第1話 憂鬱からの脱出
生まれてこの方、太陽というものを見たことがない。
否、見たことあるのかもしれないが、物心がつき始め
たころには既にこの地下生活を営んでいた。
「ねぇ、アレッシィ!次は礼拝の時間でしょ!?
いったいどこ行くつもりなのよ!」
ぞろぞろと長蛇のごとく並ぶ、礼拝堂に行く子供達の流れに逆らい、玄関口へと一直線に走っていく。
すると一際大きな声が俺の耳をつんざいた。
俺はそろそろと後ろを振り返って声の主を確認する。
予想通り、こうるさい孤児院の先生だ。
彼女は礼拝堂の前の扉でしかめっ面をし、手を組みながら仁王立ちして俺の方を睨んでいる。
「アレッシィ、ここから出られるのは大人が同伴するときだけよ。地下街には危険がいっぱいだって何度も言っているでしょう?」
どこに行くつもりなの、なんて言っといて、俺が行くところくらい見当がついているらしい。とはいえ、地下で行きたくなるようなところなんて地下街以外に無いようなもので、見当をつけるのも容易なことだとは思うけれど。
俺はすぅ、と息を吸って先生に身体の正面を向けて突っ立った。
「毎日毎日寝て食って礼拝して。
そんなつまんねー生き方すんなら、危険な方がよっぽど楽しいっつーの!」
そう声を張ると、俺はぐるりと体の向きを変え、一目散に駆け出した。後ろから先生が何か声高に叫んでいるのが聞こえる。その声は駆けるにつれてどんどん遠くなって、この陰湿な孤児院からの出口はどんどんどんどん大きくなっていく。
扉に手をかける瞬間、先生がひときわ大きな声で言い放ったのが聞こえた。
「そんなことしてたら、神様が怒っちゃうわよ!!」
「神様なんて、いねーっつの。」
ぼそりとそう呟き、がっと扉を開けて顔を上げると、十数段の茶色い階段がオレンジ色のランプに照らされた石畳の通りへと繋がっているのが見えた。
意気揚々にその階段を駆け上がっていくと、がやがやと賑やかな地下街の雰囲気に包まれていくのがわかる。すっかり登りきって地下街の地に足をつけると、異様なまでの興奮が俺の身体を襲った。