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新たな魔物とドラゴン

 中の道は人間が歩く程度の幅と高さしかない。もしここがドラゴンの住処ならば、とてもではないが通れないだろう。


「平常時は、変化していますから」


 リミナに言及すると、そう答えが返って来た。


「普段から元の姿でいるのは、巨体から考えても大変でしょうし」

「そうなのか」


 となると見上げるような体躯(たいく)を相手にするというわけではない――考えていると、下に続く階段が現れる。


「山の中に家があるような感じですね」


 リミナが言う。俺は「なるほど」と呟きつつ、なおも進む。

 結構な段数を下りると、開けた場所に出た。全てが灰色の、石造りの空間。


 広さは学校の体育館くらいある。天井の高さもそのくらいだ。しかも明かりがあるのか部屋中がきちんと見渡せる。


「ドラゴン達の住まいですね」


 リミナが唐突に言う。俺はたまらず聞き返した。


「住まい?」

「以前はここに多くのドラゴンがいたんです。壁際に扉があるのが見えますよね? ここはいわば集会場のような場所で、それぞれの家に繋がっているわけです」


 集合住宅みたいなものか。頭で理解しつつ歩こうとする――


「お待ちください」


 呼び止められる。そこで気付いた。正面……部屋の中央に、青色をした液体がわだかまっている。


「スライムか何かか?」

「はい」


 俺の質問にリミナは頷いた。


「おそらく、アシッドスライムでしょう」


 アシッド――酸という言葉がついている以上、きっと溶解液とか飛ばすのだろう。


「俺にやらせてくれ」


 すかさずリミナに要求する。彼女は「わかりました」と応じ一歩下がった。同時に、俺は剣を抜く。


 ゆっくりと近づく。一方のアシッドスライムは動かない。俺は少しずつ警戒しながらにじり寄る――と、突然ゴポ、という排水溝から水の抜けるような音が聞こえた。

 途端にアシッドスライムが膨らみ始める。明確な形に定まることは無かったが、球体上に、俺の身長くらいの高さになる。


「結構、大きいな……」


 内心驚きつつ、剣を握りしめた。アシッドスライムは幾分警戒しているのか、球体を形成してから動かない。


「おそらく、魔力に反応して動いています」


 後方からリミナの声。俺はすぐに察した。剣を抜き構えたことによって俺の魔力が出て、それに反応したというわけだ。


「なら……」


 両手で剣をしっかりと握る――直後、チェインウルフ戦と同様に手に熱が生じた。ただ、そこに収束していくまでが、少し違った。なんだか、腕の中を瞬時に駆け抜けるみたいな感触。

 だが俺は気にせず、とりあえず加減をしようとして――なんとなく握る力を弱めた。すると剣先から発せられる力も薄くなった気がした。よし、これなら前みたいな大事にはならないはず。


 準備を整えていると、アシッドスライムが突進してくる。口のように穴を開け、飲み込もうと迫ってくる。


「っと!」


 後方に跳んだ。それだけで射程範囲からは逃れ、アシッドスライムの攻撃は空しく終わる。

 すかさず反撃に転じる。手に集まる熱を確かめるように剣をさらに握りしめ、アシッドスライムへ振った。すると、前とは異なる感触が腕を伝い――剣先から光が生じた。


「いっ!?」


 叫ぶと同時に光が収束し、一本の矢のような形となる。帯電しているのがわかった瞬間、アシッドスライムへ放たれた。

 攻撃が見事ヒットする。直後バチバチという音が生じ、行った攻撃が雷属性であるのを深く認識する。


 俺としては凍らせたつもりだったんだが……はたと気付いた。氷と雷をどうやって使い分けるのか。やり方が全くわかっていない。


 考える間にアシッドスライムが体勢を整える。どうやら加減したため一撃で倒せなかったらしい。俺も動こうとするモンスターに対し再び剣に力を込める。瞬時に生まれた感触は、先ほどとは異なりやや収束が遅い気がした。


 きっと氷の力だろう――直感し、剣を上段から振り下ろす。直後、剣先から氷が生じ、攻撃態勢を整えたアシッドスライムに直撃する。

 氷はアシッドスライムを中心に綺麗な華を咲かせた。俺は息をつき凝視していると、やがて氷が砕け、アシッドスライムも共に消え失せた。


「……倒した、けど」


 新たな課題が出てきた。力の引き出し方がわからない。


「まだ、慣れていないようですね」


 リミナも察したようで、歩み寄りながら声を上げた。


「最初はずいぶんと加減されたようですが……」

「ああ。俺としてはそんなに抜いたはずじゃないんだけど」


 おそらく一発目を加減せず放っていれば一撃で倒せた。とはいえ、二撃目の氷は割と綺麗にできた。ここは良かった点だろう。


「そこは今後慣れて頂く必要がありますね……と、音に気付きましたか」


 リミナが言う。見返すと、彼女は直線方向に目をやっていた。

 首をやる。そこには――


「きっと、娘さんでしょう」


 十歳くらいの女の子が、扉の前に立ってこちらを窺っていた。


「……娘?」


 声を発する。リミナは「はい」と答え、俺に笑い掛けた。


「ここに現在も暮らしているドラゴンは、あの子を含めて二人ですから」


 つまり、あの女の子が目的であるドラゴンの娘なのか。俺は興味を抱いて観察を始める。

 ワンピースのような全身をすっぽり覆う茶色の衣服を着ている。髪色は赤。瞳の色は黒。顔立ちがくっきりとしており、中々可愛い。


「何か御用ですか?」


 そんな女の子が、あどけなさを残した声で尋ねる。警戒している様子は無い。


「あなたのお母様に、会わせて欲しいのです」


 リミナが答えた。俺は少しばかり驚く。ずいぶんとフレンドリーであったためだ。


「わかりました」


 女の子は言うと、部屋に引っ込んだ。扉の閉まる音が聞こえ、静寂が訪れる。


「……リミナ」


 俺は名を呼んで、彼女に問う。


「えっと、そんな簡単に会っていいのか?」

「……簡単に、とは?」


 聞き返され、口ごもった。いや、ドラゴン討伐なのにずいぶんと軽い――と、思った時理解した。

 そういえば、ドラゴンに対し何をするのか、怖くて訊いていなかった。


「……改めて尋ねるけど、俺達はここに何をしに来た?」

「え、それはもちろん」


 リミナは眼差しを向けつつ、俺に答える。


「活火山になりそうなこの山から、避難するよう促すためです」


 ――うん、さすがに予想できなかった。ついでに言うと、完全に怖がり損だ。


「ここのドラゴンは以前、周辺にある村々から依頼を受けモンスターを討伐していたそうです。ドラゴン達は守ることを対価として、食料を受け取っていたと」

「用心棒代わりだったのか」

「はい。けれど国から兵士や騎士が来るようになり価値を失い、多くのドラゴンはここの土地を離れて行きました。一組を除いて」

「で、その一組に俺達が火山のため避難するよう言いに来たと」

「はい。ちなみに依頼主はアーガスト王国そのものです。どうやら国もここのドラゴンに助けられた経緯があるらしく、恩を返そうということだそうで」


 納得はできた――が、どうも釈然としない。戦闘態勢だったことを思えば仕方がないのだが……まあ、平和的な問題で良かったと思うことにしよう。

 そもそも記憶を失った俺がドラゴンと戦ってまともに勝てるとも思えないし。うん、そうだ。そうに違いない。


 頭でまとめていると、扉が開く。最初に女の子が出てきた。


「連れて来た」


 彼女が告げると、奥から新たな女性が姿を現した。

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