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新事実

 出てきた国についてはリミナに確認を取りたいところだが、人もいる手前ひとまず堪えておく。


「そこに、何があるんですか?」


 代わりにアンへと尋ねたが、彼女は首を左右に振った。


「わかりません。お爺様もその点はわからなかったそうですから、行ってみないことには」

「……何か事件の可能性が?」


 グレンが呟く。すると隣にいるセシルが首を左右に振った。


「数年前の出来事だそうなので、事件が起こったため勇者を探す、というのはさすがにないと思います」

「それもそうか……ならば、フィベウスに行くしかないな」


 理由はわからないまま、結論だけが決まる。そこでグレンは俺へと視線を移した。


「行くことに、するのだろう?」

「はい」


 彼の問いに素直に応じた。


「リミナ、目的地変更だな」

「はい」


 返事をするリミナ。その表情は芯の通った強いものへと変わっていた。


「少しばかり、旅のプランを変更することにしましょう」

「お願いするよ」

「元々、どこに行く予定だったの?」


 セシルが問う。俺はベルファトラスと答えようとして――途端に口をつぐんだ。

 これを喋ると「お話」に関わってしまいそうな気がする。


「いや……周辺諸国を回ろうとしていただけだよ。で、争奪戦が終わった後はクルシェイド王国とか行こうと思っていたんだ」


 誤魔化すために口から出まかせを言ってみる。セシルは「そう」と答えつつも、にこやかに俺へと告げた。


「いつかベルファトラスにも立ち寄ってよ。覇者なりのもてなしをするからさ」

「……どうも」


 それの中には絶対「お話」も入っているはずなので、行かない方がいいと断ずる。なんというか、当初の目的地であったにも関わらず敬遠する場所となってしまった。


「これで、私がお伝えしたいことは以上です」


 そして、アンが説明に区切りをつける。


「私は、お三方が鞘の魔力に気付くことができたので、資格ある者とみなしご説明いたしました……どうするかは、各々のご判断に任せます。それと、何かご質問はありますか?」

「ああ、じゃあ争奪戦について質問が一つ」


 アンの言葉に、セシルが反応した。


「あの鞘についてですが、何か仕掛けがあったんですか? 宝箱の下に埋まっていた時、違和感程度しか感じられませんでしたが」

「宝箱自体に、魔力をある程度遮断する力を付与したとお爺様は言っておられました。鞘の魔力をどの程度露出させておくかの判断を一番悩んだそうですが……結局、お爺様が判別できるレベルで作ったようです」


 ――それはつまり、魔力の察知能力だけを取れば、英雄ザンウィスと肩を並べたということだろうか。


「ただ、そこからいくつか細工もしており……これは英雄アレスからのご所望だったそうですが、特殊な魔力も付与していたようです」

「特殊?」


 聞き返したセシルにアンは頷き、


「付与したのは魔王との戦いの時使っていたもの。魔族が仲間に変化するなどというケースがあり、同士討ちを防ぐために使っていた暗証魔法だそうです。特殊な魔力を体に引っ付け、仲間だと識別していたそうですが……」


 と、彼女は一度言葉を切り、俺達を一瞥。


「英雄アレスは戦いの後、それを魔力を知覚させる訓練魔法に転用させたそうで、それに慣れ親しんだ方であれば、気付くようにしたとのことですが――」


 そこまで言った時、視線の全てが俺へと向けられた。


「……懐かしいというのは、その辺りからきているのか?」


 グレンが発言。俺もまたそうなのだろうと頭で理解しつつ、


「えっと……」

「あなたは――」


 どう答えようか悩んだ時、アンが声を上げた。


「その魔力に、気付けたのですか?」

「え、ええ……」


 俺は答えつつ、どう説明するか迷った。けれど「懐かしいと感じていながら何の事情も話すことができない」というのは、どう考えても違和感が残ってしまう。


 アンは俺を見据え、言葉を待つ構え。さらにセシルやグレンも同様の態度。

 彼らは全員、なぜそれを知っているのかを訊きたいに違いない。けれど俺だってわからないし――嘘をつくにしても、思い浮かばない。


「……仕方、ないか」


 そこで、踏ん切りがついた。まあ、この面々なら漏れるようなこともないだろう。

 アンの目が疑問によって僅かに揺れる。だから俺は彼女と目を合わせ、


「今から話すこと、秘密にできますか?」

「……はい」


 頷くアン。横にいるセシル達へ首を向けると、彼らも頷いていた。

 最後にリミナを確認。彼女も小さく頷いており、俺の行動を賛同してくれる様子。


「では、お話します」


 ――そう切り出して、俺は自分が記憶喪失であることを話す。内容にアンは驚き、セシル達も神妙な顔つきで話を聞く。


「……だから、懐かしいというのもあくまで体に眠った感覚によるものなんです。それ以上の詳細は、さすがに……」

「そう、ですか」


 概要を話した時、アンは口元に手を当て何やら考え始める。


「お話を聞く前は、お弟子さんかなにかと考えておりましたが……」

「弟子?」

「はい」

「息子、とかではなく?」


 セシルが口を開く。すると、アンは確信を抱いているのか深く頷いた。


「私も断片的な情報しか知りませんが、確実に言えることとして、英雄アレスにお子さんが一人、いらっしゃったそうです。これはお爺様からの話なので間違いないはず。そして……」


 と、アンはセシルを見返しながら話す。


「その方は、娘さんだそうですから、息子というのはあり得ないのです」


 ――室内が、途端に静まり返る。新たな事実にセシルとグレンはしばし硬直し、


 突如、視線をリミナへ転じた。


「違いますよ!?」


 それに気付いたリミナが途端に声を上げる。


「そっか……残念だ」


 セシルは頬をポリポリとかきながら、俺へ目を向け、


「リリンとかに、事情は説明しておくよ。君から話すよりは誤解を解く効果があるだろうし」

「……いいのか?」

「記憶喪失なんて抱えて大変なんだろ? ま、知り合いのよしみといったところで」

「わかった……ありがとう」


 礼を告げるとセシルは「どういたしまして」と答え、再びアンへと口を開いた。


「ひとまず、フィベウスについてはレンが行くと思うので、私達は静観ということに」

「はい。わかりました」

「では、私も同じように――」


 グレンが答えた所で、ノックの音が耳を打った。アンはすぐさま反応し玄関扉へと駆け寄り、


「はい」


 開けた先に見えたのは、一人の兵士。


「グレン様は、いらっしゃいますか?」

「はい、何か?」

「城から書簡が届いております」


 そう言って彼は紐によって丸められた書簡を差し出す。

 直後グレンが立ち上がり、アンに代わって兵士からそれを受け取った。


 兵士はその場から立ち去り、グレンは書簡を開けて中を見る。


「……ふむ」


 そう一言呟き――グレンは俺達へ首を向けた。


「どうやら急用らしい。申し訳ないが、私はここで退散させてもらおう」

「急用?」


 俺が聞き返すと、グレンは緊張を伴った顔で頷いた。


「ああ。勇者としての責務といったところだ」


 言うと、グレンは書簡を懐にしまい、


「それでは、これで失礼させてもらう」


 アンへ言うと、外に出た。彼女は頭を下げ彼を見送り――やがて、扉を閉めた。


「……認可された勇者の、仕事といったところかな」


 ふいにセシルの口から漏れる。俺は心の中で同意しつつ、グレンが去った扉を眺め続けた。

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