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偉すぎステイリィの降格奮闘記  作者: ふっしー
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私は、無駄に偉い。


「ぎゃあああああああああああああああああああああッ!! も、もう無理だあああああああああああああああああああ!!」


 山のように積み重なった書類、続々と押し寄せる部下からの報告。

 右手に持ったハンコは、連日の連打によって潰れかけ、もはや文字として読めるかどうか判らないレベルになっております。

 そしてそのハンコ以上に、その持ち主は限界を迎えたようで、ついに発狂するまでに至ったという次第です。


「ど、どうしてこんなに書類が溜まっているんだ!?」

「それはステイリィ上官が一週間近く仕事をサボったからでしょう?」

「ええい、それ以外の理由があるはずだと思って聞いたんだ!!」

「それ以外に理由は何一つありません」

「このままだと私は死んじゃうぞ!?」

「死んでもいいですが、仕事が終わってから死んでください」

「あ、悪魔か、お前は!?」

「はい。悪魔的に美人な秘書だとよく人に言わせてます」

「言わせてるのかよ」


 妖艶で華麗だと噂されるこの私、名前を『ビャクヤ・サントレア』と申します。


 そしてこのぶつくさと文句を垂れつつ、死んだ目をしながらハンコを押し続けるのは、我らが上官、『ステイリィ・ルーガル』さん。

 見た目はドチビで貧乳、性格は生意気で自分勝手という救いようのないカス女(25歳)ですが、こう見えて我々の組織の英雄なのです。

 彼女の立てた武勲は両手で数え切れないほどですが、実は全て偶然であり、たまたま近くに居合わせ、手柄を拾っただけであったりします。

 私はそんな運の良すぎる彼女の秘書官をさせていただいております。


 この『芸術大陸アレクアテナ』における唯一の警察組織『治安局』。

 構成員15万人を超える大組織の中で、彼女はその中での序列17位という、超エリート局員なのです。

 つまりとても残念なことですが、彼女は本当に、無駄に偉いのでした。

 

