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2-11 予期せぬ分断と予期せぬ再会


【侯都学園 ロック・シュバルエ】




「ヘイヘイヘーイ。なんだか学園の様子がおかしいですねロックさん」


「そうですね。やたら騒がしいというか。僕達の侵入に気付いた感じではないんですけど……」


 俺達は現在、侯都の学園に潜伏していた。


 二人で沁黒を異空間に閉じ込めた後、適当な民家で仮眠を取り俺達はすぐに学園を目指した。


 特に学生の半分を処分する、等という話を聞かされてはじっとしてもいられない。

 そして夜が明けるより早く誰にも邪魔されず学園に侵入。今は校舎の三階にある空き教室、その床にプルートゥさんの闇を張りつけて潜んでいる。


 ただそうして侵入したは良いのだが、周りがやたら騒がしく動くに動けない状況となっていた。


「なんだろう、なにかを探しているみたいだ。捜索している連中は教国の工作員と……骨?」


「スケルトンですね。あのまっ黒くろスケが死霊魔術師がいると言ってましたけど、捜索に使えるってことは、かなりの手練かもしれませんよ。うーん、プルートゥここから出たくありません♪」


「流石にそれだと、ずっとプルートゥさんのことをおんぶするハメになるのでイヤです。ってか、手を繋ぐとかでもいいじゃありませんか。なぜおんぶ?」


 教室の床にできた闇。

 その闇にはプルートゥさんと接触状態にないと入れないらしく、なぜか俺がプルートゥさんをおんぶするという奇妙な格好になっている。


 そのせいでプルートゥさんのウェーブの掛かった髪の毛が頬を撫でてくすぐったい。しかも女性特有の甘い匂いと、巨乳を自称するだけあって、背中に暖かく柔らかい感触がしていてさらに落ち着かない。

 なにより彼女が喋る度にその吐息がかかり、彼女の柔らかい絹の様なほっぺが俺の顔に触れる。なんでこんな可愛いんだこの人。


「むぅ。良いではありませんか。真っ黒くろスケ戦では私だけ影の中でずっと戦ってたんですよ? ちょっとくらい私を労ってくれても、バチは当たらないと思うんです……えいっ、えいえいっ。ロックさんのケチ」


「あっ、ちょっ、ほっぺをつんつんしないで下さい。それにあんまり動くと……」


 痛くはないけど、ほっぺを弄くり回されるとくすぐったいし、動くと余計に背中の感触が。


「あんまり動くと? ……はっ。は~ん。んふっ。んふふふっ♪ どうしたんですかぁ、ロックさん? いつもの澄ましたお顔がちょっと御赤いですねぇ。ああっ、これはいけません。いけませんよ。お姉さんがその火照りを解消して差し上げましょう。大丈夫、すごーく気持いいですよ?」


