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1-14 建設的死者蘇生についての結果論

この話からカクヨムに投稿したものとルートが分岐します。向こうの方がテンプレっぽくなる予定です




【ロック・シュバルエ】




 冷静になった。


「どうしようこの状況」


 死屍累々。


 気付けば自分の周囲には敵味方合わせて死体だらけである。しかも半分以上を俺が一人でやったのだ。


 動機はずばり、宿屋になれそうになかったのでむしゃくしゃしてやった。怖すぎだろ俺。どんなサイコキラーだ。


「本当、参った……いや、それより時間逆行で蘇生って出来ないか?」


 俺は時空間魔術の一つを思い出し、慌ててパーティーメンバーと教官の死体を探して並べる。

 またその途中、かなり離れた場所で心臓を一突きにされた、もう一人の教官の遺体も発見した。これで全員だ。


「――時間逆行」


 しばらく掛け続けていくと、本当に欠損した体や切り離された頭が元に戻る。

 もしかして本当に成功した?

 慌てて駆け寄り、一番酷い死に方の黒髪イケメンの心臓を確認する。


「動かないか」


 やっぱり、ダメなのか……。


 でもそれも仕方ないのだろう。蘇生なんて癒しの聖女様でも無理だし、出来たらそれもう神様の奇跡であって、数百年前にいた聖人様の復活とでも崇め奉られ――あ。


「――魂魄祖逆」


 そういえばと気付いた時には、肉体ではなく魂を戻す魔術を使っていた。具体的には特殊な文字列が欠けているのが見えたので、それを修復したのだが。


 すると死体だった彼らが急にビクッとして、よく見ると意識はないが呼吸をし始めていた。


「………………出来ちゃったよ。神の奇跡」


 何処となく出来る気がしていたが、実際に上手くいくと皆が助かった安堵で全身の力が抜けた。


 ただ、それでも治せない者も一人いた。


「やっぱりあの教官だけ生き返らない……あの文字列が魂か何かだったのかな?」


 よく見ると一人、別な場所で心臓を刺され死んでいた教官が動いていない。

 実は彼だけがその文字列が綺麗になくなっていたのだ。

 どうやら欠けたものは戻せるが、なくなってしまったものは戻せないらしい。何が原因かは分からないが、恐らく離れた場所で死んでいた事を考えるに時間経過なのかもしれない。


「でも……欠けていただけの他の全員は、無事に生き返ったっていう……」


 絶対性はないのだろうが、流石にこの結果には自分で自分にドン引きした。いや、喜ばしい事なんだけど、なんかもう、何でもあり過ぎでは?

 むしろこの力を使って勝てない魔王って一体何なの?


「――ん?」


 違和感と共に突然、左目からガチンッ! と普通は聞かない嫌な金属音が響いた。


「いたっ……ぐっ」


さらにガチンッ! ガチンッ! ガチンッ! と立て続けて金属音が鳴り響き頭痛に襲われる。


「くっ、なんだこれッ!?」


 慌てて左目を抑え暫く音と痛みに堪えていると、何時の間にか音が止まり痛みも消えた。代わりにその手の中に時計があった。


「えっ、戻ったのか? でも今……凄く不快な音が――」


 そう思い覗き込んだ時計を見て気付く。三本あるうちの、一番短い針が十一の数字を指し示していた。その意味に。


「これ……もしかして」


 この時計は盤面にゼロから十一の計十二個の数字が書かれており、それらの数字を長さの異なる三つの針が指している。


 それらが指し示す意味についての知識が、時計を左目に入れた時に入ってきていたのを思い出す。


 最も長い針が残存魔力。これはまだ五の数字を指している。つまり残り七回分。


 次に長いのが“保存読込”と呼ばれる魔術の使用回数だったはず。これも同じく五の数字を指していて、長い針と重なっているので残り七回分。


 そして最後に最も短い針が“魂魄祖逆”。つまり生物の蘇生回数。これが十一の文字を指している。つまり残り一回分。


「――まさか、十二回使えたのを今ので十一回分も使ってしまったのか?」


 そうとしか考えられなかった。

 先程のガキンッ! ガキンッ! という金属音はこの時計の針が動いた音なのだろう。


「もしかして俺、貴重な蘇生を殆ど使い切ったんじゃね?」


 ………………あれ?


 これ、めちゃくちゃやばいんじゃ?


“だがもし神器にストックした魔力が切れた時に魔王が出現すれば、世界は滅ぶ”


