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悪魔と――

 俺の剣閃により悪魔の足が僅かに欠ける。


 悪魔はそれを振り払うように腕を振り、俺は後方に下がって回避する。

 追撃が来るかもしれないと警戒したのだが、悪魔自体も攻撃を受け続けたせいか、俺から距離を取ってしまう。


 腕に決めた一撃以降、断続的に傷を作ってはいるのだが……悪魔も学習しているのか最初と比べ警戒の度合いが強くなっている。現在の構図は俺が仕掛け、悪魔が回避しつつ反撃。それを俺が受け流し体に傷をつけて仕切り直し――それの繰り返しだ。


 悪魔の体には俺がつけた裂傷がいくつもあるのだが、それによって動きが鈍るなどはしていない。こちらが無傷なので良い方向だとは思うが、これまで短期決戦でモンスターを倒してきた俺としては、焦燥感が募る戦果でもある。


 けれど慌てるな――自分に言い聞かせる。性急に攻めれば相手の攻撃を食らう可能性が増す。魔法の力を持つ衣服を着ているとはいえ、直撃すれば動きが遅くなるくらいのことにはなるだろう。


 それは間違いなく、この戦いで命取りとなる。


 俺は再度走る。同時に雷撃の矢により牽制的な一撃を放つのだが――

 悪魔は腕を軽く振り弾いた。やはり雷は通用しない。だからこそ、俺は剣に魔力を集め斬撃を繰り出す。すると悪魔は後退し、攻撃を受けないよう動く。


 ここでわかったことは、見た目が派手な飛龍や天使よりも、単純な剣戟の方が威力が高いということ。リミナに勇者レンの過去を聞いたことを思い返すと、彼は魔力を凝縮することにより悪魔を倒していた。雷や氷の力は敵を怯ませ、動きを止めるための手段――とどめを刺した光の柱も、きっと魔力収束の結果だろう。


 だとすれば現在の戦い方こそ、俺の本領――考える間に接近し、剣を薙ぐ。悪魔はさらにかわすが、徐々に壁際に近づく。

 追い込めば一気に倒せるかもしれない――俺はそうした誘惑を振り払いつつ、さらに剣を放つ。対する悪魔は腕で防ぐ構えを見せた。


 剣と光沢ある腕が噛み合う。直後剣が腕に食い込み、悪魔は距離を置こうとした。

 俺は後退できる余裕を多少持ちながら追撃を加える。悪魔は再度腕を盾にし、防御の姿勢。


 その時、俺は悪魔の腹部が空いていることに気付き――同時に剣を素早く引き、今度は胴体へ刺突を放つ。

 攻撃が決まる可能性は低かったが――果たして、突きは見事に決まり、悪魔の腹部ど真ん中に刺さる。多少抵抗はあったが先端が体に入り、悪魔はすぐに下がり刃から脱する。


 背後には扉。追い詰めたと思いつつも、一気に攻め立てたりはせず横薙ぎを放つ。悪魔はそれを腕で防ぎ、やはり一部分が欠ける。

 追い詰めているのは間違いない――思案する間に悪魔は横に逃れようとする。俺から見て左方向へと、体を傾けた。


 そこでほぼ反射的に一歩前進し剣を薙いだ。斬撃は悪魔が退くよりも速く迫りったため、相手は左腕でガードした。

 その時、偶然にも傷をつけた肘下の場所に刃が触れ――次の瞬間、剣が腕に深く食い込んだため、そのまま振り抜く。結果、肘から下が綺麗に両断された。


 均衡が崩れたため、即座に攻勢に出る。悪魔は残った右腕で反撃を試みるが、俺はそれを避けると、突き出された腕に狙いを定め、肩口に剣を繰り出し――それもまた深く体に入り、肩から先を両断する。

