幕間 光の勇者とその取巻き
クソ勇者回です。幼馴染と義妹が勇者をヨイショするのでヘイト嫌いな方は回避推奨です。なお二人と勇者のざまぁは先になりますが、ちゃんと用意しておりますので。
以下、三人称になります。
【勇者レオン 王都】
「ですから、レベルだけではいざと言う時に危険だと何度言ったら分かるんですか! お願いですから対人訓練や素振りをして下さいっ」
王国の中心、すなわち王都。
そこから馬車で二日ほど行った郊外にある森の中で、壮年の立派な体躯の騎士――王国騎士団の団長が必死に訴えている。
その相手は彼の半分くらいの歳にしか見えない、男にしては黒髪を長く伸ばした青年。
キザったらしい雰囲気もあるが、どこか猛々しく、顔もすこぶる良い。実に女受けしそうな男ある。
「そっちこそ無駄だって何度言ったら分かるんだよオッサン。お前らとは次元が違うんだよ」
彼は心底馬鹿にした風に冷ややかだ。
「おい、貴様! 幾ら勇者と言えど目上の者に対する礼節はないのかっ!」
オッサンと呼ばれた騎士団長の背後にいた騎士が怒鳴ると、青年がその騎士を一瞥する。
青年の名はレオン。勇者レオン。
王国に数百年振りに現れた世界を救う命を帯び、光の女神より遣わされた英雄。それが長めの黒髪をなびかせる青年の価値であった。
「やれやれ。ならテメェらが俺を敬う方だろ? ま、男にヘコヘコされても興味ねぇけどな」
勇者の呆れを伴った返答に、騎士達が殺気立つ。同じ国の為に戦う者同士でありながら一触即発。そこに勇者に対する敬意も、騎士に対する仲間意識もない。
その間にのほほんとした場違いな声が仲裁する様に入った。
「騎士さん達は分かってないなぁ。レオン君は最強の勇者様なんだよ? 騎士さん達とは違う本物の天才なんだから、そもそもレオン君に敵う人なんている訳ないじゃん。むしろ世界を救う使命があるレオン君には、そんな時間が勿体無いんだよ」
そう聞き分けのない弟にでも諭す様に、騎士達に向かって笑ったのは、剣の聖女リビア。
宿屋の倅ことロック・シュバルエの幼馴染みである彼女は、長いブラウンの髪をポニーテールにした、明るい笑顔の見目麗しい少女である。胸も成長した事で活発な印象そのままに女性らしさも主張し、騎士や王宮勤め間では彼女のファンクラブがある程だ。
そして農村の出身ではあるが、その剣の腕は剣神の加護であらゆる剣術系魔技を使え、勇者が光の女神より与えられた力によりレベルは100に到達している。今や勇者を除けば、他に寄せ付ける者はいない程だ。
「しかしリビア様っ!」
「そうよ! リビアのいう通りじゃない。そもそも騎士風情がレオンに意見するなんておこがましいのよ!」
さらに勇者の後ろから甲高い声が響き、金髪をツインテールに結んだ美少女が、レオンを守る様に立ち塞がった。
東西南北に分かれる王国の公爵家の一つ、ヴォルティスヘルムの主家にあたる南の公爵家の姫である。
彼女もまた加護を持つ聖女。
「全くです。ご主人様の偉大さを理解出来ないなんて、騎士を名乗っていて恥ずかしくないのですか?」
その逆側から長身の美人。褐色の肌に白い長髪のダークエルフがきつい眼差しで騎士達を睨みつけている。
彼女もまた、ダークエルフの部族において姫に当たり、同じく加護を与えられし聖女であった。
「くっ……!」
そんな美少女と美人に睨まれた騎士は言葉に詰まる。
彼は勇者に文句があるのであって、彼女達にはない。だがその分、彼女達の様な魅力的な女性達が、勇者《こんな男》を盲目的に擁護する様に、更なる苛立ちが増す。
けれど何も勇者の取り巻き全員、頭の中がお花畑と言う訳ではなかった。
「落ち着いて下さい皆さん。レオン様は確かに特別です。けれど基礎訓練も無駄と言う訳ではありません。騎士団長の言う様に多少なりとも訓練すべきです」
最後に現れた銀髪の小柄な少女が、勇者とその取巻き達に釘を刺す。その行動に騎士達の中から彼女を讃える声が上がる程だった。
「おおっ、流石は癒しの聖女様だ」
癒しの聖女。
彼女は宿屋の倅、ロック・シュバルエの義妹シェリーである。銀色の絹の様な長い髪に、人形の様に整った少し幼さの残る顔立ち。身長の低さもあって、澄ましていながら何処かあどけない姿に、誰も彼もが愛くるしさを覚える程の美少女だ。
