(家族が集合 & 意外な言葉)
『Moon暦726年6月3日(日)』
ここでの私たちの起床時間は七時ではあるが、私はここでも六時に起きるつもりだ、というよりも目覚めてしまい、彼女たちも同じだと思っているが、朝七時までは自由時間といえそうだ。
彼女たちは九時にコックピットに集合し、ここから出発して艦の説明が始まり、八時四十五分にはカードル軍曹を先頭に、コックピットに案内してもらえるように手配をしたので、私はその時間に合わせて九時前に行くつもりだ。
今日は十時からコックピットでマーシャさんに電波を発信することになっているし、カーコン艦長とメーシス艦長、ニッシー艦長に私と、それぞれ艦長の護衛隊長も彼らの後ろで控えることになっていた。
私のそばにはカードル軍曹がいるが、カーコン艦長の護衛隊長はコービン・バックス大佐というそうで、メーシス艦長にはマイオス大佐、ニッシー艦長にはメデス上大尉が、それに、航海長、機関長、通信長と十一人の人間がコックピットに集合することになり、シェリーは九時十五分に来ると話して、カーコン艦長は九時四十五分に来るそうで、彼はその後にこの艦の進水式にも出席することにもなっていた。
☆ ★ ☆
私がコックピットにマーシャル隊よりも先にくると、航海長と機関長と通信長は自分の所定の椅子に座わり、少佐もすでにいて私たちは立っていたが少し五人で話しをした。
私がマーシャル隊を送り出し暫くしてから、シェリーがマイオス大佐と一緒にコックピットに入ると、今度は椅子に座り少佐と三人でこの艦のことを話していると、カーコン艦長がバックス大佐と一緒に入ってきたので、私たちは椅子から立ち上がった。
私が見ているとカーコン艦長は立ち止まりその視線は、正面のパネルや航海長を中心にして左右に座っている椅子の背面に視線が向いたようで、コックピットの中を自分の目で確認しているような雰囲気であり、何も言わずに暫くあちこちと視線が動いているようで、私は初めて見たコックピットではあるが、彼からしてみるとあり触れた造りだとは思うけど、何か気になるような配置になっているのだろうか。
私が彼の顔を見たのは五月二十六日の土曜日以来であり、艦長の制服姿の彼はこの前とは随分と違い、今日のシェリーみたいに大人の雰囲気がかもし出されていたのだ。
「こちらは、ドライク・カーコン上級大将です」
と、シェリーはカーコン艦長の視線が自分に向けられるのを待っていたかのように、私たちに彼を紹介してくれた。
「初めまして、真琥燈・ニッシーです」
「初めまして、マギー・メーシスです」
「初めまして、ドライク・カーコンです。艦長と副艦長に就任おめでとう」
「ありがとうございます。今日はお忙しい中、推進式にも出席していただくことにも感謝しています。ほんとうにありがとうございます」
と、少佐がそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、私はひと言だけしか言わなかった。
「カーコン艦長はこちらへお座りください」
と、シェリーはそう言って、自分は彼の隣に席に座わり、カーコン艦長の対面に少佐が座り、私はシェリーの対面に座った。
二人の護衛とカードル軍曹は入り口の右横で待機し、足を少し開き両手は後ろに組んでいるようで、細身のカードル軍曹は二人の護衛隊長と比べると体型が貧弱に見えてしまい、実際にはまだ青年にもなりきっていない歳であり、より少年の雰囲気みたいに感じられ、何だか顔が真剣そのものでやや緊張しているような気がして、彼も私と同じで色んなことを経験し、精神的にも逞しく育ってほしいと思ってしまった。
「私は少佐の経歴も少尉の経歴も確認しました。これから色んな問題も起こると思います。艦長の立場は孤独で厳しいと思います。ひとりで抱え込まずに各長も含めて五人で相談した方がいいです。二人よりも五人の方がたくさんの意見が出ると思います。適正に判断するには話し合いがいちばんです。それをまとめて他の者に命令するのは艦長の仕事ですからね。この航海が終わるころには艦長としての考え方も身に付き、夢から覚めたような凛々しい顔つきに変わってくるのでしょう。私も帰還後に合うのが楽しみです。頑張りなさい」
と、カーコン艦長がそう言った言葉を聞いて、私が彼の目を見ていると、彼の視線は少佐の顔をじっと見ているようで、『ありがとうございます』と少佐がそう返事をする。
『マギー、家族が皆で集まったわね。こういうことは二度と起こらないと思う。ドライクには私が来てもらうようにお願いしたのよ。二人のことを自分の目で確認してもらいたかった。男は男同士で会話ができるといいね。何かあれば、少佐は彼に相談してマギーは私に相談すればいいしね。私もドライクと二人で話す機会も増えるから楽しみよ』
『はい。ありがとうございます。彼にもそう伝えます。私たちの制服姿を実際に見てもらえて嬉しいです。彼が緊張しないことを祈ります』
『そうね。大丈夫だと思うわよ』
「今日はこの艦のコックピットを見たいと思っていたので、私も予定が立てられてよかったです。なるほど……コンパクトにまとまっていますね。今度は私の従属艦を改装するときは設計をお願いしましょうか」
と、カーコン艦長がそう言ってくれたので、私はそういうことまで考えてくれたのだと、ほんとうに嬉しかった。
「ありがとうございます。ぜひお願いします。小さい艦でも大きな艦でもベストを尽くしたいと思います」
と、少佐がそう言うと、
「そのことをここでメーシス艦長に許可してもらいましょう。艦長、よろしいですか」
