第2話 襲来
前例のない大規模な日照りが続き、国内が大飢饉に見舞われて一月が過ぎた。
小規模の雨は何度かあったが、それも長続きせずに日照りは続いている。
幾度かあった小規模な雨のおかげで飲み水には困ることがなくなったが、作物を育てる為に使用できる量はいまだに確保出来ないでいた。
そこで、僕は父へある提案を述べた。
「父様。我が領内で魔法を使える人間は何人ぐらいいるのでしょうか?」
「そうだな、力の差はあれど半数近くは使えるのではないか?
それがどうした?」
「では水や氷の属性の魔法が使える人間はどれくらいか判りますか?」
「・・・・一体なにが言いたいのだ?」
「はい。魔法で作り出した水や氷は飲み水としては適さないのは承知していますが、作物にはどうなのかと思いまして・・・」
自信がない提案ではあるが、言い終えて僕は父の顔を見上げた。
父は両目を一杯に開いて僕の顔を見てからしばらくして目を閉じてから口を開いた。
「・・・・成る程。魔法で水を作って作物を育てるか、盲点だった」
父は僕の頭を大きな手で撫でると急いで領民へ布令を出し、早馬を王都へ送った。
結果。魔法で作り出した水で作物は問題無く育ち、大飢饉は少しづつではあるが収まりつつあった。
だが、しばらくして新たな事件が起こった。
食料が少しづつゆとりを見せた頃、森の奥から食料を求めてゴブリンの群れが近隣の村々を襲い始めたのだ。
「困ったことになった」
家族揃って昼食を摂っていた所へ執事長のロベルトが持ってきた報告書に目を通してから父が僕達へ話し始めた。
「ライルの提案によって食料難が解決したと思った所に辺境の村がゴブリンの大群に襲われたらしい」
ゴブリンは普段は人間の集落を襲うことはないが、今回は食料を求めて集団で襲ってきた様だ。
「報告によると、突然の襲撃により村人の対応が遅れ、食料だけではなく若い娘達も攫われてしまった様だ」
父は襲撃された村人の報告書の内容を物悲しくも怒りを込めて語った。
ゴブリンは知性こそ低いが性格は凶暴であり、いかなる種とも交配が出来、特に人間の女性を好んで襲うことで知られている。
今回の襲撃で攫われた娘達の事を思うと皆胸が張り裂ける様な思いであった。
「父上。先程大群と言われましたがどれほどの数なのでしょうか?」
双子の兄ラトスが父へ尋ねた。
「30匹~50匹の間の様だ。
これほどの数となると迂闊に手が出せん」
「ですが攫われた娘達の事を考えると気の毒ですわ」
双子の妹のアリス姉さんが悲しそうに言った。
「判っている。
とにかく領内の冒険者ギルドへ依頼を出しておこう」
父は控えていたロベルトへ指示を出し、食卓を後にした。