挟撃による戦闘
まずは正面に迫る狼達から対処する必要があった。
俺は横一列に並んで走る狼に対し、剣に魔力を込める。使用するのは、雷の力。
「ふっ!」
僅かな声と共に剣を横へ一閃する。すると剣先から雷の力が離れ、数十ものつぶてとなって狼達に襲いかかった。
これは勇者レンが使用していたらしい、広範囲攻撃――本来は剣を振ることで光が拡散し、無数の鋭い刃を相手に浴びせるという技らしい。しかし制御する道具を身に着けているためか、それともまだ力が戻り切っていないためいか、刃ではなく石ころのようなつぶてになってしまう。
ただ、今回の戦いにはおいてはそれで十分だった。
数十ものつぶてを狼達は避けることもできずまともに直撃。一つ一つは威力が少なく倒すには至らないのだが、それを幾重にも食らうことによって消滅という結末を迎える。
加え、後続から迫る猿型のモンスターも見事打ち倒した――のだが、通路奥からさらなる敵が出現する。今度は、黄金色の大蛇。
「次から次へと……!」
俺は零しつつ剣先に魔力を集中し、今度は刺突を繰り出すように剣を突き込む――剣から矢のような形を成した雷撃が放たれ、モンスターに直撃し、滅した。
とりあえず目に見える範囲で倒した――と、今度は後方から物音が。
振り返ると、フレッドが迫りくる狼達を一薙ぎで吹き飛ばしていた。さらに後続からやってくる狼に対し、彼は剣を構え、
「ふんっ!」
横にフルスイングした。直後剣戟を受けた狼は消え去り、残ったモンスターは剣から生まれたと思われる風圧によって勢いが失速、もしくは逆に弾き飛ばされる。
剣を振った瞬間、魔力が生まれているのを察知する。おそらくあの風こそが魔法によって生み出されたものなのだろう。
そしてフレッドの攻撃に耐え、後方に退いた狼は二頭――その内一頭にリリンの矢が直撃し、打ち倒す。
リリンを見ると、右の手のひらに光が矢のように収束している光景が目に入った。彼女はそれをつがえると残った狼へ放つ。
狼は避けようという素振りを見せたが、矢の速さに対応できず、頭部に一撃もらい消え失せた。
そんな彼らの交戦を見て、この分なら大丈夫だろう――そう判断し、俺は視線を戻した。
次に見えたのは、等身大の土人形。手に何も持たず素手の状態で駆けている。
「――ふっ!」
俺は息を強く吐いた後、相手に雷撃の矢を見舞う。対する人形は横に移動したが、避けきれず右腕に直撃。腕から先が消失したが、人形が消えるには至らない。
ああいう形状であれば、胸か頭を狙えば――推測の下さらに剣を振り雷撃を放つ。今度の攻撃を人形は回避できず胸に直撃。それにより動きを止め、崩れ落ちた。予想通りだ。
ここまでの戦況は、圧倒的な優位。遠距離から全て倒せるので楽でもある――が、後続から四体土人形が現れた時、少しばかり辟易した。。
「気を引き締めないといけないんだろうけど……」
呟きつつ、今度は雷ではなく氷の力を発動。刀身が冷気を帯び、それを地面に突き立てる。
直後、ガガガガッ――という地面を割る音と共に冷気が直進し、土人形の前方で華のように氷柱が表出した。結果、四体全てが氷柱を胸に受けて例外なく倒れ伏す。
「おお、すげえな」
そこで後方からフレッドの声。振り向くと、彼は目を丸くして俺を見ていた。
「さすがだな。この程度のモンスターは余裕か」
「そっちだって、楽勝じゃないのか?」
「目の前の敵を捌くのはそれほど難しくないが……」
彼の言葉の直後、俺の目にリリンが後方に残っていた猿型のモンスターを射抜く姿が見えた。
「こう挟みこまれると、ヤバかったかもしれないな」
「同感ね」
フレッドの言葉に続き、リリンが弓を下ろしながら告げる。
「ひとまず後方の気配は無くなったわよ。あと……」
彼女は前方を見てから、さらに言う。
「真正面からも気配は無いわね」
「よし、進もう」
と、俺は言いつつ剣を収める。リリンとフレッドは頷き、歩もうとする――
「ちょっと待て」
