅くなった拳が変形し始める。つまり加速ではない。こちらも正解。


 その隙にさらにもう一歩飛び、黒肉の上空に躍り出る。剣を真上か振り被る。


 ――当たってくれよッ!

 

「時間加そ――ッ!」


 だが不意に黒肉の右肩から新たな腕、そして拳が出現した。

 変幻自在かッ!?


「空間捻転ッ!」


 剣を頭上から加速させて投擲すると同時に、三度目のじゃんけんとして、拳に対して空間を捻った。


 ――が、拳が巨大化する。

 

 つまり失敗。捻転では回避出来ない攻撃。


「しまっ――」

「GYUuaiaaaa――」


 互いの剣と拳が空中で交錯する。


 加速した剣は黒肉を一気に貫通。

 巨大化した拳は俺を補足。


「GYTUUUUUAAAAああああああ!?」

「がはっ!?」


 ――相討ち。


 身体の芯を打ち抜かれ、コア――赤い珠を破壊された黒肉は爆発。されど、拳によっては俺は捉えられそのまま地面に強打。


 ――ドガンッ!

 

 そんな音がしそうな勢いで身体を叩きつけられ、遅れて頭が地面に激突する。


「――グフッ!」


 視界がブレた。

 音が消える。空に浮いている様な感覚に陥った。

 一瞬で思考が死んだ。


「やったわ! でも――」

「ポーターさんっ!?」


 暗いトンネルの先で誰かが叫んだ気がした。

 けれど誰の声か分からない。


「ばっ、馬鹿な!? まさか本当に、ニッゲル・バッゲルを一人で倒したってのか!? そっ、そんな……これじゃあ、これじゃあ俺の――」


 またもして誰かの興奮する声。けれど身体は動かない。目も見えない。思考も回らない。


「――勝ちの様だなバァーカ!」


 誰かの勝ち誇る声。

 彼は誰に対して勝ち誇っているのだろう。


「ハハッ! アンデッド相手に相討っ? クハハッ、残念それじゃあ足りねぇんだよ!? 分かるか宿屋ッ! テメェーにゃあ経験ってものが足りてねぇ! だからオメーは戦略を見誤ったッ」


 男の声の後に響く、叫ぶ女性の声。


「なっ、何を――もはやゾンビやスケルトンはまだいても、あれ程の切り札はもうないでしょう!?」


「ああ。そうだな。認めようじゃねぇかメイド。俺にはもうここに、ニッゲル・バッゲル並の切り札はない……だかなぁ」


 動けない身体の先で赤い珠が空中に浮かぶと、その周りに黒い肉が集り始めた。


「――蘇れニッゲル・バッゲル!」


 目の前に黒い肉の塊がいた。

 それが何なのか、俺にはわからない。どこかで見た様な気がするだけ。


「っ、確かにコアを破壊したと言うのに――」


「そうだ。なんで俺がこの場で迎え撃ったのか分かるか? それはこの闘技場全体にアンデッド再生の魔術を仕掛けたからさ。メイドには言っただろう? ここのアンデッドは再生するってよぉ」


「ですがそれは低級の話でっ……上位のアンデッド、それもコアを破壊されてなお再生させるなどっ、一体どれだけの魔力がいると思って――」


「三十回だ」


「えっ?」


「あと三十回はニッゲル・バッゲルを再生させる魔力を俺は持っている。くっ……くははははっ、厳密に言えば、それだけの魔力を、俺はパスが繋がっている疑似聖剣から引き出されるのさ!」


「疑似……聖剣?」


「おっと口が滑ったか。まぁいいそうだよ。なに、ようはただの魔力タンクだ。この学園に隠した疑似聖剣が破壊されない限り俺の量は魔術師百人分、ほぼ無尽蔵に引き出せる……つまりッ!」


 さらに人の形をした者達が大量に立ち上がり始めた。


「ここにいるアンデッド共は、俺と擬似聖剣が健在である以上、何度倒されようが復活するって寸法だ。ははっ、つまり最初からテメーらに勝ち目なんてなかったんだよ……踏み潰せニッゲル・バッゲル!!」


 黒い肉の塊が俺に近付いてきた。


「ポーターさん! ――くっ!?」


「おっと行かせないぜ? お前らの相手はゾンビとスケルトンだ」


「ええぃ! 邪魔な!」

「ダメよっ、アイツさっきから動かないっ、殴られた時に頭を打ったせいで意識ないのよっ! このままじゃ――ええいっ、退きなさいよこのゾンビ共!」


 トンネルの先でも人型が溢れていた。

 そちらで女性達が騒いでいる。なぜかこっちに来ようとしていたが、人型に阻まれてこれそうにない。


「…………………………」


 影が覆った。

 黒い肉の塊がいた。それが足を俺の真上に上げた。


「終わりだ宿屋。まぁ元々、テメェが俺に勝てる可能性は限りなくゼロだったって話だ。英雄譚も幕引きだ――死ね、ロック・シュバルエ」


 誰かに名前を呼ばれた気がした。

 けれどやっぱり何も分からず、何も出来ず、空中に浮いていた足が、鉄と化して勢いよく振り下ろされ直後。


 グシャ――と、踏み潰された。






各人の状況

『学園闘技場』

・ロック(宿屋の倅、グチャ)

・ペッタンさん(元パーティーメンバー、エルフ、ロックの元へ行こうとするもゾンビに阻まれる)

・メイド組長(冒険者科元最強、負傷中、立ち上がるのも無理)


・クラフトガン(教国軍、帽子男、死霊魔術師、擬似聖剣のネタバレが出来たので気分が良い)


『学園時計塔』

・プティン(元パーティーメンバー、デブ、☓☓☓と邂逅)

・眼帯さん(元パーティーメンバー、認識阻害ギフト、☓☓☓と邂逅)

・鬼神教官(元ロック達の引率、半人半竜、総長に敗れ心臓を潰される)

・黒髪イケメン(元パーティーメンバー、恩人と敵対、首を刎ねられ死亡??)


・総長(教国軍工作員トップ、黒髪イケメンの恩人にして仇、元騎士団最強剣士、異変に遭遇)


『学園内で不明』

・プルートゥ(ヒロイン、道化師、闇の聖女)

・神官ちゃん(元パーティーメンバー、性女、神輿で進撃中)


『日本』

・沁黒(暗殺者、東京スカイツリーからギャルを宙吊りにする)


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[一言] 登場人物多すぎて話がよく分からないので、落着くとこまで飛ばします。
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