……最もあのロック・シュバルエから直々に駄妹認定を受けた人物でもある。
「ええー、そんな事ないよシェリー」
「そうよシェリー! レオンが凡人に合わせる必要はないわ」
「そうですよシェリー殿。彼等はレオン様の偉大さを全く理解しておりません。そんな者達に付き合う必要はありません」
「確かにレオン様は世界を救う英雄です。ですが、だからと言って基礎を疎かにしていい訳ではありません。基礎が出来なければ何も出来ないのと同じです」
だがその反論に幼馴染のリビアが半眼になる。
「…………それさ、ロックの、シェリーのお兄さんの謎宿屋理論の受け売りだよね?」
「なっ!?」
「もー、勇者様の妻になって脱お兄ちゃんするって言ってたのに、相変わらずロックっぽいとこあるよね」
「うっ!? ち……違います。これは一般論であり兄さんは全く関係ありません。それに嘘つきな兄さんとは縁を切ったんです。もう他人ですから」
「ふーん………でも未だに朝、一人じゃ起きれてないよね?」
「いっ、今それを言わなくてもいいじゃないですか!?」
シェリーはさっきまでの澄ました感じは何処へやら、顔を赤くして歳相応の顔を見せ、リビアがそれをニヤニヤと眺めていた。
騎士達もほっこりして少し場の空気が和らぐ。
「何だ。シェリーは朝弱いのか」
だが止せば良いのに、そこに勇者が意外そうに声を掛ける。
「あっ、その、はい」
「なら俺が毎日一緒に寝て朝に起こしてやるよ。シェリーは一緒に寝てくれないからなぁ、俺も可愛いシェリーの寝顔が見たいんだ」
「えっ! い、いえ、そう言うのは……魔王を倒してからといつも言ってるじゃないですか……もうっ」
勇者のあからさまな下半身的なお誘いに、シェリーは可愛らしい顔をさらに真っ赤にし、もじもじする。
当然、騎士達の空気に再び暗雲立ち込める。
だが舌打ちや悪態がどこかしこで聞こえても、当の勇者はその嫉妬の視線も、優越感に浸る様に鼻で笑って「どうだ、羨ましいか?」と言いたげである。
「貴様っ、勇者だか何だか知らないが、淑女相手に――」
いよいよもって騎士の一人が勇者を睨みながら近付こうとした時だ。
「――ふふっ、私も癒しの聖女であらせられるシェリーさんのお可愛らしい寝顔を見てみたいですね」
そこへまた、二人のお供の騎士を連れた新しい女性が現れた。
だが彼女の登場に騎士達は怒りも忘れ一斉に膝をつく。金髪ツインテールの姫もダークエルフの美人、リビア達もが膝をつく。
「なんだメイブも見に来たのか? 結界があるとは言え随分と思い切ったな」
ただ、勇者だけが堂々と立ったまま、彼女の名を気軽に呼び捨てにした。瞬間、勇者と睨み合っていた騎士達が腰の得物に手を伸ばそうとする。
「お待ちなさい」
が、それを彼女は制した。
「よいのです騎士達よ。勇者レオン様は世界の救世主様。一国の王女である私よりも、遥かに偉大な御方です」
そう口にしたのはウェーブの掛かった金髪をした、小柄ながらこの中でも一際可憐な女性――この王国第一王女、メイブであった。
「はい。私もレオン様のご活躍される姿を見たくなりました。そうしたら随分と羨ましいお話が聞こえましたので」
「ああ。シェリーの寝顔の話か。だったら三人一緒に寝るか? メイブなら何時でも俺の部屋に来ていいだぜ?」
そういって勇者は第一王女に近付き、その腰に手を回した。
「まぁ……勇者様にそう言って貰えるなんて、女としてこれ以上に幸せはございませんわ」
騎士達の体が怒りのあまり震える。けれど王女本人に釘を刺された彼等に出来る事は憤怒と嫉妬に堪える事のみ。
「――ですが残念ながらそういった事は、かの魔王を討伐してからでしょう。私もいざと言う時には、この王都に結界を張らなければなりません」
そういって名残惜しそうに王女は勇者の腕からそっと離れた。勇者も流石にそれを追う様な事はしない。
「安心していいぜメイブ。俺が魔王だろうが神だろうが、この国を危険に晒す奴等はぶっ倒してやる」
「まぁ!」
王女は手を合わせて頬を上気させる。その時だ。
――GYUOOOOOOOOOOOOOOOO!!
