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偉すぎステイリィの降格奮闘記  作者: ふっしー
5/6

問題大解決


 いつまでも玄関に立たせておくわけにもいかないので、私はキビスィー氏を支部長室へ案内することにしました。


「……むむ、妙に埃っぽいですね。ちゃんと掃除はしているのですか?」

「そうですか? 気のせいでしょう?」

「ヘックショイッ!! ……私、埃が多いとくしゃみが止まらなくなるのです」

「それはきっとコショウですよ。ほら、コショウって鼻がムズムズするでしょう?」

「いえ、コショウがこんなところにあるわけがないでしょう。ヘックショイ!! 全く掃除が行き届いていないということですね」

「ええ、この支部は忙しくて掃除をする暇もないのですよ」

「……ほほう、それほど忙しいのですか。……ヘックショウェイ!!」

「ええ、そういう設定になってますから」


 クシャミを連打する視察員に、皆笑いを堪えるのがやっとですが、これでこの支部の汚さは伝わったはず。

 支部の衛生状態も支部長の管理責任ですから、これは評価が下がるに違いありません。


 ――しかし。


「……す、素晴らしい……!!」

「……は?」

「実に素晴らしいと、そう思ったのです!! ヘックショイ!!」


 ……さて、このお方は一体何を言っているのでしょう。

 もしかしてあまりの汚さに頭が壊れたのでしょうか?


「あのー、私達が言うのも何なのですが、超汚いこの支部の、一体どこが素晴らしいというのでしょうか?」

「どう考えても素晴らしいではないですか。貴方もおっしゃいましたよね。忙しすぎて掃除をする暇がない、と。そりゃあそうですよね。ステイリィ氏のような英雄的な存在が、掃除をするなんて暇が出来るはずもない。今日だって忙しすぎてここに来られないのでしょう?」

「えっと、いや、多分遅れては来ると思うのですけど」

「私のためにお忙しい中、わざわざお時間を作って下さるということですよね!? 実に感動だ!!」


 ……あれ? この人本当に厳しい視察員で有名なキビスィー氏なのでしょうか?

 どうも上官のことになると性格が変わったように思えます。


「つきましたよ。支部長室です。どうぞ」


 さっさと彼を部屋に詰め込むと、そこに飛び込んできたものは。


「な、何事ですか、この荷物の数々は……!!」

「なんでしょうねぇ」


 上官が降格をすると宣言して以来、彼女はというと全く仕事を手につけることをしなかった。

 おかげで彼女の机の上には書類が積みあがり天井に届くほどの高さに。

 それだけではございません。

 彼女が私物として持ってきている数々のウェイルグッズによって部屋の一室は占拠されています。

 ウェイルを象ったオーダーメイドの等身大フィギュアに、彼が鑑定した品のコレクションの数々。

 彼の書いた公式鑑定書を額に入れて飾るほどです。

 暇つぶしにと集めた数え切れない数のボードゲームと、ついでに解きかけのナンプレも、その周辺に転がっておりました。


「これ、全部未処理の書類ですか……!?」

「ええ。サインどころか目すら通していませんよ」

「こっちの私物はほとんど勤務に関係ないものばかり!? ウェイルって誰ですか!?」

「彼女がいつもストーカーしている相手ですよ」

「治安局員がストーカーですと!?」


 お、キビスィーさんがプルプル震えています。

 これはもう決定的でしょう。

 上官、無事降格確実です!


「なるほど! なんてステイリィ氏は素晴らしいのだろうか!!」


「「「「……………………はっ?」」」」

 

 この場にいたキビスィーさん以外全員が、思わず口をあんぐりとしてしまいました。


「このウェイルってのが今彼女が追っているターゲットということですね!? そうなんですね!?」

「え、ええ、いっつも追っかけていますよ。迷惑なほどに、粘着質に追っかけていますよ」

「やはり! なんてステイリィ氏は素晴らしいのだ!!」

「……あの、つかぬ事をお伺いしますが、どうして素晴らしいんですか?」

「だってこのウェイルという男、ステイリィ氏が今捜査している極悪犯罪人なのですよね!」

「…………えっと、確かに罪作りな男ではありますけど」

「やはり犯罪者でしたか!! このフィギュア、本人の等身大ですよね!? これだけの詳細なモデルがあれば、奴の姿を間違うこともないでしょう!」

「間違うことはないでしょうね」


 彼女は犬以上にウェイル氏に対する嗅覚は凄いですから。


「またこの『ウェイルさんが使った物コレクション』ってのも、現場から押収した証拠品!!」

「彼の私物を盗んだという意味では証拠品でしょうね」

「挙句の果てにはこの額に入れられた書類。これはウェイルという男の筆跡でしょう!? これで以下にこやつが姿を変えようとも筆跡鑑定から特定できるということですよね!!」

「彼は筆跡鑑定をする方ですけどね」


 どうも私の突っ込みは総スルーで、彼は感動している模様。


「それでこのウェイルとかいう男の罪は何ですか!? 殺人!? 強盗!? 放火!?」

「上官への放置プレーですかね」

「ステイリィさんに対して放火したと!? なんて恐れ多い犯罪者なんだ。しかしステイリィさんが動いているならもう安心ですね。事件は解決したと言ってもいいでしょう」

「……解決も何も、そもそも何も起こってないんですが」

「ステイリィさん、怒ってないんですか!? なんて心の広い方なんだ……!!」

「中途半端に言葉を拾う人ですね、貴方は」

「それで忙しすぎてこの書類を見通せないと。それは仕方ありません。私から本部へステイリィさんは今任務で忙しく書類仕事などする時間もない。遅れても少々目を瞑れと、進言しておきます」

「えっと、あの、ありがとうございます」


 なんというか書類問題が全部片付いちゃったんですけど、どうしたものでしょう。


 そんな我々部下一同が苦笑するしかない空気を打ち破るように、ババンと扉が開かれて部下が一人駆け込んで来ました。



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