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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者と英雄編

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色んな問題

 ――炎の中心で傭兵達が笑い、叫び、中には踊っている人もいる。それを見て俺は、近くにいるセシルやフレッドと共に地面に座りながら笑い声を上げる。


 昨夜の騒ぎと似たような光景――これは争奪戦の後、行われている宴によるものだ。帰ってきた俺達を出迎えてくれたのは戦いを労う酒や食料で、俺達も御多分に漏れず宴に参加することとなった。


「いやー、ほんの二日ですが感慨深いものですね」


 骨付き肉を食べながら、セシルは語り始める。


「ああした戦いの後ですし、人によってはお酒の味も格別でしょう」

「俺とかな」


 フレッドが木製のジョッキを高々と掲げながら言う。セシルは「そうですね」と応じ、俺と彼は共に笑う。

 この馬鹿騒ぎは確かに楽しい……のだが、アンからの話を聞きたいこともあるので、多少ながら引っ掛かりを覚えている。


「お、そういやレン」


 ふいに、フレッドが俺へと話を向けた。


「あの鞘はどうした?」

「……今はリリンから新たに借り受けたストレージカードの中に」

「お、そうかそうか。ずっとあのままだと危ないからな」


 フレッドは言った後、含みを持たせた笑みを浮かべる。


「まあ、なんというか……お前さんも色々とあるんだよな」

「ちょっと待て」


 すかさず俺は言葉を止めた。


「あのさ、何度も言っているけど、誤解だって」

「もう言い訳しなくてもいいだろ」

「はい、私もそう思います」


 加えて、セシルがちょっとばかり敵意を込めて呟く。


「セシルさん、隠し切れてません」

「あ、そうですか? すいません」


 と、やはり好戦的な目つきで俺に返す。


 現状俺は、あの場にいた面々に『英雄アレスの息子』であると勘違いされている。これは早く是正しないといけないのだが……問題がある。

 俺だってリミナから聞いた情報を根拠にして話している以上、百パーセント違うと言いきれない。彼らが言ったように自分の素姓を隠し、なおかつリミナにも嘘を教えていた可能性がある。だとすると、やはり俺は――


 けれど、一つ言えることがある。ここでこの件を上手く誤魔化しておかないと、後で絶対厄介なことになる。例え俺が英雄アレスの息子だとしても、ここで否定しておかないと、誰かが迂闊にも喋り、面倒事を引き込むことになるかもしれない。

 だからここは、息子であることが真実であるとしても、否定しておく必要がある……のだが、方法は今のところ思い浮かばない。


「で、レン。リミナさんはどうしたんだ?」


 考えていると、フレッドが話題を変える。俺は視線を周囲に向け、女性陣が集まる一角を目に入れ、


「あっちに」

「昨日と同じ場所か」


 フレッドは言うと、ゆっくりと腰を上げる。


「じゃあちょっと挨拶でもしてくるかな」

「ナンパですか?」


 セシルが問う。フレッドは当然だと言わんばかりに頷いた。


「最終地点まで到達した功績を出せば、少しは目を向けてくれるかな、と」

「つまり、昨日は惨敗だったと」

「はっきり言うのはやめてくれないか?」


 フレッドの落ち込むような言葉に、俺とセシルは笑う。それを見た彼は多少鼻息を荒くし、


「見てろよ、絶対成功してやるからな!」


 と、大声で宣言し、大股で歩き去って行った。


「……よくやりますね」


 見送った後、セシルがコメントする。俺は内心同意しつつ、彼の視線がやはり怖いことに気付く。


 何より一番解決しないといけないのは、目の前にいるこの覇者について。よくよく考えると、出会った時からひた隠ししている態度――実際は、バレバレなのだが――は一切変わっておらず、このままいくと『お話』する機会が絶対に出てしまうだろう。


 こちらとしては、断固として拒否したいのだが……有無も言わせぬ瞳と、それでいて丁寧な口調が俺の口を縫い止めてしまう。

 個人的に特に怖いのが、丁寧な口調に見え隠れする殺意。その辺りを解消すれば、少しは意見できそうな気もするけど。


「あのー、セシルさん」

「はい」


 返事と共に一瞥された目は、やはり恐怖を感じさせる。


「あの……俺に対して、敬語は別にいいので」

「はい?」

「いえ、なんというか口調を丁寧にして無理をしているように見受けられるので、普通にしてもらっていいですよ」


 ――正直、無理に見えるとか口から出まかせなのだが、適当な理由が思いつかなかった。


 けれど、セシルは目を見開いた。お、この反応は、


「……やっぱり、そう見えます?」

「え、ええ」


 頷く俺。図星だったらしい。


「まあ、確かに見知った人とかには普段の口調で接しているので、そう見えるらしいのですが」

「リリンについても?」

「はい。対外的には全部敬語で通すようにしているので、彼女も違和感を覚えているようです」

「へえ、そうなんですか」

「はい……しかし、出会って間もないレンさんに気付かれるとは、驚きです」


 あ、目の色が変わった。これはもしかして、悪い方向にいってしまったか?


「……ま、その辺はいいか」


 けれど追及はこないまま、セシルは口調を変化させた。


「じゃあ、いつものように話させてもらうよ。あ、僕のことも普通に話してもらっていいから」


 コロリと変化させた言葉に、俺はどこか親しみを覚える。


「色々あったけど、僕としては収穫多かったから、最終的に証を手に入れられなくても満足だったよ」

「その理由の大部分は、俺についてか?」

「そうそう」


 無邪気に応じるセシル。瞳の強さは変わらないのだが、言動が変化したことによりどこか子供っぽさが前面に押し出され、先ほどの敵意も半減している。


 態度を見て対外的に接する理由がわかった。この言動では、確かに覇者というイメージは湧かない。セシルは語らないが、看板を背負っている以上、イメージを保つのに頑張っていると推測する。


「で、いつ戦う?」

「戦わないって」

「なら今度の闘技大会で」

「やらないってば」


 そんな問答と繰り広げている間に、こちらへ近づく人影を視界に捉えた。


「よろしいですか?」


 アンだった。しかも横にはグレンがいる。


「もしよろしければ、お話をと思いまして」

「ああ、えっと……」


 思いがけない訪れ――けれど望むところだったので承諾しようとしたのだが、すぐにリミナを呼ばなければと思い、


「他の人を連れていってもいいですか?」

「どうぞ、何名でも」

「私も立ち会わせてもらうぞ」

「グレンさんも?」


 問うと、彼は神妙に頷き、


「あの鞘の気配を感じた人物に、詳細を教えるということだそうだから」

「なら、僕も入るわけか」


 セシルが小さく手を上げる。するとアンは彼に目をやり、


「あなたも気付いたと?」

「ええ。信用できなければ他の人から聞けば――」

「俺が保証します」


 こっちが言及すると、アンは「わかりました」と応じ、


「誰を連れてくるかは、あなたに任せますので……準備ができたら、村の方に来てください」


 そう言い残し、彼女とグレンは去って行った。


「……じゃあ、早速動きだすか」


 俺は立ち上がる。リミナを呼んですぐに行こう。


「僕は、先に行っているよ」


 セシルが告げる。俺は彼に同意のため首を縦に振りつつ、宴の中を歩き始めた。

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