「あ、今日は欲しかった参考書の発売日だった!! 買ってくる!!」

「上官みたいなバカが参考書なんて買うわけがないでしょ? 嘘は駄目ですよ」

「くううううう!! 誰がバカだ、誰が!!」

「だからステイリィ上官、貴方のことですよ。嘘が下手すぎですよ」

「確かに今のは嘘だが、バカというのは訂正しろ!!」

「はいはい、貴方は頭が良い最高の上官です。最高です。天才です」

「言い方が雑だ。心の奥底から言ってないだろう」

「ですが嘘だと判ったので外に出すわけには行きません。あ、ちなみに私も今嘘をつきましたよ」

「何だと!? そしてどうして嘘だとバレた!?」

「さて、どうしてでしょうね。いいからさっさとこっちの書類にもサインを下さい。もうハンコは全部潰れちゃいましたから」

「ぬおおおおおおお!! これに全部サインとな!? 無理だ!! 遊びに行きたい!!」


 ご覧の通りドがつくほどのアホなのですが、これでも序列17位。

 こんなのが大幹部だというのですから治安局という組織の未来は一体どうなってしまうのだろうかと、今から心配にもなるものです。


「そうだ、有給休暇を取ろう!!」

「駄目です」

「何を言っている!! 有給休暇を取るのは私の権利だろう!? 誰も私の権利を侵害できんぞ!!」

「あらやだ、上官。貴方の有給休暇はすでにゼロじゃないですか」

「そうだった!? 全部使ったんだった!?」

「だから潔く働いて下さい」

「……待てよ。私ってエラいよな?」

「エラいですが、残念なことにエロくはないですよ。幼児体型ですし、何より貧乳ですから」

「誰がエロと言った!? エラいかと聞いたんだ!! そして貧乳の何が悪い!?」

「ニッチな需要がありますよね」

「その通りだ!!」

「偉いかどうか聞かれたら、そりゃ偉いでしょ。序列17位なんですから」

「だろう!? 私は17位なんだろう!? つまり私の権限で残りの有給休暇を10倍にするってのはどうだ!? いや、ついでだし17倍で行こう!!」

「いくら0を10倍にしても17倍にしても、0は0のままですよ? バカですか?」

「そうだったあああああああああああああああ!?」


 そんなバカな叫びを上げる私達の上官様。

 しかしこの時の私は、まさかステイリィ上官が今以上にバカなことを言い出すとは予想だにしていませんでした。


「くそ……、どうして私がこんな目に遭わないといけないんだ……」

「一週間も仕事をサボったからです」

「新しく買ったクロスワードパズル集が難しくて解けなかったんだよ!!」

「全部終わったのですか?」

「半分しか終わってない」

「半分も出来たのですね。上官にしてはよく頑張りましたね。誉めてあげます。頭撫でてあげます」

「うわあい! ……って、お前バカにしてんだろ!?」

「決してそんなことは。とっても尊敬しています」

「そうか。なら良い。……って、そういう話じゃないわい!! どうして私にばかり仕事が大量にあるのか、それを答えろと言ったんだ!!」

「一人ノリツッコミまで出来るんですか。素直に尊敬です」

「そうか。なら良い」


 周囲も彼女の姿を見てクスクスと笑っていまして、だからこそ彼女は部下から人気があるのだなぁと思いました。

 主にマスコットキャラとしての人気ですが。


「……しかし、そうですねぇ……。仕事が多すぎる原因は、おそらく無駄に偉いからじゃないですか?」

「無駄に、偉いから?」

「ええ。偉ければその分仕事が沢山回ってくるのは仕方ないでしょう?」

「ほむほむ。確かに」

「逆を言えば偉くなければ、そこまで仕事をしなくていいわけです」

「偉くなければ、か」

「上官ってトントン拍子に出世したって聞きましたけど、それって自分が望んだ結果なんですか?」

「そ、そりゃ最初は出世を目指していたけど……。いつの間にかアホみたいに階段を昇っていたな……。階段八段飛ばしくらいの勢いで昇った」

「そんなに足長くないでしょう? 足が短い癖に見栄っ張りですね」

「例えだろ!?」

「しかしそのせいでしょう。無駄に偉いから仕事が多い。至極単純明快な答えじゃないですか」

「無駄に、偉い……か」

「さて、原因が判ったところで、偉くなった自分の責任を果たすために仕事をしてください」

「無駄に偉い、か……!!」

「ええ。無駄です。どれくらい無駄かと言うとステーキの横に添えられたニンジンくらい無駄です。さ、これにサインを」←ニンジン嫌い

「判ったあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ひゃあ!?」


 突然の咆哮。

 天を仰ぎ、目が血走っている点は笑うべき点でしょうか?


「決めた!! 私は決めたぞ!!」

「……えっと、何をです?」

「私は、偉い!! (どどん!!)」

「自分でオノマトペまで発しますか。流石です」

「私は偉い!! だから仕事が多いのだ!!」

「全くその通りです。早くこっちの書類にもサインください」



「だったら――偉くなくなればよいのだ!!」



「……………………はっ!?」


 その場にいる皆が硬直し、お口をあんぐり。

 無論私もお口あんぐり、よだれが垂れてしまいそうです。


「え、えっと、上官、今度は何を訳の分からないことを言い始めたんですか?」

「なに!? 貴様訳が分からないだと!? おつむの弱い奴め!! 知性という概念を母親の胎内に忘れて来たんじゃないのか!? 一回取りに戻ったらどうだ?」

「黙れこのクソ上司」

「実に反抗的な奴だ。本来ならクビにしてやるところだが、まあいい!! 何せ今の私は最高に気分が良い!! なんて今日は冴えている日なんだ!! むしろどうして今まで気づかなかったのか!!」

「クソ上司、さっさと詳細を話してください」

「よかろう!! 頭の悪いビャクヤにも判りやすく説明してやろう」


 後でこいつの飲むコーヒーの中に、下剤をぶち込んでやることにします。


「簡単な話だ!! 偉くなくなればいい!! つまり私はこれから降格するための行動を始める!!」

「……また訳の分からないことを……」

「降格して平局員くらいに戻れば遊び放題ではないか!! 今の地位は本当に無駄に偉すぎた!! 私は私に相応しい地位に立ってやる!!」

「雑用係まで落ちるってことですね。確かに雑用、お似合いです」

「ふん、それでも今の地位よりはマシだ!! いいかお前ら!! 私はこれから降格する!! お前らも手伝え!! これは上官命令である!!」

「そこまで仕事が嫌ならいっそ退職したらいいのに」

「バカ野郎!! そしたら遊ぶお金が一切なくなってしまうではないか!! 愛しのウェイルさんをゲットするためのプレゼントも買えない!!」

「そのプレゼント、いつもそっぽを向かれていますけど。それどころか捨てられていましたけど。私が拾って、ストレス溜まった時にブン投げて遊んでますけど」


 そりゃステイリィ上官の形をしたコケシなんて誰が欲しがるものでしょうか。


「これは決定事項だ!! お前達、私が降格してお前達より下の立場になるために、この私に協力しろ!! これは上官命令だ」


 ふんぞり返って机の上に立って、実に意味不明な命令を下すステイリィ上官。

 いつか飽きることとは思いますが、とりあえずしばらくは面倒なことになりそうです。




 ちなみに次の日、上官は一日中トイレに篭っていたのでした。

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