 自称勇者様の有り難いお言葉が甦る。

 もし今後、魔王と戦う際にこの蘇生が重大な役割を持っていれば……。


「――選択肢としてあまりに非合理的だよな」


 俺は蘇生させた彼らを見る。


 間違いなく、彼らを俺は蘇生させるべきではなかった。

 それでもし、自称勇者様の話が全て真実ならば、魔王を倒せなくなる可能性が出てくるのだ。そうしたら世界は滅ぶ。


 ――見捨てるべきだった。


 頭に浮かんだ結論は端的だった。


 ゆえに。


「ま、いっか。問題は救った事が正しかったと思える様に、何とかしないといけなくなった事だし」


 彼らの蘇生はロック・シュバルエのする選択として正しかったと思う。

 おかげで深く考えずに使った事に反省はあれど、一切の後悔はない。ただ、勇者としては絶望的に間違った自覚もちょっと、いや、かなりある。


 なのでとりあえず。


「…………………………全部見なかった事にしとこう」


 知らないとは生きる上で大事な事だと思うのだ。

 だってもうやってしまった訳だ。考えてもしょうがない。何より皆生き返った。だから極めて建設的な思考で俺はそこで深く考えるのを止めた。


「いやぁ、皆助かって良かった」


 一人で喜んでいると、ちょうど生き返った者達が咳き込んだり体を動かし始めた。


「――って、このままじゃまずい」


 ここで阿呆みたいに立ってたら事情を聴かれるのは必然。俺は慌てて端っこの女騎士さんの横にダイブした。


「あ、あれ? 俺、確か死んだんじゃ――」

「なんだ!? どういう状況だ?」


 と皆が起き上がり騒ぎ出した。

 俺もどさくさに紛れ起き上がり、全員が事情が分からぬまま敵と一人の教官だけが死んでいる光景に呆然となった。










 その後、混乱しながらも誰も状況が分からない為、すぐさま脱出する事になった。


 沁黒達の死体と教官の一人が亡くなった以上、襲撃があったのは事実なのだ。

 ただなんで自分達が生き返っているのか、皆それが分からない。

 ただただ不気味。

 けれど折角生き返ったので、これ以上は下手な事をしたくないという思いもあり、皆深く考えないようにしている様だ。


 そうこうしていると魔物の集団と戦闘中の騎士達――こっそりご令嬢を護衛していた集団を見つけた。

 彼等の周りには大量の死骸がある。教官が助けにこないと言っていたのはこれのせいか。


「ご無事でしたかユースティ様ぁ!?」


「無事な訳がなかろうこの阿呆!!」


 最後の魔物を斬り飛ばした三十代くらいの髭の騎士が顔を輝かせたが、そこに鬼神教官――沁黒相手に鬼神の如く暴れていたスキンヘッド教官の拳が落ちる。


「なっ、何をするんですか教官!?」

「その能天気さは指導時代から未だ治らんのか馬鹿者がぁ!!」


 どうやらこの二人、かつての教師とその教え子らしい。

 ってか鬼神教官って年いくつなんだ。見た目は同じ三十か四十にしか見えないのだけれど。


「良いか、よく聞け。この魔物達は囮だ。ユースティ様は黒衣の暗殺者集団に襲われ、俺は一緒に派遣された同僚に裏切られ腹を切り裂かれ殺されかけた。だが、まぁ、説明のつかない事が起こり、俺達は今、森から脱出しようとしている所だ。分かったか? ああんっ?」


 鬼神教官が髭騎士を筆頭とした護衛達に事情を説明すると、彼らは真っ青になって頷いていた。


 ――って、それよりあの蘇生に失敗した教官って沁黒達の仲間だったの!?


 危ない。蘇生していたら、そのまま再び殺されたかもしれなかったのか……。

 俺や騎士達の動揺を無視して、鬼神教官は彼等の指揮権をぶん取り、すぐさま侯都に帰還した。







 その後、当然の様に修了試験は中止。


 俺達は各自別々に騎士団で聞き取り調査を受けた後、個別に別れ解散となった。


 ただ、アロ討伐については認められるらしい。

 既に黒衣達と裏切った教官の死体調査に騎士団が向かっているから、そこで討伐の確認もするそうだ。


 で、他のメンバー達とバラバラになった俺は、その足で人目を避ける様に寮に帰った。


 途中、騎士団の詰所から帰る時に、広場で他の科や近場から早く帰ってきた女子生徒達に、黒髪イケメンや優男が女の子に囲まれちやほやされていた。

 きっと暗殺者の事は伏せられ、アロ討伐だけが伝わっているのだろう。英雄達にキャーキャー言う女の子達に比べ、当の二人の顔色は悪そうだ。流石に死んで生き返ったのだ。生きた心地がしてないのだろう。


 その後、俺は時間的に未だ授業中の為に無人の部屋に戻りベッドにダイブする。


 凄く、疲れた。


 時空間魔術に神器、勇者に魔王に、暗殺者、そして挙句に死者蘇生……この短期間で怒涛の展開過ぎて頭も体も付いて行かなかった。けれど、無視できる問題でもない。

 これから俺はどうすべきなのか。

 そう一人で頭を悩ませていると、突然ドアがノックされた。


 パーティーメンバーの誰かかな?


 そう思いつつドアを開けると、そこには予想外の人物がいた。


「……あれ、エルフ師匠?」


 そこには古参冒険者の一人、緑のローブを着た耳の尖った四十代くらいの男――エルフ師匠がいた。


「こんにちわ。突然お邪魔して申し訳ありません。単刀直入に聞きます、先代勇者様とお会いになられましたね?」


「えっ?」


 俺の反応を見て、彼は目を細める。


「……とりあえずここではマズイので、中に入れて頂いても構いませんか?」


「あ、はい」


 ドアを開けて招きいれる。

 何でこの人が学園にいるのか、なんであの時の事を知っているのか、様々な疑問を抱えて向き合った。


「色々と混乱していると思いますが、まずはお話をする前に、あなたの力を確認させて頂きたい」


「それってやっぱり…………これですか?」


 俺は近くにあったコップを宙に放り投た。


「時間遅延」


 そしてそれに向かって手をかざすとコップは空中でその動きを急激に遅くする。


 時間遅延と空間捻転。


 実はこの二つは時計が体から分離してからも、どうしてか使える確信があった。実際、文字列は見えないが、あの時の様に意識して手を翳すと成功した。

 もしかしたら、自覚がないだけで元から使えていたのかもしれない。


 その様子に糸目を見開いたエルフ師匠が、突然片膝を付いて頭を垂れた。


「やはり、あなた様は真なる勇者様にございましたか!」


 ――ほらな?


 なぜか俺と同じ顔の自称勇者のしたり顔が頭に浮かんだ。



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