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2-6 宿屋、道化師に出会う

【侯都大通り広場 ロック・シュバルエ】



「ぱっぱらっぱっぱー♪ ぱっぱっぱー♪」


 それはあまりに特徴的に少女だった。


 ウサギの耳がついたピエロ帽の様な頭巾。

 フリルのついた短いスカート。

 黒いゴシックドレスの様な服で強調される大きな胸とその胸元。

 太ももまである黒と白の左右色違いのニーソックス。

 靴は鉤爪の様にカールして尖っており。

 両手は黒い手袋がはめられ手首には白い帯。

 目の下には月と星のメイクがそれぞれ描かれ。

 ウェーブの掛かったふわふわした銀髪は肩口まで掛かり、左右の高い位置ではリボンでそれぞれ短めに結ばれている。 


 思わず見惚れる程の可愛らしい少女が、煙の中で。


「さぁ皆さん、レッツショータイム!」


 決めた。

 目を瞑ったまま片手を突き上げる謎のポーズと、台詞を思いっきり決めてきた。


「……」

『……』


 俺も教国の連中も唖然呆然。

 

 ただただ、ポーズを決める自称、美少女道化師を見ていた。


「…………ちらっ」

 

 だが沈黙に耐えかねたの、わざわざ口で効果音をつけて彼女は片目を開ける。当然、目が合う。


「んんっ? おや? おやおやおやっ? これはッ、おおなんと言う事でしょう!! いくら哀れで愚かなこのプルートゥの舞台だからと言って、お客様お一人とは、流石のこのうさ耳ピエロも泣いてしましましょう! ……と言いますか、あの、あちらにいる武装した危なそうな方々は一体どなたでしょうか? もしかしてお噂の教国兵さん方? え? どういうことですか? あ、そこでお口をあんぐりお開けになったお兄さん。こいつぁ、一体どういう――」


 そう言って彼女は大袈裟なリアクションと共にまくし立てながら、俺の体の下の方へと視線を下げていく。

 と、同時に俺も釣られて視線を下げて行き――。


 俺も彼女もやがて下半身にぶら下がっているそれにぶち当たった。


「状況で――ええっ!?!? まさかの私以上のエンターテイナー!?」


「っ!? 待って! 違っ! ちょ、マジマジ見ないでぇ!?」


 美少女とは思えぬ奇声を上げる道化師に女性の様に悲鳴を上げてマントの前を慌てて隠す俺。


 やばい! 追手が男ばかりの上に命の危機過ぎて服着てない事すっかり忘れてた!


 ――ブンッ!


「「え?」」


 そんな時だ。背後で何かが動いた音がした。二人して振り返るとそこには。


「しまっ、投石機の岩!?」

「って、なぜ空中に岩なんです!?」


 投石機から放たれた岩が再び時間を取り戻し、飛んで来る。

 やばい二人共直撃する。


「もー! 投石機ってなんなんですかぁ!! えいっ、炸裂弾でも喰らってなさいっ!」


 だが一緒に巻き添えになりそうな道化師が、驚愕しつつも何か丸い物体に黒い闇を纏わり付かせて投げつける。


 それがぶつかった瞬間、闇が岩を侵食し直後に侵食した場所から赤黒い炎が炸裂、爆発した。


「えっ、威力すごっ」


 爆風と破片がここまで届いたくらいだ。

 結果、岩は砕け真っ二つ。片方はそのまま落下し、もう片方は逸れてカボチャに生えていた巨大な筒に命中。筒が横へと倒れ一気に火の手に包まれた。


「た、助かった? でも彼女、何者だ?」


 俺は間一髪、道化師の少女に助けられたことに混乱しながらも息を吐く。


「いやぁヘンタイのお兄さん、危機一髪でしたねぇ。って、何で裸マントなんですか? ご趣味?」


 いつの間にか舞台から降りてきた道化師の少女が、ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべこちらの顔を覗き込んでくる。


「いや趣味じゃないです。話せば長いと言いますか……それより助けて下さりありがとうございます。あと……変なものを見せてすみません」


 ――じじじ。


「いえいえっ。私も初めて見ましたがあんなにグロデス――じゃなかった! それより何なんですかこの状況? 収穫祭はっ? 組合長さん達は一体何処へ? お兄さんは一体何者!? ……味方ですよね?」


 ――じじじじじじじ。


「あっ、そうですよ! 自分はここの学園の冒険者科の生徒なんですが、それがこの都市、なんか占領されてるっぽくて、教国軍から追われて――ってさっきからなにこの音?」


 ――じじじじじじじじじじじ。


 さっきから変な音が聞こえてくる。

 二人して音の出処を探すと、ちょうど炎に包まれているあの謎の巨大筒に視線が止まった。


「――あっ。そういえば花火」

「えっ?」


 待て。

 今この人、とんでもない事を口走ったような。つまりこの音。


 じじじ――ドゴォン!!


