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青き悪魔

 目の前にいる青い悪魔は全部で四体。これらもまた英雄ザンウィスが作り上げたものだとは思うのだが……今までのモンスターとは異なる凶暴な気配を漂わせていた。


「急にレベルが上がったな」


 フレッドは剣を抜きながら言う。俺は内心同意しつつ、悪魔に視線を送りながらゆっくりと剣を抜きた。


「で、一人一体ずつか?」


 さらにフレッドは問う。確かに数が均等なのでそうしてもいいかもしれないが、


「問題は彼よね」


 リリンが小声で告げる。誰とは言わないが、後方にいる男性を指しているのは明白だった。


 俺はなんとなく背後に首をやり男性の状況を確認する……おい、なんか震えているんだけど、大丈夫か?


「な、な……あ、あれはなんだ……?」


 男性はこの世の終わりでも見るかのような顔で、顧みた俺に尋ねる。


「お、お前達、あ、あれをどうにかできるか……?」

「一体はあんたがどうにかしろよ」


 フレッドが振り返ることなく言う。すると、男性は肩を大きく震わせた。


「な、何を言うか……! 貴様ら、クルシェイド王国筆頭貴族である私に、なんという――」

「目の前の相手には、筆頭貴族なんて威光は通用しないぜ」


 どこまでも冷淡にフレッドが言うと、彼の顔が青ざめる。


「う、ぐ……」

「で、どうすんだレン。こいつも戦力に入れるのか?」


 フレッドは彼を無視するように俺に問う。


「入れたとしても、どれだけ堪えられるのかわからんぞ」

「……ま、期待しない方が良いわね」


 リリンの言葉。二人はどこまでも辛辣(しんらつ)――と、思った時俺は彼女の弓に注目する。


「リリン、武器は弓なわけだけど、一人で戦えるのか?」

「日ごろ一騎打ちばかりしている闘士に愚問よ、それ」


 肩をすくめて返された。ああ、確かに彼女の言う通り。

 疑問が氷解したので、次に悪魔をじっと観察する。こちらの動向を窺っているのか、それとも攻撃範囲に入っていないのか四体の悪魔は身じろぎ一つしていない。見ようによっては精巧な彫刻のようにも見えるが、気配だけはしかと感じられるので、本物であるのは間違いない。