森を震わす程の咆哮が上がった。
魔獣と思わしき雄叫びに、勇者が王女の肩を掴み抱き寄せる。直後、声のした森の方から巨大な三つ首の黒い竜が顔を覗かせた。
それこそが今回、彼らが討伐する為にこの地に遠征し、特殊な御香により森深くから誘き出した魔竜――ギドラであった。
「本当に来たっ! あれが真竜!?」
膝を付いていて騎士達も一斉に立ち上がり、抜剣して現れた魔竜ギドラへ構える。
「此度の遠征の討伐目標を確認! お前達、今こそ我らの武を示す時ッ! 重騎士隊前えッ!」
ギドラは動きは愚鈍であるが小さな砦程に巨体である。さらには真竜である為に、ブレスを放つ事が出来る。
それは隊列を組んだからと言って人が受け止めてい良い存在ではない。
だが騎士団長の指示で、全身を重厚な鎧で固めた背丈より大きい大盾を構えた騎士達が、横二列に並び前に出た。それに呼応する様に首の一つが、重騎士達の前に伸ばされる。その口元に火が溢れ出していた。
「防波横列ッ!」
横二列に並んだ重騎士達が何らかの魔技を一斉に発動。それはまるで即席の横長の城壁が出現したかの様な錯覚を抱かせる。
直後に首の一つからブレスが放たれた。
それを真正面から重騎士の壁が受け止め炎が左右上下へと吹き荒れる。
「大丈夫なのアレ!?」
真竜、すなわち亜竜とは異なる本物の竜によるブレスを真正面から受け止める騎士達を見て、金髪ツインテールの公爵令嬢が声を上げた。
「ええ。実に面白いですね。前列が対熱、対風等を遮断し、後列が前列の騎士を支える。まさか真竜のブレスを人間が真正面から受け止めるなんて……」
ダークエルフの姫も驚きを隠せない。
さらに軽装な騎士達が、ブレスを受け止める重騎士達の横を走り抜ける。
軽装な彼らの速度は並の馬よりも早く展開し、各自散開して愚鈍な魔竜に遠距離から弓や投げ槍などで攻撃を加える。
――JYOOOO!!
――KYUOOO!!
それを魔竜も煩わしく感じるのか、残り二つの首からもブレスが放たれ周囲の森を冷気が凍らせ、電撃が焼き払う。
だが散開し距離を取る彼らには中々当たらない。
「魔術砲隊――放てぇ!」
騎士団長の声に伴って、重騎士達の後ろで詠唱を続けていた魔術師達が、一糸乱れぬ風の砲弾を放つ。その威力に魔竜のブレスは風弾に押し退けられ、首の一つを直撃し吹き飛ばした。
「よしッ!」
騎士団長も手応えに拳を握る。
だが。
――GYUOOOOOOOOOOOOOOOO!!
