第20話 看板娘
僕が王都に着いて迎えた初めての朝は、宿の女将さんの叩く鍋の音で始まった。
どうやら朝食の時間のようだ。
そういえば部屋を取った時に、女将さんから食事は朝夕決まった時間に済ますように説明を受けた事を思い出した。
その時間を逃すと別料金になる上に料金も二割高になるらしい。
(まぁ、一度で済ますところをこちらの都合で二度手間になるんだから当然かもしれない。)
「さぁ、起きたらさっさと食べておくれ!
こちとら早く片付けたいんだからね」
女将さんはいまだに鍋を鳴らしながら部屋から出て来る客を捲し立てている。
僕はそんな女将さんの逞しさに感心しながらテーブルに備え付けられた椅子に腰を掛けた。
「おはよう。昨夜は良く眠れた?」
僕が腰を掛けると、女将さんに良く似た若い女性が僕の目の前に食事を置いて話し掛けて来た。
「はい。ところで貴女はここの娘さんですか?」
僕は彼女から食事を受け取ると、ふと浮かんだ疑問を尋ねてみた。
「うん。私の名前はミラ。ここの看板娘よ」
「僕はライル。駆け出しの冒険者です。
これからしばらくここでお世話になります」
僕はミラさんへ簡単ではあるが自己紹介をした。
「へぇ、君、冒険者なんだ。
でも君幾つ?見たところ一人みたいだけど大丈夫なの?」
「今年で11歳になりました。
ギルドには特例で登録させて戴き、ランクはCです」
僕はミラさんに証拠としてギルドカードを見せた。
「あら本当。君ってもしかして凄い人?
でも駆け出しって事は本当みたいね。
ギルドカードは見る人が見るとその人の細かい情報が判っちゃうのよ。
これからは気をつけることね」
「ミラさんは詳しいんですね」
「こんな事この世界じゃ常識でしょ。
君よっぽど田舎から出て来たのね」
「やっぱり僕の故郷は田舎だったんですね。
これからも気づいた事があったら教えて戴けませんか?
早く王都の暮らしに慣れたいのでよろしければお願いします」
僕はミラさんに言うと、彼女に頭を下げてお願いした。
「判ったわ。貴方も聞きたい事があったら他の人に聞く前にまず私に聞きなさい。
お姉さんが判る事なら教えてあげるから」
ミラさんは気を良くしたのか上機嫌で僕の申し出を受けてくれた。
「では早速なんですが、冒険者ギルドへの道を教えてくれませんか?」