そこへ、男性の声。あ、そういえば忘れてた。というか視界に入っていたはずなのに、いないものとして会話をしていた。
「はい?」
俺はフレッド達の前に座り込む男性を見ながら聞き返す。礼の一つでも告げられるのか――そんな風に思ったのだが、彼は唐突に胸を張って口を開いた。
「お前達、大義であった。その力を見込んで私の護衛を――」
「さ、行こうぜ」
フレッドが男性の言葉をガン無視し、歩き出す。リリンも彼に同調する気なのか、男性を華麗にスルーした。
で、俺はというと……話の出だしを聞いた時点で無駄しかないと思い、申し訳ないがシカトすることにして、男性に背中を向けた。
「お、おい。ちょっと待て」
後方から男性の声。けれど俺達三人は黙り込んだまま、ひたすら先へ進み始めた。
以後は散発的にモンスターが出る程度で、大きな障害もなかった。
そんな中辿り着いたのは、通路と比べ広い空間。けれど、そこにモンスターは存在しなかった。
「さっき戦ったモンスターは、ここにいたんじゃない?」
語るのはリリン。歩きながら部屋を見回し、嘆息と共に説明を加える。
「罠という程の事でもないけど、私達が通路に侵入したらモンスター達が挟みこむような算段を立てていたんでしょ」
「ここにいたモンスターと、後方からのモンスターを使って、か……これも英雄ザンウィスの仕掛けたものだろうな」
俺が言葉を発した時部屋を抜け、再び通路に入る……その時、再びリリンから声がした。
「で、あの人は先行し前側のモンスターを倒していたというわけね」
あの人、という部分でリリンは男性を一瞥する。
ちなみに男性はと言うと、完全無視を決め込まれているせいか俯き、それでいて俺達と一定の距離を置いてついてくる。
「なあ、あれどうするんだ?」
フレッドが、リリン同様男性を見ながら小声で尋ねる。
「第二関門に着いたらおさらばだと思うが、それまでずっとあんな調子なのか?」
「だろうね」
俺は彼の問いに断定しつつ、なんだか寂しそうな男性に視線を送る。
「けど、放っておいて後方からモンスターが現れてやられる、とかいう可能性もあるだろ? そのままにしておくことはできないじゃないか」
「でもよ、ここにいるということは少なくとも一つ目の試練は乗り越えたわけだろ? そして逃げたにしろここにいるモンスターとだって戦えた。しかもこの通路にいるモンスターは俺達がほとんど倒しただろうし、放っておいても問題ないだろ」
「そうかもしれないけど……」
俺は答えながらなおも男性を見る。貴族服であるのはセシルと同じなのだが、彼の場合は装飾過剰で悪趣味だという程、至るところが輝いている。
加えて、腰に剣を差し――そこでリリンの声がした。
「一つ目の試練についてはおそらく、魔力が使えるかどうかの検査だったんじゃない?」
「……というと?」
フレッドが眉をひそめると、リリンは小さく肩をすくめた。
「説明する前に質問だけど、一つ目の試練で遭遇したモンスターは物理攻撃オンリーだったわよね?」
「ああ、そうだな」
「俺もそうだった」
フレッドに続き俺も声を上げると、リリンは確信を伴った表情で話す。
「私達は全員魔力を使って攻防ができるため難なくパスした。けれど、傭兵の中にはそういう技術を持たない人もいたはず。最初の試練はそういう人を門前払いする意味合いがあったんだと思う。で、彼の場合は――」
リリンは一度言葉を止め、彼の腰に差す剣を見据えた。
「大方、剣に魔力が込められていたんでしょ」
「なるほどな」
フレッドが納得した――その時、またも開けた空間に出た。
「お、いよいよお出ましだな」
前方を見てフレッドが言う。俺もまた局面が変わったことを理解する。
到達したのは横に広い場所。そして俺達の真正面には、モンスターを挟んで四本の分かれ道があった。
道の先はおそらく、次の試練に繋がるのだろう。けれどそれを阻むように――
「悪魔、か」
リリンが呟く。
そう、彼女の言う通り俺達を阻んでいたのは、青い体を持ち、髑髏の顔を持った悪魔だった。