 急に俺の身体に密着しながら、妖艶な声でプルートゥさんが耳元で囁く。

 ゾクッと背筋が震えると、彼女が手を伸ばしてきて――。


「はい、ぺったんこー♪」


 いきなり頬を冷たい両手で覆った。


「冷たぁッ!?」


「にゅふふ。どうですっ? お姉さんのお手て冷たくて気持ち良いですか? ……あ、それともぉ、もしかしてもっと違うことを期待しちゃいましたかぁ~?」


 畜生、分かっていながらちょっと期待した自分がいた。

 しかし相変わらず楽しそうだなこの人。


「もー、からかわないで下さいよ。ってか、お姉さんってなんですかお姉さんって。プルートゥさんの方が歳下でしょう」


「えっ? ロックさんの方が歳下じゃあございません?」


 そういって振り返ると至近距離に彼女のキョトンとした顔があった。


「……」

「……」


 どうやらお互いに認識の差があったらしい。


「はい、私十七!」

「はい、僕十六!」


「勝ちましたぁ~♪」

「ば、馬鹿な……歳上だと……?」


 プルートゥさん勝利の勇者ポーズ。もちろん十六、十七とは俺達の年齢のことだ。つまり彼女の方が一つ歳上である。


「タメは、まぁ、あると思ってたけど年上……」

「ふふんっ。今日からプルートゥお姉ちゃんと親しみを込めて呼んでもいいんですよ? ほらほら? プルートゥお姉ちゃんって、可愛く呼んでいいんですよー? んー?」


 むっふーと満足気な、それでいてどこか期待する様な顔の道化師。

 なぜかこの顔を見ると、どうしても後輩に見えてしまう……。


「あ、いっそお姉様とかでも――おや?」


 そんな阿呆なやり取りをしていると、足音が近づいてきた。


「おいっ! この教室は調べたか?」

「いやまだだ。調べるぞ」


 おっと。学園を占拠している連中である。

 俺とプルートゥさんはアイコンタクトをすると、頷きあってじっと息を潜めた。


 男達は周辺を確認しながらこちらに歩いてくる。


「特に異常はないな」

「ま、そもそも隠れられる場所もねぇか」


 だが夜明け前の教室はまだ暗く、床の闇には気付かない。

 おかげで彼等は何事もなく去って行った。


「いやー、いきなり来るとびっくりしますね」

「ええ。夜明け前なのに熱心なことです」


 二人並んで闇――床からひょこっと頭だけ出して去って行った男達の方を見る。

 戻ってくる気配はない。


「しかしここにずっと居る訳にも……って、くすぐったいですよー、もうっ、ロックさん、めっ!」


 すると突然、隣のプルートゥさんに怒られた。


「え? はい? あの、何の話ですか? 別に僕はなにもしてな――って、報復に髪の毛を引っ張らないで下さいって!」


 彼女的にお返しのつもりか、いきなり髪の毛を後ろに引っ張られる。


「え? ロックさんこそ何を言っておられるんですか? 私、髪の毛なんて引っ張ってませんよ??」


「はい? じゃあ、これって――」


 俺とプルートゥさんは二人して同時に後ろへと振り返った。


「へっへっへっ!」


 犬だ。

 犬が二匹。それぞれ俺の髪の毛とプルートゥさんの頭巾を噛んでいる。ただし――。


 その顔は二匹とも肉が剥き出しで蛆がたかり、目玉が片方取れ、脳味噌が見え隠れするグロデスク極まりない姿――ゾンビ犬であった。


『うわっ!?』


 いきなりのスプラッタに俺達は揃いも揃いって絶叫する。


「って、しまったッ」

「あ、これヤバイやつですよロックさん」


 ゾンビ犬は突然俺達が叫んだことで驚き、口から髪の毛と頭巾を離し、牙を剥き出しにして襲い掛かる。


「時間遅延!」

「闇沼!」


 二人してその動きを緩慢なものへと変える。けれど。


「なんだ今の声は!?」

「さっきの教室からだぞ!!」


 時既に遅し。夜明け前の静かな校舎に響いた俺達の絶叫に、続々と足音が迫って来る。


「逃げますよプルートゥさん!」

「合点承知のすけべぇにございます!」


 俺達は闇から脱出し、廊下を目指す。

 途中、二人して教室に入って来ようとする工作員と鉢合わせるが……。


「覚醒者がどうし――ぐへっ!?」

「なっ、なんだお前ら! 今までど――ぐぎゃっ!?」


 問答無用で俺達は示し合わせた様に蹴り飛ばす。


「邪魔ッ、だ!」

「にゃははは。ごめん遊ばせ~」


 何かを叫びながら倒れる工作員を無視して横へと走る廊下へ飛び出した。

 完全に息ピッタリ。まるで長年連れ添った相棒の様な俺達。


「よし、左ですね!」

「よし、右ですね!」


 ――でもなかった。


「ええっ、ちょ、ここは左ではございませんか!?」

「いやいやっ、なにを仰るウサギさん!」


 見事に左右別々に走り出した俺達は慌てて足を止めて振り返る。


 だが直後、廊下の窓から見える夜明け前の黒闇に白っぽい何かが見えた。


「っ!? プルートゥさん、避けてッ!」

「ほへっ?」


 咄嗟に時間遅延を廊下の壁に向かって掛ける。

 と同時に、壁が膨れ上がり巨大な白骨の手が壁を破壊しながら廊下へ突っ込んでくる。


「あっ――ぶないですよっ、ガリガリ君!」


 あと少しで骨に掴まれそうになったプルートゥさんは、激怒しながら背後に飛んでそれをかわす。


 その隙に廊下の窓から外を見ると校舎の三階よりも大きい骸骨がいた。


「え、うそっ、スケルトンガーディアンじゃないですかっ!? もしかして死霊魔術師ってあの悪名高い帽子男ですかっ!?」


 破壊された廊下の先でプルートゥさんが動揺の声を上げる。


 ――帽子男? その帽子男ってそんなにヤバイんですか!?


 そう聞きたかったが今度はもう片方の手が俺の方へと、天高く振りかぶられた。


「時間遅延っ!」


 慌てて天井へと遅延を掛けると、すぐさま轟音と共に校舎が揺れた。

 けれど崩壊を遅らせられたのは天井だけ。すなわち校舎の破壊による足場の崩壊は遅らせられない。足元が一気に崩れ去る。


「うおおおおおおっっっ!?」

「ロックさぁーん!? ――って、こっちの手も来るんですかぁ!?」


 崩落によって落下する俺ともう片方の手によって逆に廊下の奥へと押しやられ、見えなくなるプルートゥさん。

 俺は周囲の落下する瓦礫に時間遅延を掛け、足場にして何とか無傷で一階へと着地する。


「いたぞ! ガーディアンがいる所に侵入者がいるっ!」

「デブじゃないっ、例の宿屋と道化師だ! 何としても捕まえろ!」


 しかし周囲からも工作員やスケルトンが集ってくる。


 ――まずい、完全に分断されてしまった。ってかデブってなに?


