第33話 決着
僕は飛龍から支配を受け入れる条件として一対一の戦いを申し込まれ、僕はその条件を受け入れた。
「それでは本気で行きますよ」
「遠慮無くどうぞ。
私としても貴方の本気を見せて戴きたいのですから」
僕は飛龍から了承を得て、今回は周囲の視線を気にする事なく、今まで出す機会と相手に恵まれなかった自分の本気を出す決意を固めた。
「戦闘の巻き添えを受けるから黒狼は下がっててもらえるかい?」
黒狼は僕の警告を受けてこの場から十分に距離を取った。
「それでは改めて・・・・」
僕は覚悟を決めると、始めに身体強化魔法を強めに使用し、新調した剣と鎧にそれぞれ雷属性と風属性の魔法を付与した。
「その魔法は先程の戦闘で拝見しましたが、こうして自分に向けられるとなかなかに厄介ですね」
「そのわりには随分と冷静ですね」
「初見であれば私も苦戦は免れなかったでしょうが、先程の戦闘である程度の対応策は考えられましたからね」
飛龍はそう言うと、何かしらの魔法を使用した様だ。
僕は飛龍が使ってくる魔法攻撃を警戒したが、次の瞬間飛龍の全身が光り出し、その身体は次第に縮んで行き、最後にその姿は人型へと変化していた。
「まずはこんな対応策はいかがですか?」
そこには人化した飛龍が余裕の笑みを浮かべて佇んでいた。
その姿は翼の生えた 蜥蜴人間に近いもので、全身を覆う鱗は 飛龍の姿の時よりも堅牢さと俊敏さが窺えた。
「成程。これは想定外でした」
「それでは始めましょう!」
飛龍は戦闘の開始を宣言すると、鋭い爪を広げて凄まじい速さでの突進攻撃を僕は辛うじて剣で受け止める事が出来たが、相殺しきれなかった攻撃の衝撃によって僕の身体は数メートル突き飛ばされた。
「腕が・・・」
飛龍の攻撃によって、手に持った剣は弾き飛ばされ、腕には痺れが残っていた。
「武器を使えなければもうお終いですね。諦めて降参しますか?」
飛龍は僕の腕の状態を見て話し掛けて来た。
「御心配なく、剣が無くてもまだ戦えます」
「では遠慮無く!」
飛龍は僕の戦意がまったく衰えていない事を確認すると、大きく息を吸い込んだ。
僕は飛龍の次の行動を予測すると、鎧に施した風属性の付与魔法の効果を高めて飛龍の攻撃に備えた。
次の瞬間。飛龍は自らが突き飛ばしたことで距離の拓いた僕に対して、口から凄まじい火炎を吐いて攻撃してきた。
飛龍から放たれた炎が僕へ直撃して、そのまま後方へ突き抜けて行った。
「そんな!直撃だった筈です」
飛龍僕の周囲が攻撃の影響を受けていないことに驚愕していた。
僕は鎧に付与していた風属性の魔法を活性化させることで、炎が直撃する瞬間に風の防護膜を発生させて、飛龍の攻撃を凌いでいた。
熱による軽い火傷は負ったが、致命傷を受ける事は無かった。
「今度はこちらから行きます」
僕は飛龍へ答えると、修行中に編み出した魔法を唱え始めた。
飛龍は僕の攻撃を警戒していたが、僕はそんなことには構わずに標的へ向けて水属性の攻撃魔法を放った。
僕が腕を振りかぶると高密度に圧縮された水の刃が飛龍へ襲いかかる。前世ではウォーターカッターと呼ばれ、金剛石ダイヤモンドの加工等に用いられていた技術で、僕は[水刃]と名付けた魔法だ。
飛龍は僕の攻撃に警戒していたが、凄まじい勢いで放たれた僕の[水刃]を回避する反応が僅かに遅れ、左肩にある翼が半分程切断された。
「痛っ!・・・なんですかその魔法は!
龍族である私の身体を傷付けられる程の高度な魔法を貴方の年齢で自在に操れるなんて信じられません」
飛龍は切り裂かれた自分の翼を手で押さえながら抗議してきた。
「水属性魔法を高密度で圧縮した物です。
魔法は使用者の持つ魔力と、発動する魔法の効果をより鮮明に想像イメージすることで術者の言霊によって発動します。
大事な事は想像力の豊かさにあります。年齢は関係ありません。」
「貴方は、今自分の放った魔法の威力が規格外な事を自覚出来ているのですか?」
「当然自覚しています。
そうでもなければ今回の様な危険な仕事を1人で受けていませんよ。」
「成程。己の能力に自覚はある様ですね。
良いでしょう。私は貴方の支配を受け入れます。
このまま戦い続ければお互いにタダでは済みそうもありませんし、正直貴方の言う様に外の世界に興味を惹かれたのも事実ですしね」
飛龍はそう言うと、戦闘形態を解いて元の姿へ戻り、僕の支配を受け入れた。
ちなみに僕の魔法によって切り裂かれた翼も、僕の光魔法で治癒しておきました。