 悪魔が吠える。そして俺は魔力を収束させながら、最後の一撃を縦に振り下ろした。


 その一撃は両断とはいかなかったが体を深く(えぐ)る。そうしてようやく悪魔は声を失くし、やがて黒い塵となった、

 そして床に、二枚の金属プレートが落ちる。今度は五角形だった。


「よし……」


 俺は剣を鞘にしまってからプレートを拾い上げ、金色の方は懐にしまい、もう一枚を目前にある鉄扉へあてがう。開錠され、弾かれるように次のフロアへ進む。


 目の前に広がるのはなだらかな下り坂の道。休憩室はなく通路に直結しており、俺は考える間もなく走り始めた。

 周囲にある程度目をやりつつも、急ぐ。今までのパターンから考えれば、どこかで合流地点と衝突するはずだ。


 その予想通り、通路の先は入口と同等の数の通路がある合流地点。さらに真正面に通って来たものと比べ、倍の幅はある一本の道を発見。迷いなくそちらへと駆ける。

 俺が一位なのかわからないが――そこで、前方からくぐもった音が聞こえた。耳を澄ませると、それが爆発音であるとわかる。


「先を越されたか……!」


 俺は歯噛みしながらなおも進む。ともあれ戦闘中ならば追いつくことはできるだろう。

 相手はセシルか、それともグレンか……なおも走る俺に対し、やがて真正面から僅かな魔力を感じ取る。それは戦闘が終了したと想起させる魔力の残滓。


 肌で魔力を感じつつ、俺はその場所に辿り着いた。通路の先はかなり広い空間で、大型のモンスターが多数いたあの場所と引けを取らないくらいの広さを持っている。


 俺の真正面には一人の人物と、奥にはこの空間にそぐわないような、人一人が通れるくらいの鉄扉が一枚。さらに魔力の残滓が広い空間に残っており、先ほどまで戦闘をしていたことが窺える。


 そして、目の前にいる人物――相手を見据え、俺は首を傾げた。

 セシルやグレンではなかった。そればかりか、今まで洞窟内で出会ってきた人物の誰とも該当しない。俺の目からは後ろ姿しか見えていないのだが、その点は間違いないと確信できる。


 格好は、白いローブで全身をすっぽりと包んでいる。右手に剣を引っ下げ、頭もフードで覆っており顔も見えず――そこで、洞窟へ赴く途中で話し掛けられた太い声の人物であると気付く。


「……ん?」


 やがて相手が、俺に気付き首を向ける。だが顔はまだ見えない。


「お前が、ここにいたモンスターを倒したのか?」


 まずは訊いてみる。すると、


「ああ、そうだよ」


 答えが来た――太い声ではなく、線の細い、中性的な声で。

 途端に、俺は相手を凝視する。声が異質であったため、という理由では決してない。その声は、ひどく聞き覚えのあるものであったためだ。


 瞬間、俺は剣を抜き放ち構える。


「お前、は……」

「入口の時は気付かなかったよね? ま、声色を変えていたからだとは思うけど……僕の演技も中々、ということかな?」


 相手は空いている左手でフードをゆっくりと下ろす。その下に見えたのは、深い紫色の髪と、真紅の瞳。さらに中性的な顔立ちと、蠱惑的な笑み――


「……ラキ」


 やや沈黙を置いて、俺が発した。途端に彼――ラキは満面の笑みを浮かべる。


「久しぶり……でもないか。遺跡の遭遇から一ヶ月くらいだからね。けれど今回、前とは異なる点がある。前回は本当の偶然。けれど、今回は必然だ」

「お前も、勇者の証を狙っているのか?」


 問うと、俺は彼の足元に金属プレートが落ちていることに気付く。ただ彼がそれを拾い上げる様子は見せない。


「少し違うな。勇者の証というものがどういった物なのか、単純に興味があったんだ」


 語るラキは、世間話をするかのように構えを崩している。


「それに、レンと会えるだろうと思ってね」


 ――その答えに、俺は剣を強く握りしめた。訓練を重ねた一ヶ月により、笑顔の奥にある殺意に近い感情を、しかと知覚したためだった。

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