「ロックさぁーん! 例の場所で落ち合いましょーう!」


 上の方から聞こえた叫びを最後に、プルートゥさんの声は聞こえなくなった。

 巨大スケルトンもそちらに向かって動き出して行った。


 うん…………例の場所って、どこ?


「いたぞ! 捕まえろッ!」


「ああっ、もうッ。あの人、例の場所とかないのに絶対ノリで言っただけでしょ!」


 反対側の廊下から通常サイズのスケルトンや、教国の工作員が走ってくるのを見て俺も走り出す。


「でも例の場所……塔か? 塔を目指すべきか?」


 たぶん、学園において抑えるべきポイントは三箇所。


 一、隷属魔術を発動させている時計塔。

 二、この学園を支配していると思わしき死霊魔術師。

 三、捕まっている学生達。


 本来ならば三を優先したいが、隷属魔術がある以上は無理だろう。

 となれば間違いなく塔の鐘を破壊するのが正しい。


「……どうせ死霊魔術師もそこにいるだろうしな」


 塔が無事ならば学生の解放が不可能な状態。ならそこに最高戦力を用意するのは必然。


 ――きっとプルートゥさんも塔に行くはず。


 沁黒戦で痛感したが彼女はあれでかなり頭が良い。きっと同じ結論に至っているはず。むしろ俺よりも的確な行き先を選択している気がしなくもない……。


「その前に後の連中だな」


 目的地が決まれば、次は後ろだ。彼等を振り切るべく、廊下の突き当たりを曲がる――が。


「……ぁぁぁ」


「……ん?」


 角を曲がった所で正面から誰かの絶叫が聞こえてくる。

 一瞬、プルートゥさんかと思ったがそれにしては野太い。


「は? なんだ?」


 俺は暗闇に目を凝らしながら、廊下の先の暗闇からガチャガチャと音を鳴らしながら走ってくる者を見た。


「……ぁぁああああこっちくんなガイコツ共めええっ!?」


 デブ、であった。


「――え」


 鎧を纏った卵型の体型のデブがこちらに向かって声を上げながら走ってくる。なかなか凄い絵面だ。


 ああ、だが見た事がある。


 濃ゆい眉、キリッとした目、それに反するおデブ体型。


 そうだあいつは。


「同じパーティーだった騎士のプティン!?」

「なっ、そういう貴様はポーターではないかっ!?」


 驚きの声の後に彼の背後からスケルトンがうじゃうじゃしているのが見えた。

 さらに俺の背後からも工作員やスケルトンが走って来る。


「プティン! 俺の後ろ頼んだッ! 代わりにそっちの後ろは任せろ!」

「っ!? ……了解だッ!」


 俺達は廊下で交錯すると同時に、お互いの必殺技を叩き込む。


「空間捻転――ブレイクっ!」

「我が必殺のおおぉアーーースバウンドォォォ!!」


 捻転によりプティンの背後から迫るスケルトンの骨がバラバラになり、渦巻き状に弾け飛ぶ。

 同時に俺の背後で、轟音と共に廊下が粉砕されてスケルトンや工作員が吹っ飛ばされる。


 と、同時に俺達は驚愕と共に振り返る。


「「って貴様/あんた、こんな所でなにしてんのっ!?」」





※ここから視点が一気に増えます。後書きに今発覚している各人の居場所と状況について参考までに書いておきますが、もしどうしても読み辛ければ2-22キラキラまで流し読みでも構いません。


『学園内』

・ロック(宿屋の倅、プルートゥと離別、プティンと再会)

・プルートゥ(道化師、ロックと離別)

・ペッタンさん(元パーティーメンバー、エルフ?)

・メイド組長(学園最強、洗脳中?)

・プティン(元パーティーメンバー、デブ、ロックと再会)

・鬼神教官(ロック達の引率、学園地下の反省部屋にて監禁中)

・クラフトガン(教国軍、帽子男、死霊魔術師)


『ロックの異空間』

・沁黒(暗殺者、監禁中)


『侯城地下牢』

・ノッポさん(元パーティメンバー、槍使い、負傷中)

・魔蠍(ポーションをノッポさんに渡す、正体不明)


『侯城地下』

・ユースティ様(侯爵一家次女、おっぱい、正常だが拘束)

・ユーバッハお兄様(侯爵一家長男、シスコン、正常だが拘束)

・チェスター侯爵(侯爵一家当主、紅蓮騎士にトラウマあり)


『ギルド』

・師匠達(魔女、騎士、貴族、ドワーフ、エルフ、野伏などなど多数、全員監禁中)


『移動中』

・勇者レオン(置いていかれたので必死に移動中)


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