直撃したはずの魔竜の首は、傷だらけになってはいるが致命傷には程遠い。
「馬鹿なッ、城壁すら突破する威力だそっ!?」
驚愕する騎士団長を尻目に、怒りに染まった竜が再び炎のブレスを放つ。当然、先程と同じ様に重騎士達に受け止められるのだが。
「魔術砲隊ッ! ダメージは通っている! 繰り替え――」
そう騎士団長が指示を出そうとした直後、焼ける様な音と共に煙が爆発し、視界が潰される。
炎のブレスの後に、もう一つの冷気を放つ首が氷をぶつけたのだ。
水蒸気で視界が暗転し焦る騎士達。そのすぐ後、今度は地を揺るがす数度の炸裂音がし、蒸気の中をフラッシュが走り地を揺らした。
「なっ、何が――」
一瞬の炸裂音の連打の後に、蒸気がゆっくりと晴れていく。
それが晴れた時、騎士団の盾であった重騎士達は誰一人立っている者は残っていなかった。
後ろで指示を出していた騎士団長や、魔術砲隊と呼ばれた魔術師達はその光景に唖然となる。
辛うじて分かるのは、重騎士の鎧が焼け焦げ周辺に時折、小さな電流が走っている事から、雷のブレスを放つ首による攻撃だと言う事。
だがそれは本来ならば有り得ないのだ。
重騎士達の魔技は雷さえ防ぐ。だから雷のブレスも弾けるはずであった。
――もし、ここに先代勇者のアキラがいれば、彼は「水蒸気と冷気で雲の中と同じ状態にして放電したのか」と、言い当てたかもしれないが。
「――っ、王女殿下を守りつつ退避せよっ!」
想像の及ばぬ理外の一撃に騎士団長は即座に、残ってる騎士達に指示を出した。
だがそれを悠長に待ってくりる魔竜ではない。
壁がなくなり進撃する魔竜。それを軽装の騎士達が必死に牽制するが、彼らは次々と薙ぎ払われ肉塊と化していく。
さらに三つの首がそれぞれブレスを溜め込み、騎士達を殺し尽そうと口を開く。
「させないよっ!」
だがそこへ、黄金の剣を持ったポニーテールの少女――剣の聖女、リビアが駆けた。
彼女は騎士達の誰よりも早く、今まさにブレスを放とうとする竜の首へ剣を走らせる。けれど魔竜の首は剣一本で切れる太さではない。
「剣神様ッ、力を貸してっ!」
瞬間、剣の黄金が輝く。
魔竜と交錯する様に振りぬかれたそれは、鉄断斬りと呼ばれる、世界でも数人しか使えない剣士最強の魔技となって魔竜の首を見事に一つ叩き斬った。
「すっ、凄い!」
「あれが剣の聖女様……何と強く、美しいっ!」
周囲の騎士達も美しい女剣士と、それによって落とされた魔竜の首にただ呆然と釘付けになった。
「私も一本貰うわよっ――霊体装着!」
金髪ツインテールの公爵家の姫様が叫ぶと、彼女の体に半透明の人型が輝きと共に纏わり付いた。
そして彼女は落ちている剣を拾うと、地を揺らしながらそれを事もあろうにブン投げた。
だがその速度と腕の振りはとても少女とは思えない人外の速度。
そうして弾丸の様に投擲された剣は、首の一つを切り落とされ怒りに染まる別の首の頭に突き刺さった。
「最後は私が頂きます!」
直後、さらに雷の様な速度で、光輝く閃光が魔竜の首を貫き分断する。
投擲された剣の速度も異常だったが、閃光の方はさらにそれよりも速い。
満身創痍の騎士達が発射された方を見ると、弓を構えたダークエルフの姫と、その射線上に風圧で薙ぎ倒された木々があった。
「………………う、嘘だろ?」
その様子を王女を避難させていた騎士団長や他の騎士達は呆然と見ている事しか出来なかった。
――格が違う。
自分達が手も足も出なかった魔竜を相手に、彼女達は独力でその首を落としてしまったのだ。
全ては女神より与えられた力かもしれない。
けれどそれを言ったら騎士達は誰一人として女神に選ばれなかった凡俗なのだ。
その事実にどうしようもない無力感に襲われる騎士達。
そしてその感情は勇者への疑念に変わる。
この間、勇者は実は何もしていない。
癒しの聖女であるシェリーは重騎士達を癒し助けていたが、当の勇者は王女を抱き寄せたまま、見ているだけ。
なんであれだけ強く美しい彼女達が、こんな男に……。
誰もがそう嫉妬と疑念を抱いた時だ。
――GYUOOOOOOOOOOOOOOO!!
