第31話 脱皮
僕と黒狼は、脱皮の為に動くことが出来ない飛龍を守る為、襲撃者であるコボルドの群れと交戦していた。
「そこの黒狼!お前は我等に近しい種族のクセに我々よりも人族や飛龍に荷担するのか!」
目の前にいるコボルドの1体が黒狼へ向けって叫んだ。
「私の主は唯一ここにいるライル様1人だけだ!
例え同族といえども、ライル様の敵となるのなら私の敵だ!」
「ここでこの飛龍を倒しておかなければ、いずれはここに住む同胞が餌食になるかもしれない。
倒すなら脱皮に入って動けない今しかないんだ。それが何故判らない!」
「この飛龍は無闇に他者を襲う様な奴じゃない。
ここは僕達を信じて退いてくれないか?」
僕は黒狼へ食って掛かるコボルドへ向かって提案してみた。
「人族の言うことなんて信じられるか!
こっちは一族の命運を掛けて勇士を募りこの好機に掛けているんだ。
お前達こそ立ち去れ!今なら見逃してやる」
どうやら交渉の余地は無いらしい。
「ならば致し方ない」
黒狼は自分へ罵倒を浴びせたコボルドへ言うと、相手の首筋を噛み切った。
「ライル様。最早お気遣い無用です。
彼等も一族の生存を掛けて来ている以上聞く耳はないでしょう」
「判った。出来るだけ実力の差を示して撤退して貰おう」
僕は黒狼へ言うと、新調した剣に魔力付与を施してコボルドの群れへ突撃した。
流石に飛龍を相手にする為に新調した剣の切れ味は素晴らしかった。
しかも、それに魔力付与の効果が相俟って、凄まじい威力の攻撃を生み出していた。
具体的に言うと、僕の様な子供の一撃だというのにコボルドの着ている鎧ごと一振りで相手を真っ二つにしていた。
もし僕の身体が出来上がっていて、身体強化の魔法を加えたらどの様な一撃になるのか、考えただけでゾッとする。
「人族のガキが!
みんなアイツを囲め!例えどんなに強力な攻撃も当たらなければ問題無い」
コボルドのリーダーらしい男?が仲間のコボルドを鼓舞すると、コボルド達は僕を囲んで来た。
「ライル様!」
少し離れた場所で戦っていた黒狼が僕の下へ駆け寄ろうとした。
「問題無いよ。自分の戦いに集中してくれ。
場合によってはこの後飛龍との戦いになるかもしれないからね」
僕は黒狼へ言うと、身体強化の魔法を使って俊敏性を上げてから、僕を囲んでいるコボルド達へ対抗した。
本来であれば、僕の様な人族の子供ではコボルドの俊敏な動きに反応することも出来ずに倒されていた筈・・・と、コボルド達は思っていたはずだ。
しかし現実は逆だった。
圧倒するはずの自分達が人族の子供に仲間が次々に倒されて行く。
コボルド達にしてはまさに悪夢の様な出来事だった。
「このままでは全滅する。ここは撤退するぞ!」
コボルドのリーダーは自分達の敗色が濃くなるのを感じて仲間達へ撤退を指示した。
「しかし折角の機会を・・・・・」
「良いから撤退だ!責任は俺が取る」
コボルドのリーダーはまだ納得のいかない仲間のコボルドを叱責して僕達の前から撤退した。
「ライル様。飛龍が本格的に脱皮を開始した様です」
僕は黒狼の言葉に飛龍へ視線を向けた。
すると、飛龍の背には亀裂が走って行った。




