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争奪戦の本質

 リミナを連れて、俺は村の方へと歩んでいく。途中、彼女へ誤解の件を相談したのだが、


「リリンさんに話しましたが……違うと言っても反応は鈍いです。勇者様が英雄アレスの息子であると、確信しきっている様子で」


 良くない回答。これは大変そうだ。


「何か明確な根拠が無いと難しいかもしれません」

「やっぱり、そうか」


 けれど、そんなものどうやって探すのか――考えていると、リミナがこちらに視線を送り、


「あの、勇者様」

「ん、何?」

「その……」


 なぜか口ごもる。態度に疑問を投げかけようとしたが、


「リリンさんから言われたんですけど……勇者様は色々あって、私に嘘をついていたのではないかって……」


 おい、逆に説き伏せられているじゃないか。


 そう言われると俺も根拠が無くなる。情報源本人が真偽を疑い始めたら、こちらとしてはどうしようもない。


「現在、記憶を失くされているので解明できないのはわかります。けど、その……もしそうだとしたら、記憶を失くす前の勇者様は誰も信用に置いていなかったのではないかと思ってしまい……ただ、私は押しかけ従士をやっていただけなので、仕方ない言えばそうなのですが……」


 そこから先は、言葉を濁した。


 言いたいことはわかる。勇者レン自身、他人に目的などを語ろうとしなかった経緯がある以上、全てが嘘なのかもしれないと考えるのも、頷ける。

 これまではリミナも勇者レンの言葉を信用してきたわけだが……ここにきて俺が英雄アレスと関わりがあるとわかり、なおかつ他の面々から色々と言われたため、自信をなくしてしまったようだ。


「それでですね、勇者様」

「ああ」


 なおも続けるリミナに返事をすると、彼女はどこか決意を秘めた顔つきで続ける。


「ラキという人物など、色々と疑問に浮かぶ点はあります。なので、結論は保留するとしても……ある程度覚悟はしてくべきだと思うんです」

「俺のことが知れ渡る、という件について?」

「はい」

「まあ、人の口に戸は立てられないし、そう考えるしかないんだろうけど……不本意であることに変わりはないな」

「ですよね……」


 リミナは言葉を失くし――やがて、村の入口へと辿り着く。


 魔石による明かりなのか、村の所々には電灯のように先端が光る木製の柱がいくつも存在しており、結構明るい。

 そうした中周囲に目を凝らすと、アンが家の入口に立っているのが見えた。


 無言で俺達は歩んでいく。足音でアンは気付いて首を向け、こちらに小さく会釈をする。


「お待ちしていました」

「この家に?」

「はい。どうぞおあがりください」


 アンの案内し従い、家へと入る。室内も魔法の明かりによって照らされ、居間と思しき場所を一望することができた。


 中央にはパイプ机くらいの長さと倍の幅を持った机。そこに備えられた椅子にセシルとグレンが座っていた。彼らの横手に二つ席があったので、俺達はそこに座る。

 正面を見ると、反対側に椅子が四つある。居間の広さはそれなりだが、この家に八人も暮らしているとは思えないのだが――


「なんでも、英雄ザンウィスのお孫さんだから、人がたくさん来るらしいよ」


 心を読むかのように、右隣に座るセシルが言う。俺は「そっか」と呟きつつ、さらに周囲に目を向ける。

 左の席にリミナ。右にセシル。彼の奥にグレンが座り、反対側の席の向こうにはキッチンがある。アンはそこで何やら準備をしている。茶菓子でも出るのだろうか。


「お待たせしました」


 少ししてアンは、木製のトレイを持ち歩んでくる。

 その上には湯気の立つ木製のコップが五つ。それを全員に配りつつ、アンは俺達と向かい合うようにして席に座った。


「お口に合うかどうかはわかりませんが」

「……いただきます」


 俺は彼女の言葉を聞きながら一口すする。飲んだ瞬間鼻の奥から薬草みたいな香りがしたので……たぶんハーブティーなのだろう。


「では、早速ですがご説明します」


 アンがコップを握りながら告げる。俺達は全員姿勢を正し、彼女に注目を集める。


「その前に一つだけ前置きを。ここで話すことの中で、核心部分については、他言無用でお願いします」

「わかりました」


 代表して俺が応じる。アンは再度「お願いします」と言ってから、


「ではお話します……今回の争奪戦をお爺様……英雄ザンウィスが計画したのは、数年前にとある人物が村を来訪したことから始まりました。その人物はあなた方も知っている、英雄アレスです」


 俺を含め、全員が唾を飲み込む。アンは態度を見てか、慎重に、言葉を選ぶようになおも続ける。


「その折、お二方は色々とお話をして……英雄アレスは、お爺様に一つ頼みごとをしたそうです。それが――」


 と、彼女は俺へと視線を送る。


「彼自身使用していた、鞘を用いての争奪戦実施の計画でした」


 俺はストレージカードの中に眠る鞘のことを思い出す。改めて彼女の口から本物と断定されると、どうにも緊張してしまう。


「彼の話によれば、その鞘を見つけ出すことのできる技量を持った人物を探して欲しいとのことでした。しかし、理由まではお爺様も訊くことができず……彼は村を離れて行きました」

「剣本体はどうなったんですか?」


 俺は尋ねる。アンは記憶の底から引っ張り出すように一度俯き、やがて顔を上げて答えた。


「その時彼が腰に差していた剣は、元々使用していた物とは異なっており、鞘だけ村に持ち込まれた形となります。なので、所在の方はわかりません」

「そう、ですか」


 話を聞く限り、争奪戦を企画した彼女達もわからないようだ。


「英雄アレスは、最後まで目的を明かそうとしなかったようですが……お爺様は資質ある勇者を探すためなのだと理解し、あの洞窟を作り出しました」

「作り出した……?」


 今度はセシルが聞き返す。アンは小さく頷き、


「あの洞窟は、全てお爺様が作り出したものです」


 手が加えられているとは思っていたが、全てだとは思わなかった。

 俺を含め一同そう思っているらしく、横を見ると全員が目を見張っている。


「そして製作途中で、お爺様は自分の死期が近いことを悟りました」


 さらに告げられた言葉に、全員が表情を改め彼女を見る。


「けれど洞窟自体は完成し、後は勇者を呼び込むだけという状況となり……お爺様は、自分の死を利用することを思いつきました。自身の名声を使い遺言で、洞窟を踏破した者に勇者の証を与える……そう流布させました。半年という時間を置いたのは、その事実を世間に伝播させるためです」

「で、私達は見事釣られたというわけか」


 グレンが語る。アンは「はい」と答えつつ、彼へ視線を送り、


「グレン様、もしお城へ戻るようであれば、後日お礼に伺うと城の方にお伝え願えませんか」

「今回、レキイス王国が協力したことに対する礼か……わかった。請け負う」

「ありがとうございます」


 アンは一度深々と頭を下げ、一度俺達を一瞥した後、


「では、核心部分を話させて頂きます……鞘を見つけた方々に、英雄アレスは赴いてもらいたい場所があったそうです。その場所へ行くよう依頼をかけるまでが、争奪戦の目的となります」

「その、場所とは?」


 俺が尋ねる。アン一度目を伏せ、深呼吸をして――


「ここより西にある……竜族の国、フィベウス王国です」


 ――出てきたのは、初耳の国名だった。

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