第43話 招待
僕が滞在中の宿の厨房で料理を作り始めて5日、ようやく昼のピークが治まって小休止していると、宿の支配人から僕へ来客の報せを受けたので応接室へ向かった。
「失礼します」
僕が応接室へ入ると、あからさまに役人と思われる老年の男性が椅子に腰を掛け、その人物の護衛と思われる騎士が両脇に控えていた。
「貴方がこの宿の料理長のライル殿ですか?」
僕が応接室に入ると、老年の男性が椅子から立ち上がって尋ねて来た。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。
ライルは僕ですけど、僕はここの料理長ではありません」
僕はこちらの事情を説明すると、相手の素性を尋ねた。
「これは重ねて失礼致しました。私の名はザイルと申します。
この国の宰相の補佐役の様な事をしておりまして、この度は貴方様の作る料理の噂を聞きつけた王の命により、貴方をお迎えに参りました」
「それは命令でしょうか?」
「いいえ。貴方はこの国の人間ではない様ですから、これは我が王からの招待です。ただ、貴方様の今後の為にも断られないことをお勧め致します」
「先程も説明させて戴きましたが、僕は現在冒険者として雇われている立場ですので、僕の一存では即答出来ません」
僕は出来るだけ穏便に返答した。
「そうですか。・・・では明日のこの時間にもう一度伺いますので、その時にお返事をお聞かせ下さいますか?」
ザイルさんは僕の返事を聞くと、しばらく考えてから提案してきた。
どうやら断る事は難しそうだ。
「判りました」
僕はザイルさんの提案を受けて、彼等を見送ってからアリー王女の部屋へ向かった。
*
僕はアリー王女の部屋の前に着くと、軽く扉をノックした。
「なんだライルか」
僕がノックすると、アトス兄さんが扉を開けて現れ、ノックの主が僕だと判ると、そのまま部屋の中へ通された。
アリー王女の部屋は僕の部屋と同じ間取りの様だ。
通常の宿は一部屋約6畳程の広さの間取りになっているのだが、この宿ではもう一部屋ついていて、男女で部屋を別けて使用出来る様になっている。
僕は兄さん達が使用している部屋に通されてから、奥のアリー王女が使っている部屋へと通された。
「して何様じゃ?」
僕はアリー王女へ先程の一件を説明すると、今後の対応をどうすべきか訊ねた。
「そうか。ようやく動きがあったようじゃな」
アリー王女は僕の話を聞くと、僕に先方の依頼を受ける様に話が決まった。
「つまり王女の思惑通りと言う訳ですか?」
「うむ。私がこの国へ来た目的の為には、疑われることの無い様に王宮へ入れる大義名分が必要だったのでな。
ライルの料理ならば十分に王族の琴線に触れることが出来ると思っていたが、案外早かったのう」
*
翌日、約束の時間にザイルさんが昨日と同じ護衛の騎士を伴って現れた。
「それでは先日の返事を聞かせて頂けますか?」
「そちらの招待をお受けするのに、条件を一つ付ける事をお許し下さいますでしょうか?」
「・・・・お聞かせ下さい」
「先日もお話致しましたが、僕は冒険者としてある人物の身辺警護の依頼を受けています。
ですので、依頼主と冒険者仲間の同行をお許し下さいますでしょうか?」
「・・・・判りました。その程度の事でしたら大した問題にはならないでしょう。
ではライル殿には明日の朝に迎えを寄越しますので、万事抜かりの無い様にお願い致します」
僕はザイルさん達を見送ると、アリー王女へ報告してから、支配人へ事情を告げると、明日の準備の為にサキとレイアを連れて買い出しへ出かけた。