と、彼はそこまで言ってくれたので、ここには護衛隊長もいるし、少佐の立場を考えて話してくれたと思い、私は彼に対して感謝以外の言葉はないと思った。
「もちろんです。彼の設計力及び技術力は素晴らしいです。彼の考え方は人間味を帯びていると思います。逆の立場を考え使う側の気持ちを理解していると思います」
と、そう言ったシェリーの言葉は、確かに私もそう思ったけど、こういうことをここで話すと二人で決めたのだろうか、と私の頭はそのことが駆け巡った。
「なるほど……人間味ですか。会話もそうですが機械的な考えをする人たちが多い中では珍しいでことすね。私も人材発掘には力を注いでいますが、自分の考えと相手の思惑がかみ合わないことが多いしお互いに難しい問題です。これからニッシー艦長にはそういうことも考えてもらいたい。何かあれば私が相談にのりましょう」
と、彼はこういう言葉まで使ってくれ、二人で話し合った言葉ではないような気もした。
「ありがとうございます。貴重なお言葉もありがとうございました。私も人材発掘には力を注ぎたいと思います」
「信頼できる部下がいないと自分の立場が守れない。これも難しい問題です」
「肝に銘じて……信頼のおける部下をそばに置きたいと思います」
『彼は言葉運びがうまいでしょう? 少佐の緊張感も大丈夫そうね』
『はい。この内容は二人で相談したのですか』
『何も話してないよ。彼の気持ちでしょう?』
『カーコン艦長にありがとうございますと伝えてください』
「少佐、マーシャさんからの連絡は初めてだと思うけど、少佐が二世の艦長として挨拶をしてください。長らく待たせてしまったけど、こちらの発進日時も伝えていいと思います」
「了解しました」
「私も初めてのときは少し緊張しました。マーシャさんは少尉と話すことを望んでいると思うので、話しは少尉に任せればいいと思います」
「了解しました」
と、少佐がそう言うと、
「私も少し話しをさせてください」
と、カーコン艦長がそう言ったから、そういうことまで考えていたのかと思いながらも、何を話したいのだろうか。私たちが会ったことで少し僻んでいるのだろうか。
「何かお聞きしたいことがあるのですか」
と、シェリーは普段と違い自分の立場をわきまえ、私の知っている彼女の言葉遣いではなかったので、その言葉を聞いたときに私の頭の中がほっこりとしたのだ。
「別に聞くことはないですが……マーシャさんに興味があります。今回を外すと二度と話しができないような気がして、初体験をさせてもらいたいですね。その……何というのか異星人の方と話すというのか」
「私は意思の疎通ができるので、何というのか……人間の方だと意識して話してますが、少尉はどういう気持ちで話しているの?」
と、シェリーが私にそう尋ねたから、
「今まで異星人とか人間とか、そういうことを考えて話したことはありません。自然の流れというのか、何も考えなくて空気の存在と同じような気持ちでした。二つのうちの片方で表現すれば……マーシャさんは人間だと思います。言葉が通じれば人間です。私たちと同じです。この前彼女が容姿のことを話してましたが、彼女たちの目の前で話すことと同じだと思うので、お互いに意思の疎通ができることは、やはり……人間の感覚で話していると思います。マーシャさんは理解できない言葉もあるかもしれませんが、私にも理解できない言葉がたくさんあります。そう思うと立場は同じようだと思います」
と、私は偉そうにそう説明してしまったけど、彼女のパワーは計り知れないが、リリーさんと同じに普通の人として、ボディーもできたし顔も見ることもできるし、マーシャさんだって同じような人間であるとこちらが思えば、向こうも対等な立場であると考えてくれるような気がするのだ。
「……なるほど。それでは……私も話しをするときは人間だと思いましょう。そう思えば緊張しなくてすみそうですね」
「はい。遠くにいる友だちに話しかけていると思えば、自分の気持ちが少し楽になります。でも……私はジョナの言葉を聞くと……胸が詰まって言葉が出なくなります。今回は確実に迎えに行けることが決まりましたので、今日はそうならないと思いますが、その時にはフォローをよろしくお願いします」
と、私は前回の会話では感情が込み上げてしまい、言葉が出ずにシェリーがうまくカバーしてくれたことを思い出し、今回は私の口から迎えに行くことを確実に伝えることができるので、嬉しさ百倍の気持ちで話すことができると思うが、彼女たちの心情を考えると感情がぐらつきそうだ。
「私の方が初体験の会話ですからね。それがうまくフォローできる状態であればいいけど、それはメーシス艦長に任せた方がいいでしょう」
と、彼が私の方を見てから、シェリーに視線を移しながらそう言ったので、
「分かりました。この前は少し言葉に詰まりましたね。確実に迎えに行く日時も決定したので、彼女たちの元気が声がすぐに聞けると思うからね」
「はい。私もそう願いたいです。それでは時計に発信してもよろしいですか」
と、私がそう言うと、
「お願いします」
と、シェリーが私の顔を見ながらそう言ったのだ。
「了解しました」
と、私はすかさず返事をした。
このまま話しを続けていては二人をこと知っている私にとっては、感覚的にも視覚的にもどう考えても目線の運び方が難しく、この場で言葉を少ししか発しないニッシー少佐は何を考えているのだろうか。彼は個人的にカーコン艦長と何か話したことがあったのだろうか。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。