――JYUOOOOOOOOOOOOOOO!!
――KYUOOOOOOOOOOOOOOO!!
切り捨てられた首からそれぞれ咆哮が上がる。
すると突如、全ての首を落とされたはずの魔竜ギドラの胴体だけが動き出した。
「ばっ、馬鹿な! 首もないのにどうやって」
突然の事態に皆呆気に取られ動けない。
それでも三人の聖女達は魔竜を止めるべく、残った胴体へと攻撃を仕掛けた。
「くっ、大き過ぎて剣が通らないよ!」
「足太過ぎ! 山に攻撃してるみたいじゃない!」
「駄目です! 何処を攻撃しても怯みません!」
けれど彼女達の攻撃も、長く細い首とは異なり、分厚い胴体に致命傷を与える事が出来ない。
「ひっ――」
そしてその巨体は倒れた重騎士達と、その回復をするシェリーを踏み潰す所まで迫る。
「逃げてっ、シェリー!」
リビアの叫びも虚しく、その巨体が彼等を蹂躙しようとする。
その時だ。
「――やれやれ、面倒臭ぇ。やっぱ俺がやってやらなきゃ駄目か」
そんな悪態と共に魔竜ギドラの巨体に土の巨大な槍が突き刺さった。
そしていつの間にかシェリーをお姫様抱っこした勇者が、ギドラの前にいる。
「無事かシェリー。助けに来たぜ」
「れっ、レオン様!?」
彼に抱き締められ、間一髪の所を救われたシェリーは、心をときめかせる。
その瞳は輝き頬は上気し、絵本のお姫様を救う勇者様を見る様な、憧れの眼差しを彼に向けている。
彼女のその反応に満足した勇者レオンは、土の槍に貫かれ身動きの取れない魔竜に向かって手をかざした。
「火属性最上位魔術――天火」
魔竜ギドラの胴体を一瞬で大炎が包み込む。
瞬く間大炎は竜の肉を焼き尽くし、その身を黒焦げにして崩れさせた。
・全属性魔術使用可能
・全魔技使用可能
・詠唱無視
・魔力百倍
・天運
・経験値千倍化
・仲間経験値共有
これが勇者レオンに、光の神殿に勇者の称号と共に与えられたギフトであった。
これによりレオンはその辺の弱い魔物を倒したわずかな経験値だけで、限界突破により上限の引き上げられたレベル130に到達しており、その仲間である聖女達も大した努力もなく100に到達している。
さらに彼は全ての属性魔術と魔技を使える。魔術に至っては詠唱すら不要。
そして極めつけは天運と呼ばれる、自分より格上相手以外には、何だかんだと幸運に助けられ勝利するという、チートな力までもが備わっていた。
これが勇者レオン。
こんな物を見せ付けられれば、誰もが彼こそが最強の勇者だと思うだろう。
事実、その圧倒的な力を目の当たりにした騎士達は嫉妬する事も許されず、自分達の弱さと惨めさに落ち込む事しか出来ない。
「さっすがレオン君! かっこ良くてドキドキしちゃった!」
「素敵だったわよレオン! まぁ、私達の夫になるんだから当然よねっ」
「やはりレオン様は偉大なる勇者様です。他の凡俗とは格が違います」
「レオン様の様な強い御方がいて下されば、我が王国は百年安泰です。いつか魔王を倒した暁には、どうか私もハーレムのお一人に加えて下さい」
或いは自分達よりも遥かに強い、一際美しい女性達や、自分が忠義を捧げた見目麗しい王女に憧れや尊敬、恋する乙女の様な目で見つめられチヤホヤされている様を見て、悔しさのあまり唇を噛むだけだった。
確かにかつての魔王VS勇者の戦いを知らなければこうなるだろう。
だからこの場の誰も想像が及ばない。
この程度の力では万に一つも勝ち目のない、戦いにすらならない程の、魔王が複数存在する事を。そしてそんな奴等と真っ当な戦いを繰り広げられる力を持つ者は勇者どころか宿屋だという事を。
こうして王国は光の女神の暴走と共に、その最悪の刻が訪れる瞬間まで突き進む――が、実はこの時、既に勇者レオンが偽物だと知る者達が王都にはいた。