「「……!?」」


 理解するより早く巨大な筒が轟音と共に火を吹く。あの火災が花火へ引火したのだろう。そしてその筒の先にあったのは。


「「あっ」」


 時間を知らせる鐘がある時計塔。

 着弾。爆発音。花火が周囲を走り、石造りの土台が一撃で吹き飛ばされる。


「「あー」」


 さらに塔は耐え切れず傾き始める。

 そうすると巻き添えになるのは、その塔から繋がっているここら一帯の空中回廊。


「っ、空間捻転、ブレイク!」


 俺はとっさに目の前の一本道を捻じ切って破壊した。

 その直後、空中回廊が傾く。


「うっ、うわあああ!」

「落ちる! 落ちる! あああ――」

「逃げろ! 巻き込まれるぞっ!」


 倒壊する回廊の上にいた教国兵達は阿鼻叫喚となっていた。


「「あっ。あー……」」


 さらに回廊が崩れて下へ倒壊する事で、下にいた兵達も軒並み巻き添えとなる。


「あっ、頭を守れ! 鉄筋でも当たれば即――ガハッ!」

「あぶっ!! ぬはっ」


 下は瓦礫が降り注ぎ、言葉で表現しようがないくらいの大惨事。

  

「「…………あ~あぁ」」


 さらに止めと言わんばかりに、塔がゆっくりと倒れて行く先には――あの指揮官と投石機。


「馬鹿な!? よりにもよって、こんな、こんな運任せな!!」


 地を揺らす程の衝撃と共に、塔が投石機をぺしゃんこにする。

 その威力で大地が大きく揺れた。


「「…………」」


 俺達は殆ど「あ」としか言わないまま、気がつくと教国軍が半ば壊滅していた。


 瓦礫の中から上がる苦しそうなうめき声が聞こえ、まさに悲惨という状況であった。


「………計算通り?」


 そんな馬鹿な。


「えー、と。それでお兄さん? とりあえずどういう状況かもっと詳しくですね、ご説明を頂いても――」


「よくもやってくれたなぁッ!」


 彼女の質問はそんな怒声に掻き消される。

 見ると鉄の足場の残骸が凄まじい速度で突っ込んで来ていた。きっと投擲の人だろう。毎度思うがなぜ黙って攻撃しないのだろうか。


「わっ、やば――」

「空間捻転、スルー!」


 けれど流石にもう通じない事を悟って欲しい。投げられた残骸は明後日の方向へ飛んで行く。

 だがそれだけではもう終わらせない。


「もう一丁!」


 今度は曲げた先の空間も曲げる。

 つまり、一度真横へ飛んだ残骸は、再び真横に曲がって、投げた本人の元へ飛んで行く。


「なっ!?」


 大男の困惑の声の直後、残骸が大男に直撃し彼はかなり激しく吹っ飛んで行った。


「……え? あの、今……残骸が直角にですね。有り得ない方向にですね。二度曲がって、戻って行ったんですが。お兄さん?」


「はい。空間を曲げました」


「はい?」


「空間を曲げました」


「あ。そ、そうですか…………え? 空間って曲がるんでしたっけ??」


 そこへ今度は瓦礫の中から二人の男達が飛び出して来る。


「畜生っ、なんなんだこいつ等! こんな訳の分からない自爆で全滅なんぞ認めんぞ!」

「一体何てことをしてくれたのだ! 貴様だけは必ずここで殺すッ!」


 まるで東方にいると言われる忍者の様な動きで、二人の男が短剣を持ってカボチャの足場に飛び移って来る。今度は壁走りの人達っぽい。


「時間ち――」


 俺は構える連中に遅延を掛けようとする。


 だが突然、その二人の足元の影から何者かの手が生え、その足をがっちり掴んだ。いつの間にか道化師の少女はいない。

 ……ついでに何故か影からうさ耳もピコピコと生えていた。


「はいちょいと失礼を」


「「えっ!?」」


 すると今しがた聞いた声と共に、二人の男が自らの影に引き釣り込まれる。


「なんだ!?」「離せ! 俺たちは――」


「下へ参りまぁーす♪」


 そう言い終わるより早く、ズボッと二人の男が足場よりさらに下へ沈み、そのまま足場を通り過ぎて下の地面へと叩き付けられた。


 唖然とする俺の目の前に、地面の黒い影から道化師がピョコンと飛び出してくる。


「うんしょっと……さて何を隠そうこのプルートゥ、B級冒険者も趣味でやっておりますゆえ、この道化師に掛かればこんなものですねっ!」


 エッヘン。とユースティ様程ではないが大きな胸を貼ってドヤ顔である。


「道化師も敵だ、あの二人まとめてぶち殺せ!」

「ここでアレを逃したら教国の名折れだぞッ!」


 しかしそんなことをしている間に、下で倒壊に巻き込まれなかった他の者達が怒りを露にしている。

 どいつもこいつも鬼の形相だ。気持ちは分かる。

 ただ、だからと言って相手にする必要もなし。


「今のうちに逃げましょうプルートゥさん! こっから隣の建物にあなたを抱えて飛びます!」


「うわー、こわーい……そうですねぇ。流石にこれは逃げた方がよさそうです……っとその前にこれでも食らってなさいな、闇沼!」


 彼女が手を上にかざすと、その上に黒くて丸い物体が生まれる。すると彼女と俺よりも外側一帯に急に黒いもやが立ち込み始めた。


