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新たな勇者

 落ちた金属プレートを見ながら、俺は先ほどの戦いについて首を傾げた。


「予測できるなんて、初めてだけど……」


 敵の動きをある程度推察して攻撃するなどという経験がなかったため、疑問に思ってしまう。


「屋敷の護衛の時、そんなことなかったよな……」


 だとすれば一ヶ月の訓練により、そうしたことができるようになったのか。いや、それにしたって騎士が動き出す前に俺は直感していた。それも、一度だけではなく――


「考えられるとしたら、体があの太刀筋を知っていたということだけど」


 そこまで思考すると――あの騎士はきっと、英雄ザンウィスが見知った人物の動きを模倣していたのではないか、という結論に至る。


「誰かというと……一人しか出てこないよな」


 英雄アレス――体の経験が完全に戻っていない俺が倒せるレベルであるので、全ての技術をあの騎士が持っているとは思えない。けれど英雄ザンウィスが勇者を探しているとすれば、彼の力を使うのは十分可能性がある。


「でも、それを俺の体が記憶しているということは……英雄と手合わせしたことがあるのか?」


 自分の体に対し疑問をぶつける。けれど、答えは出ない。


「……ま、その辺もおいおい探っていこう」


 疑問をとりあえずまとめ、金属プレートを拾い上げた。

 形は正方形。最初が正三角形だったので、このパターンでいくと次は正五角形かもしれない。


「……十六角形までいくとか、ないよな?」


 不安になるが――ま、今は気にしていても仕方ないか。

 俺は鉄扉に近づき青いプレートをあてがい開錠。次の部屋に入ると、一つ目の部屋と同じような様相で、ご丁寧で同じような手紙も置かれていた。


「少し、休憩するか」


 俺は呟きつつ懐からストレージカードを取り出す。魔力をそれに込めると、俺の目の前の地面にザックが出現する。

 中から水筒を取り出し、口をつける。三分の一くらい飲んだ後、部屋に置いてある水瓶に手を伸ばし、水筒の中身を補充すると、それをザックに入れた。


 再度カードの中にザックを収納し懐に入れると、横にある戸棚の引き出しを開ける。スライスされたチーズと干し肉が入っており、とりあえずチーズを手にとって口に運ぶ。

 噛みながら、別の引き出しを開けパンを見つける。それも口に入れつつ、俺は先へと繋がる鉄扉を見据えた。


 先ほどは幾人かが集まってモンスターと交戦した。今度の場合は、どのようになるのか。


「また同じというのも、ワンパターンだよな」


 モンスターが強力になるのか、それとも今度は挑戦者同士を戦わせるとか……色々推察した後パンを飲み込み、俺は両手で両頬を軽くはたくと、気合を入れ直した。


「よし、行くか!」


 声を発し、扉を抜ける。後方から閉まる音を耳にしながら、通路を突き進み始めた。






 伸びる通路はやや幅が広く、なおかつクネクネと折れ曲がっている――これは一つ目とまったく同じ。

 しかし、ここからはいつ何時モンスターが現れてもおかしくない。俺は剣を抜き辺りを警戒しつつ先へ進む。


 気配を探っていれば、奇襲を防ぐことはできるだろう――そう考えつつ、今度は他の傭兵達の動向が気になる。

 先ほど共に戦ったリリンやフレッドは突破できただろうか。そして、挑戦者の中で間違いなく最高の実力を持つセシルは、どこまで進んでいるのか。


「……そういえば、リミナはどうしたんだろ」


 さらに彼女の動向も気になる。いきなり分断され混乱したとは思うのだが、そのまま引き返したか、それとも――


「まさか一人で突き進んでいるということは……」


 少し不安になる……が、もし危なくなったらテリジスのように転移しているだろう。


「ま、怪我がないことだけ祈ろう」


 そう呟いた時、正面に広い空間が見えた。


「合流地点だな」


 これもまたさっきと同じ。やはり一定の人数が集まり敵と戦うのか。それは同じ面子なのか、それともまったく違う人物なのか――

 通路を抜け、広い場所に入る。やはり先ほどの合流地点と同じような構造で、真正面には少しばかり広い幅と高い天井を持った通路がある。


 次に俺は、周囲を見回し――


「え……?」


 小さく、呻いた。

 壁一面に、俺が通ってような通路がたくさんある。軽く数えてみると、二十は優に超えていた。


「二つ目を乗り越えてきた人達が、全員集まるとか?」


 数からそんな感じだろうか――推測していると、どこから金属音が聞こえた。

 視線を大きい通路へやる。その奥から再度音が発する。


「交戦中というわけか」


 呟き、即座に走り始めた。

 音は割と近いため、戦闘を行っている空間まではそれほどかからず辿り着くはず――移動の最中、さらに剣の弾く音が聞こえ、さらには喚声まで耳に入る。


 あの入口を考えると、相当大人数で戦っているんだろう。進む度に声もどんどん大きくなり、やがて角を曲がった時、通路で戦闘の一端が目に入った。

 そこには背中に鞘を背負い緋色の胸当てを装備した黒髪の男性が一人――先ほど戦ったような騎士三体と向かい合っていた。


 俺が視界に捉えた直後、彼は一体を剣で弾き飛ばすと、迫っていた残り二体の騎士に対し、横一文字に剣を放つ。

 騎士はそれを剣で防いだ――のだが、男性の剣は剣ごと騎士を両断し、二体同時に塵と化した。


 威力に俺は多少驚き、その間に残りの騎士が男性へ近づく。彼は即座に剣を振り、その騎士も一刀のもとに斬り伏せた。


「……あの剣の威力か?」


 言葉を零しつつよく見ると、彼の握る剣は異様なまでに装飾され、なおかつ凄まじい魔力を放っていた。

 武器から俺は傭兵ではなく勇者だと思いつつ、彼に近づく。


「……ん?」


 彼もまた気付き、振り向く。鋭い目つきをした、どこか狡猾な印象を与える人物。


「後続か。見たところ傭兵のようだが」

「あ、はい」


 やや低い声で呼び掛けられ、俺は受け答えした後質問する。


「あなたは?」

「私はレキイス王国勇者、グレンだ」


 端的な物言いと、どこか俺を見下すような雰囲気――以前出会ったクルシェイド王国勇者のグランドを思い出す。


「貴様は?」


 うわ、そして貴様ときた。俺はむっとなりかけたが、とりあえず低姿勢で無闇に角を立てないようにと、感情をぐっと押し殺した。


「傭兵の、レンといいます」

「……レン?」


 そして名前に反応。このやり取り、この争奪戦で何回目だろうか。


「あ、いえ。勇者である人と同名というだけで――」


 答えようとしたその時、進行方向からくぐもった爆音が聞こえた。さらに音は通路を僅かに振動させ、俺達の言葉を中断させる。


「……問答している暇はなさそうだな」


 グレンは前を向いて呟くと、剣を握ったまま走り出した。

 俺も合わせて走り始める。靴音が通路に響く間も、さらに前方から音が聞こえてくる。おそらく、誰かが魔法を使っている。


 何度か角を曲がると、いよいよ正面にそれらしき場所が見えてくる。さらに音も大きくなり、誰かの叫び声さえ聞こえ始める。


「かなりの人数、ここに到達しているようだな」


 グレンの声。俺は彼に小さく頷きつつ、とうとう通路を抜け――


「っ!?」


 次の瞬間、俺は言葉を失った。

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