酒に酔ったら、そりゃあ喧嘩ですよ。
「た、大変です、ビャクヤさん!! 市街の方で乱闘事件が!!」
「こんな時に乱闘事件だなんて、なんて不運な……!!」
乱闘事件が勃発ということで、ステイリィ上官がいない中行動を起こさないといけません。
さらに今回は視察員の目があります。
下手な対応をすればこの場にいる私達が評価を下げられてしまいます。
上官のとばっちりだけはごめんです。
「皆さん、ステイリィ上官がいない今、私ビャクヤが代理として指揮を取らせていただきます。すぐさま情報収集のために局員を派遣してください。乱闘鎮圧のための人員数はその後決定いたします。すぐに情報部に現地へ向かうように指示してください」
「ほほう、このビャクヤさんという方は、流石ステイリィさんの側近を為されている方だ。指揮も的確ですね」
うむうむ、ヘックショイと頷く視察員さんは無視をすることにして、我々は情報収集へ全力を傾けることになりました。
そして五分後。
「ビャクヤさん!! 乱闘事件はどうも酒場『グローリー』店内で起こっている模様でして! 今尚続いているようです!!」
「……『グローリー』……?」
はて、私はこの名前に酷く聞き覚えがありまして。
確かこのお店、ステイリィ上官がよく利用している酒場のはず。
そのことは部下達も気づいた模様で。
「ま、まさか……!!」
「ステイリィ上官が絡んでいるということじゃないでしょうね……」
「ちょっとお待ちください」
そんな風に部下達が心配していると、ステイリィの名前が出たことが気になったのか、キビスィー氏が話に割り込んできやがりました。
「その話、どういうことですか? ステイリィさんが絡んでいる?」
「え、えっとですね、これはもしかしたら、の話なんですが……」
「もしかしてでも構いません。話してください」
確認が取れていないので、もしかして、ではありますが、我々部下一同はほぼほぼ確信しておりました。
「多分、上官は現地に言っておられます」
「な、なんですと!? それは何故です!? 他の事件の捜査に行っていたんじゃなかったのですか!?」
「いや、そんなことは一言も言っていませんけど」
「……そうか、判りましたぞ!!」
「いや、絶対判ってないと思いますけど」
「もうステイリィさんは前の事件を解決して、その足ですぐさま事件現場に向かったということですね!?」
「むしろ職場からその足ですぐさま向かったのだと思いますよ」
「なんて行動力のある人なんだ!! 尊敬に値する!! ビャクヤさん、我々も是非とも向かいましょう。支部長が直々に事件現場にいるんです。部下の皆さんが行かないのはおかしいでしょう!?」
「えっと、えー、……では行きましょうか」
普通そう言うのは末端が行くものなのですが、これも仕方なし。
評価を下げられたくないので視察員の言うことを聞くことになりました。
そして現地――酒場『グローリー』。
店内ではまさに我々の予想通りの展開となっておりました。
「ういー、テメー、私のダーリンであるウェイルさんのことをバカにするってのかーっ!?」
「ヒック、しるかボケェ!! 誰もお前の男のことなんざ話してねーんだよ!! そもそも俺が何言ったってんだよ!?」
「お前さっき自分のことを大陸一のイケメンだぁとか抜かしやがっただろ!?」
「そりゃ冗談で言ったに決まってんだろ!?」
「大陸一のイケメンはウェイルさんって、決まってんだ!! テメーみたいな便器みたいな顔してる奴が冗談で言っていい言葉じゃねーんだ!! ういー!!」
「誰が便器だ!? テメー、喧嘩売ってるのか!?」
「今なら一ハクロアでの大安売りじゃい!! かかってこいコラー!!」
意味不明な理論で、自分より遥かにガタイのよい大男に喧嘩をふっかけている、酔いで顔を真っ赤に染めたステイリィ上官の姿がそこにあったのでした。
「やっぱり上官が原因でしたね……」
ちらりと視察員の方を見ますと、これには溜まらずプルプル震えているようでして。
「これは一体どういうことですか!? 治安局員ともあろう人間が、勤務中に酒を飲み、さらには一般市民にまで喧嘩を吹っかけているですと!? けしからんですよ、これは!! 大問題だ!!」
「正解、それが普通の反応ですよ」
今日初めて、普通の反応を見ることが出来ました。
「これは上に報告しなければなりませんね。私は彼女のことを勘違いしていたようです」
「ええ、盛大に勘違いしてましたよ。気づけて良かったですね」
「裏切られた気分だ!! ええい、皆さん、早くあの乱闘を鎮めてください!! 彼女にはしかるべき処分を与えねば!!」
しかるべき処分。
やりましたね、上官。ついに降格ですよ!
――と、我々部下一同が喜んでいいのか悪いのか、微妙な空気になった時のことでした。