「うっ、なんだ……これ……」

「体が……重い……っ!」

「い、息が苦しい……」


 そのもやに纏わり付かれた教国兵達はさっきの威勢は消え、突然苦しみ始める。


「全体向け呪いと言いますか、エナジードレインみたいなものです。効果は少ししか持ちませんが、もやに捉われている間は動けませんよ。さ、再使用にも少しタイムラグがあるので、今のうちに逃げちゃいましょう!」


「エナジードレインって、あなたは本当に一体…………と、聞いてる時間もないのでさっさと逃げ――あれ?」


 ふと。今の話の中であることに気付いた。というか思いついた。


 俺はもう一度、彼女が作った黒くて丸い塊を見る。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、再度使用するのにどれくらい掛かります?」


「はい? よく分かりませんが、三十秒くらいですかね?」


 一方で教国兵達も堪えれば何とかなると思っているようだった。


「堪えろ! 流石にこれだけの全体魔術だッ、永続のはずがない!」

「はぁ……はぁ……ああ、このくらい下敷きにされた奴等に比べれば……ッ!」


 等と言って我慢している。

 実際、他の者達も根気良くこの不調に堪えていた。


 そして彼女の作った黒い玉が薄れ始める――。


 が。


 こう、思いついてしまったのだ。


「――時間遅延」


 彼女の作った黒くて丸い塊に最大限の時間遅延を掛けてみた。


「え? なにをしたんですか?」


「効果を延長してみました」


 するとどうだろう。

 この全体攻撃っぽい魔術、消えかかったまま一向に消えない。


「……長いですねぇ」

「……長いですね」


 その間教国兵達はずっと苦しみ続けている。

 しばらくしてようやく、時間遅延の効果が消える。と同時に闇沼という彼女の魔術? の効果もちゃんと切れた。


「はぁ、はぁ、舐めた真似を。今の間に逃げておけば――」


 だが今の時間でもう一つ出来るようになったことがある。


闇沼おかわり


『なっ』


 そう。道化師の少女の魔術が再び使える様になっていた。


「嘘だろっ」

「ま、まだだ……ッ!」


 なので教国兵達はまた堪え始めた。

 そしてしばらくするとまた消えそうになるのだが。


「時間遅延」


「あ、おいっ……ちょ……ふざけ……っ」

「ま、待て……もうこれ以上は……」


 と彼等も困惑しながら頑張るのだが、いざまた終わる頃には俺が再び時間遅延を使える様になっており。

 それが終わっても。


闇沼おかわり


「っ!? わ、分かった……分かったらちょっと……話……話……合お……」

「待てッ……待った……いや待って…………もう……むりぃ」


 今度は彼女が再び使える様になっている。この二つの間にタイムラグなどなく。

 あとはもう完全に作業である。


「時間遅延」

闇沼おかわり

「時間遅延」

闇沼おかわり

「時間遅延」

闇沼おかわり

「時間遅延」

闇沼おかわり

「時間遅延」

闇沼おかわり

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


 これを十回ほど繰り返した。

 結果。


『…………………………』


 何もせずに、気付いたら敵は死屍累々の有様である。


「これはひどい」


 出来た。

 出来てしまった。正直、まさかこんなハメ技できる訳がないと思っていたら、あっさり敵は全滅。もう泡を吹いて白目を剥いて倒れているのしかいない。


 いやほんと、まさか百人倒してしまうとは……。


「わー、延々と呪詛系魔術を掛け続けて倒すとか、なんて盛り上がらない勝利。私が言うのもなんですが、倒した実感まるでないんですけども……」


「まぁ流石にラッキーがあったとはいえ、このまま百人相手には無理でしたから……ところで、ええとプルートゥさん、でしたっけ?」


「はいはいはーい♪ プルートゥですよー、お兄さん。ただ自己紹介と行きたいところですがまず先に逃げましょうか」


「ああ、そうですね。僕も状況が分からないのですが今のうち……あ、ところで服を着たいんですけど」


「それファッションじゃないんですか? お似合いですよ?」


「御免被る」


「さいですか。ならアレも持って行きましょう。にゃんにゃん♪」


 アレ?

 俺は彼女が指差した方を見る。そこには投石機から投げ出されて、闇沼の影響かぐったりしている指揮官らしき男。……どうでもいいが貴方の場合、ぴょんぴょんでは?


 けれど大体それで俺も察した。


「良いですね! 尋問は得意です」

「私も拷問とか出来ます! 楽しみですねぇ。げっへへへ」


 その後、俺達は敵の指揮官を引きずってこの広場を脱出。

 こうして。


 あまりにもグダグダかつふざけた流れで、俺達は百人近い教国軍の工作員を倒した。


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