 俺は改めて後方の男性に首を向ける。そして口を開こうとして――名前がわからないことに気付く。


「えっと、お名前は何でしたっけ?」


 一応、少し丁寧に質問した。対する男性はなおも悪魔を見つつ、唇を震わせながら答えた。


「テ、テリジスだ」

「テリジスさんですか。お聞きしますが、あれを倒す自信はありますか?」


 悪魔を手で示しつつ問う――と、彼は顔を強張らせる。


「あ、あれを私に倒せというのか?」

「多少時間を稼ぐだけでも構いません。一体倒したら、援護に入りますから」

「お人よしだなぁ、お前」


 呆れた風にフレッドが言う。俺は苦笑しつつ一瞬彼を見返し、再度テリジスへ問い掛けた。


「少しでもいいので、引きとめておいてください。お願いします」

「……ぐ」


 テリジスは奥歯を噛み締めながら俺に視線を送り――やがて、


「き、貴様がそう言うのなら、僅かながら手助けしてやろう」


 ――言葉の直後、フレッドとリリンから険悪な視線が流れた気がするのだが、俺は無視しつつ「お願いします」と頭を下げた。


「よし、やろう」


 そして意気揚々と俺は告げ――その時、


「てっきり天狗にでもなっているかと思っていたんだがなぁ」


 フレッドから呟きが聞こえた。どうやら、俺のイメージについて言及したらしい。


「やりにくいな、まったく」

「悪いな」

「別に非難しているわけじゃあないんだが、な」


 フレッドはどこか皮肉気に笑いながら、俺に続ける。


「ま、いいさ。とっとと片づけようぜ」

「やられるなよ」

「こっちのセリフだ」


 会話をしながら俺達は悪魔へ歩む。やがて空間内の中央付近に到達した時、悪魔が静かに動き出した。


「来るぞ」


 端的にフレッドが声を発した直後、悪魔が俺達へ駆け――戦闘が始まった。






 迫る悪魔は跳ぶように俺達へ進む。そして狙いは、四体ともバラバラだった。


「向こうもサシでやる気だな」


 フレッドは眼光を鋭くしつつ言うと、足を右に向けた。直後悪魔の一体が彼に目標を定めたか、前進しながら方向転換する。

 一方のリリンは左へ移動。それに対しても悪魔が一体向かい、残るは二体。


 俺は真っすぐ進んでくる二体に対し剣を構える。一体は背後にいるテリジスへ向かうものと思われるが、進路を阻んでいる以上何かしら攻撃してくるだろう――そういう考えの下、剣に魔力を込め一閃する。


 放ったのは雷の矢。牽制目的で放った一筋の光が悪魔へ飛来する。

 対する悪魔の内、一体がそれを真正面から受け止めた。直後パアン! という破裂音と共に矢が弾け消失する。


 このくらいの攻撃は通用しないらしい――判断した時、もう一体の悪魔が俺へ接近し、突進と共に腕を振り下ろした。

 俺は即座に剣で防ぐ。悪魔の腕が触れた瞬間、金属に当たるような甲高い音が響いた。


 悪魔の体はかなり固く、なおかつ非常に防御能力に優れている――瞬間的に判断した俺は、一歩だけ退いて距離を取った。


 その横で、雷撃を防いだもう一方の悪魔が横をすり抜けようとする。間違いなくテリジス向かおうとしているのだが――目の前にいる悪魔が再度攻撃を繰り出したため、こちらにこないか警戒しながらも見送るしかなかった。

 悪魔が横を通過した時、相対する悪魔の腕が迫る。俺は先ほどと同様に剣でそれを防ぐと、反撃に出た。剣に魔力を収束させ、悪魔の体へ差し向ける。


 正面の悪魔はそれを防がず、後方に移動して避けた。けれど俺は追いすがるように剣を向ける。さらに魔力を加え、刀身には光が漏れ出す。

 一撃目は腕で弾かれた。しかし腕を構成していた物質の一部が欠け、空中を舞う。


 現状の魔力ならば確実にダメージを与えられる――認識した俺は追撃を加える。二撃目も悪魔は腕により受け流したが、やはり一部分が欠け――


「ふっ!」


 次に薙いだ俺の斬撃が、見事悪魔の体に入った。


 ――グオオオオッ!


 くぐもった悪魔の声がこだまする。剣の入った箇所には裂傷がしかと刻まれ、声から確実に効いていると理解する。

 そこで俺は攻勢に出て、さらに魔力を加え剣を上段から縦に薙ぐ。悪魔は先ほどよりも動きを鈍らせながら回避行動に移った。しかし、俺の剣が届く方が早かった。


 悪魔はよけられないと悟ったか、腕を使って防ぎにかかり――俺は構わず一閃した。腕に刃が触れた直後僅かに抵抗はあったが、勢いに任せ振り下ろし――腕を両断。さらにその体を打った。


 またも悪魔の咆哮――それが断末魔であると半ば理解し、観察に入る。

 途端にザアッ――という砂の噛む音が聞こえ、悪魔が足先から崩れ、やがて青い砂の塊と化す。


「よし」


 一息つくと周囲に視線を送る。最初目を向けたのはリリンで、矢が悪魔を射抜いている光景が目に入る。一方のリリンは全くの無傷。


 大丈夫だと察し、今度は右。フレッドが悪魔へ斬撃を加え、後方へ数メートル吹き飛ばしている姿があった。こちらも大丈夫そうだ。


 ならばと、俺は後方へ視線を送る。そこには悪魔の後姿だけが見えていた。テリジスはその体に阻まれ俺の視界からは見えない。

 即座に走り出す。彼に気を取られている間に背後から強襲すれば倒せる。そういう目論見だったのだが、


 ――直後、空間内に悲鳴がこだました。

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