ヤンデレと俺とハロウィン
ーーさて、
今日はいわゆる『ハロウィン』というやつだ。「トリックオアトリート」っていうアレだ。
・・・
うん、まあ俺らは高校生だ。
休み時間の間食用のお菓子を持ってきてる奴が大勢いる。
んでだ。
「あー、トリックオアトリート」「なんで棒読み!?」
せっかくだから、朝月に菓子をたかってみる。
「トリックオアトリート」「あー、もー分かった分かった。ほら」
小さく包装された一口サイズのチで始まるチョコを渡された。
「しけてんな〜」「....ただで菓子貰った奴の態度か?それは.....」
うん、なんかヤバそうだ。
こうなったら.....。
戦術的撤退だ!!
「あっ?ちょっ、待った、優ー!!」
朝月がなんか言ってるが気にせず離れる。
・・・
今は例によって昼休みだ。チョコの件で若干朝月とは居心地が悪いので弁当を持って屋上に上がる。
屋上はどこでもそうだと思うが、高いフェンスに囲まれている。
そしてある程度の間隔を空けてベンチが置かれている。
と、そこにーー
「あれ?伊島君?」
黒羽先輩が弁当を広げていた。
・・・
風が気持ちいい。うららかなちょうどいい強さの日差しが心地いい。
まあ、それはさておき、今俺は先輩と成り行きで弁当をつついている。
「いつもここで食べてんですか?」「いや、みんなと一緒にずっといるとたまに一人になりたくなるんです。で、今がその一人になりたかった時だったんです」
「俺、お邪魔でしたかね?」「....!!い、いえ、そんな事ないです!いや、むしろ大歓g.....」
何か言いかけたようだけど....先輩は途中で口をつぐんでしまう。
...心なしか顔が赤いような...?
「えっ、ちょっと大丈夫ですか!?熱あるなら保健室に....」「い、いえ問題ないです。ぜ、全然元気です!」
嘘だな。言葉に全然説得力がないぞ。
「倒れてからじゃ遅いですよ!運び込む人たちの労力も考えてください!」
「あ、じゃあその時は伊島君が運んでくれますか?」「え、なんで俺が!?」
おい、コレ....マジでヤバくないか?
熱で思考回路ショートしてんじゃないか?
「あ、そうだ」
?
「今日はハロウィンでしたよね?」
??
「えー、トリックオアトリート!!」「.....」
弁当を食う為だけのつもりで来たから菓子なんて持ってない。
「....?トリックオアトリート!!」「あ、いや、そのぉ....」
名前がルで終わるチョコはどうしたか?とっくに美味しくいただきました。
「どうしましたか?もしかして持ってないんですか?」「.....はい」
先輩は無邪気に笑っている。
気のせいか顔の赤みが取れている。
「じゃあ、イタズラしちゃいます☆フフッ」
え、ちょ、まっ.....、何をする気だ。
・・その頃の教室・・
「.....」「あれ?朝月君。伊島君と一緒じゃないの?」「....やあ、柳來さん。なんか授業終わったら弁当持ってどっか行っちゃったんだ....」
力無く笑う千秋。
「へー、で、なんでそんな元気がないわけ?」「あー、元気なさそうに見えるの?」
「当社比3割減って、ところかしら」
「あははは....」
と、そこで教室の戸口に
「朝月先輩、ちょっと」「ん?先輩?あ、神無月さん」
その特徴的な瞳でクラスメートの視線を集めてしまう翡翠。
「どうしたの?」
さりげなくクラスメートのいる向きと翡翠の間に立つ千秋。
「部長さんが何かの用事で呼んでましたよ」
「え、そう。ありがとう!じゃあ、また放課後にっ!!」「...はいっ!」
・・・屋上・・・
「.....ッ」「〜♩」
「何を....する気ですか」「こういうシチュエーションでやってみたかったことでーす☆」
碌なことにはならない予感のアラートが鳴り止まない。
と、いつの間にか先輩が距離を詰めて来ているしっ!!
思わず後ろに退くーーーって、しまった!屋上の入口から遠ざかっちまう!
「....(アワアワ)」「〜〜♩」
なんでっ!何でこの先輩はこんな嬉しそうな表情を浮かべてんだ!?
ガチャァン!!
ついに背中がフェンスに当たる。
先輩の腕が俺の肩に回されて....え?
コレってアレか?まさか無いとは思うがアレなのか!?
頬に当たる温かい感触.....。
「わーっ!わーっ!」「何です?急に大声なんか出して(クスクス)」
何やってんの?ねぇ!この人俺をどうしたいの!!?
「慌てふためく伊島君、かわいいです」
・・・
.....その後の事はあまり覚えていない。
アレか?いつもからかってる仕返しか?
....やり過ぎだ。
ううむ、まさかあの先輩が俺になんらかの....、無いか。
と、こんな感じに自問自答を繰り返していたらいつの間にか放課後だった。
バサッ!!バサァッ!
ん?なんだ?....ノート?
ノートが突然俺の机に投げ置かれた。
飛んで来た方向を見てももう誰もいなかった。
ページに折り目が付いていたからそのページを開くとーー今日の授業の内容のようだった。
....書き写せって事か?誰がそんな事を?
...普通表紙に名前書くよな。
『桂木 レイラ』
.....えっ!?
・・・
「ただいま〜」
なんだ、なんなんだ今日は!!
いろいろ精神的に疲れたわぁっ!!
「お帰りなさい、兄さん」
「あれ?今日は部活無かったのか?」
奏が奥から出てきた。
「えーと、今日の夕ご飯なんですが...今日はハロウィンなのでかぼちゃを使った...って!?どうしたの!?その顔!?」
素か?今のは素か?敬語が飛んだぞ。
「あ、顔が真っ赤です。どうしたんですか?」
あ、元に戻った。って、顔!?
「まるで茹でたタコみたいですよ」
....昼間の様子のおかしかった先輩状態か。
「....!」
奏がヒョイと腕を伸ばして俺の制服の肩から何かをつまみ上げた。
....髪の毛?長いからあの時に先輩のが落ちたのか?
奏の目が一瞬鋭くなった気がした。
ゾクリッ!!
突然背中に氷を入れられたかの様な感覚が走った。
「....で、どうしたんです?その顔は?」
心なしかさっきまでとは別人の様な声に聞こえる。
「....?あれ、いつも通りに戻ってますね」
どうやら俺の顔色と一緒に奏もいつも通りに戻ったようだった。
・・・
......。
...........。
........それにしても。
ホントにあの人は何であんなことを?
あんなことされちゃ今までの様な平常心で話せないじゃないか...。
.....まあ、明日からの事なんか考えず今は寝るか.....。
・・・
「伊島君......フフッ」
なんか.....いろいろごめんなさい。