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交易の街

 フィベウス王国へ行く前に、まずは剣の修理をしなければならない。ということで、リリンから紹介を受けた店を最初の目的地とした。


 店のある街までの距離は、あの村から徒歩で五日。剣が折れた状態でもし戦うことになったならと不安だったのだが――道中モンスターに遭遇することもなく、ひたすら移動を重ね、予定よりも少し早く四日目の夕方に街へ到着した。


「結構、大きいな」


 街道からその街――ファザンクを見た時の感想はそれだった。平原に存在する街は他の宿場町と比べてもかなり大きく、旅人や商人が吸い込まれるように入口へと向かっていく光景が見える。


「ここは、交易中心地の一つですからね」


 隣を進むリミナは俺へと解説する。


「ここにはベルファトラスやレキイス王国の主要な街。さらに南にあるクルシェイド王国からの商人が訪れます。交易品を売買するなら、他国へ行かずここに来た方が良いという場合もあるくらいで」

「なるほど、物の集積地なわけだ」


 街の大きさもそれに準ずるものなのだろう。


「ちなみに、ここはどこの国の領内なんだ?」

「クルシェイド王国の西側に位置する、ナナジア王国です。とはいえ、かなり端の方ですけど」

「違う国なのか」


 知らない内に別の国へとやってきたらしい。


「そしてこの国に、かの英雄シュウがいます」

「リミナの目的も同時に達成できるというわけだな」

「はい」


 彼女は嬉しそうに頷いた。


 やがて俺達は街の入口を通過する。かなり道幅が広い上、夕方にも関わらず左右には露店が軒を連ねている。

 歩いていると聞こえてくるのは商人達が品を薦める声。誰もが他の商人に負けないよう声を張り上げており、こうした光景を目にした機会がなかった俺としては、多少面食らう。


 抱いた感想としては、良く言えば活気溢れる街。悪く言えば騒々しい。

 さらには声以外にもどこからかの喚声や馬車の進む車輪の音。さらに道を行き交う足音などが響き、常時物音が耳から入ってくる。


「リミナ、とりあえず宿を探すか?」


 その騒々しさのため、声を大きくしつつリミナに問う。


「夕方で、店もやっているかどうかわからないし」

「そうですね」


 リミナも同意したので、ひとまず通り沿いに宿が無いかを探し始める。

 その途中で何度も露店の店員や商人から商品購入の勧誘を受ける。旅人だと思ってカモにしようと思っているのかもしれない……何かを探す時には果てしなく煩わしいな、これ。少しばかり辟易しつつ、リミナと共に通りを歩く。


 それからおよそ三十分くらいして、ようやく宿を見つけ出す。大通りに面する場所で、料金は多少高かったが、部屋の内装とかも結構綺麗。


「……商人達の声が嫌で衝動的に入ったけど、少し高かったかな」


 そんなことを呟きつつ、ベッドメイクされた部屋を見回す。お金に余裕はあるのだが、旅をしている以上仕事を請けることもできない。剣の修理費用などを考えれば、少し節約するべきだったか――


「まあ、考えても仕方ないか」


 思い直し、荷物を置いて部屋を出る。それと同時に隣室のリミナも出てきて、俺達は目を合わせ、


「夕食にしよう」

「はい」


 というわけで一階の食堂へと赴く。一階の見た目は今まで泊まった宿とそんなに変わらないのだが、人が食べている料理を見るに、少しばかりランクが高い気がする。


「もうちょい節約するべきだったかな」


 壁際の席に着きながら、思ったことを口にする。すると向かい合って座るリミナは小さく首を振り、


「このくらいなら平気ですよ」

「……そっか」


 リミナが言うなら、とりあえずは大丈夫か――と考えて、俺は未だに金銭感覚も曖昧であることに気付く。

 これまでの旅を思い返せば、指標となるようなものはあるのだが……基本的に宿の手配はリミナにやってもらっているし、屋敷で王子を護衛した以後特に物を購入したこともなかったので、こういったものの相場を完全に把握できていない。

 そう考えると、本当に俺はリミナに甘えていると思う。彼女からは勇者と従士の間柄である以上当然だと言われるかもしれないが……負い目を感じてしまうのは事実。


 前はこうした感情を抱え、屋敷の件で問題が表面化した。以降は意思疎通できていると思うので今の所大丈夫だが……とりあえず一つ一つ知識をつけていこうと改めて思う。

 けれど、複雑な感情は完全に消えることは無いだろう。なぜなら俺はまだリミナに言っていないことがある。自分は以前の勇者レンではない――この事実は、どこまでもついて回るに違いない。


「何にしますか?」


 リミナがメニュー表を見ながら問う。俺は思考をシャットアウトし、一瞬だけ間を置いて適当な料理名を告げた。

 ひとまず棚上げ――幾度したかわからない結論を導き出した後、俺は近くにいた店員に呼び掛けた。






 翌日、俺とリミナはリリンから教えてもらった店をメモを頼りに探す。何はともあれまずは剣の修理。できるかどうかもわからないが、結論を出すには専門的な意見を持つ人に訊くしかない。


「ふむ……」


 幾度か聞き込みをした後突き進むリミナは、メモに目をやりながら唸った。


「メモの店名を見るに、どこかで聞いたことのある場所だと思っていたんですが……」

「ん、何か知っているのか?」

「はい。確か、英雄リデスが愛用していた剣を作った場所だったかと」

「へえ……」


 どうやら英雄絡みの店らしい。そういえばリリンは英雄に言及していたので、その関連で訪れたことがあるのかもしれない。


「なるほど。そういう場所なら直せる可能性もあるな」

「はい。ただ、時間は掛かるかもしれませんが」

「それは仕方ないさ。フィベウス王国に行く前に剣はいるし、必要な時間だと思うことにしよう」

「そうですね」


 リミナは頷く。そこからさらに歩を進め、やがて――


「ここですね」


 外から鉄を打つ音が聞こえる店へと辿り着いた。


 建物はレンガ造りで、至って平凡。周囲に目を向けると、似たような外観をした建物が多く、さらに耳を澄ませれば正面以外からも鉄を打つ音が聞こえる。この一角に鍛冶場が集まっているらしい。

 扉の上には『ルールクの剣』と書かれた看板が一つ。人の名前なのか、それとも何かの固有名詞なのかわからなかったが、メモに書かれていた店名と一致しているのでここで間違いない。


「入りましょう」


 リミナが先導して扉を開ける。俺は彼女の後に続いて建物に入った。

 まず見えたのは木製のカウンター。その奥には剣や槍が設置され、さらに横を見ると壁に武具が飾られている。値札なんかは張られていない。非売品なのか、売り物なのかは判別がつかない。


 奥からはなおも鉄を打つ音。リミナは「すいません」と呼び掛けるのだが、音は止まない。


「作業中みたいだから、少し待とう」


 俺はリミナに告げ、店内を見回す。

 そして、気付いたことが一点。武具一つ一つに、淡く魔力が感じられる。


「鍛冶屋は鍛冶屋でも、普通に剣を作るだけではないみたいだな」


 おそらく魔石を組み合わせて作成している――考えていると、音が止んだ。すかさずリミナが呼び掛けると、靴音が聞こえ始める。


「すまない、客人だったか」


 そう言って店の奥から男性の声。俺達はそれに反応し、やって来た相手をじっと見据えた。

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