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偉すぎステイリィの降格奮闘記  作者: ふっしー
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厳しい視線

 ――三日後。

 ステイリィの指示により、一切の掃除をすることなく、あえて汚すように心掛けていたソクソマハーツ支部は、それは見るも無残な汚さを誇る支部へと変貌し、本当にこれから視察を迎えるのか疑問を覚える――それ以上に申し訳なさすら覚える状態となっていた。


「ついに来たぞ! この時が!! 見てみろ、この汚い過ぎる支部を!! うまくいけば十六人会議から抹消されるはずだ!!」

「頑張ってくださいね。私も応援します」

「ありがとうビャクヤ!! もし私が降格した暁にはお前にはこの支部を任そうと思う。後は任せるぞ!!」

「ちゃんと掃除してから任せてくださいね。それともしそうなったら私に敬語を使わないと殴りますよ? 上官」

「ふん、尊敬語から謙譲語まで、なんでも全部使い尽くしてやるわ!! さあ、諸君、張り切って視察員を迎えておいてくれ!」

「迎えておいてくれ……? あの、上官が迎えるんじゃないんですか?」

「迎えるわけがないだろう!? ビャクヤ、お前は実にアホだな!!」

「貴方に言われるのだけは心外ですが、一体何をするつもりなんですか?」

「私は今日、わざと遅刻する!!」

「……ああ、なるほど」


 この上官、自分の評価を落とすことについては天才的でした。

 何せ普段どおりの行動をすればいいわけですから。


「でも上官はすでに出勤なされているではないですか。一回帰るんですか?」

「帰るわけがないだろう!? ビャクヤ、お前は実にアホだな!!」

「貴方に言われるのだけは心外ですが、一体何をするつもりなんですか?」

「私はこれから、酒を飲んでくる!!」

「……ああ、なるほど」


 想像以上の天才でした。


「酔っ払って、しかも遅刻してくる私の姿を見て、視察員がどんな顔をするか、今から楽しみだ!!」

「きっと上官が思っている以上にギョッとするでしょうよ。貴方一応治安局の中では英雄扱いなんですよ?」

「そんな扱いなど知った事か!! では私は酒を飲んでくる! 後は任せた」

「はいはい」


 意気揚々と勤務中に酒を飲みに行く上官は、まさに糞上司の鑑ですね。


「あ、あのビャクヤさん。ステイリィ上官、財布忘れていってますけど……」

「あの人ってば、遅刻、泥酔出勤に加えて無銭飲食まで追加するんですね……」


 ……もはや天才の域を超えているかも知れません。





 ――●○●○●○――





「本日このソクソマハーツ支部を視察いたします、私、名をキビスィー・シセーンと申します」

「何度聞いても実に厳しい視線をしていそうなお名前ですね」

「ええ、よく言われます。それでは皆さん、よろしくお願いします」

「えっと、はい、よろしくお願いします」


 ステイリィ上官が意気揚々と酒を飲みに行った一時間後。

 ついに本部から視察員がやってきてしまいました。

 当然の如く上官は帰ってきておりません。

 きっと視察のことなどすっかり忘れて飲みあげていることでしょう。

 早速残された部下一同、上官の立てた作戦通りに行動開始です。


「さて、視察の前にまずこの支部の支部長であるステイリィ氏と面会したいのですが」

「えっと、実はですね、ただいま上官はとある用事で留守にしておりまして」

「ほほう。それはすぐに終わる用事ですか?」

「え、ええ、おそらくそうかと存じます」


 あの人がどれだけの量の酒を飲むか検討もつきませんが。

 さて、超厳しいと噂のキビスィー氏が、これからどのような顔を青ざめさせていくか、少しだけ楽しみです。


「そうですか。いやー、是非とも早く会いたいものです。何せ彼女は私にとって命の恩人なのですから」

「え……? そ、それは一体どういう?」


 少しばかり雲行きが怪しくなってきた気がしてならないのは私だけでしょうか。


「ステイリィ氏は以前『大監獄コキュートス』にてテロリストから私の命を助けてくださったのです」

「あ、ああ、そういえばそんな事件ありましたね」 龍と鑑定士 第十四章参照

  

 このアレクアテナ大陸最大の刑務所である『大監獄コキュートス』にテロリストが侵入した事件がありまして、それを解決したのがステイリィ上官ということになっているのです。

 当然実際には違うのですけど。

 しかしまさかその時の関係者が今回の視察員とは、実についていない。


「それからというもの、私の中の治安局員としての理想像は、常にステイリィ氏でした。部下を思いやり、鼓舞し、さらには自ら先頭に立つ。年下ながら尊敬できる人物です。早くお会いしてあの時のお礼をしたい」

「あ、あははは、そうですか。大丈夫、そのうち戻られますよ」


 目をキラキラと輝かせる視察員さんに、少しばかり同情してしまいました。

 何せ彼が尊敬する人物は、現実にはいつクビになってもおかしくない、勤務態度最悪の局員なのですから。

 彼を失望させるのは可哀想ですが、逆に言えば失望してくれる方が上官の降格が早くなるってものです。

 しかしその逆、もし彼が心底ステイリィ上官のことを心酔していたら。

 多少のことは目を瞑るかも知れません。


 ……さて、この怪しすぎる雲行きはどちらへ転ぶのでしょうか。


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