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唐突な合流

 置かれていた水や食料については、チーズを一切れ食べたくらいに留め、先に進むことにした。


 出口となる鉄扉を開ける。奥は壁面に魔法の光が輝くたいまつが並んでおり、明かりも使わず進めそうだった。


「この辺も配慮なのか……しかし、ここまで用意する必要ないと思うけど……」


 感想を述べつつ明かりを見ながら進む。一本道だったがクネクネと折れ曲がり、なおかつなだらかな下り坂となっていた。


「モンスターの気配はないが……」


 辺りを警戒しつつ歩み続ける。しばらくは一人で少しずつ移動していたのだが――

 やがて開けた場所に出た。たいまつが設置されたドーム状の空間。そこに俺が通って来たような通路らしき穴が他に四本開いており、


「……あれが、先へ進む道か?」


 俺が進んできた道と正反対の所に、一際大きく口のあいた通路がある。


「正解の道か……? とすると他の道は――」


 考え始めたその時、通路の一つから靴音が聞こえ始める。俺は咄嗟にザックを地面に置きつつ剣を抜く。傭兵の誰かだとは思うが、気を付けるに越したことはない。

 靴音が近づき視界に相手が映り……ふいに目が合い、相手――女性から声がした。


「あれ?」

「……リリンさん?」


 闘士で、先行していたリリンだった。彼女もまた警戒していたのか弓を構えていたのだが、俺とわかりそれを下ろす。

 こちらも合わせるように剣を鞘に収めると、彼女が声を上げた。


「ああ、レン。無事第一関門を突破できたようね」

「はい」


 やっぱりどこか高圧的な印象を受ける彼女の声に俺は答え、周りにもう一人の闘士がいないことに気付く。


「一応訊きますけど、お仲間の闘士は?」

「そっちに彼女がいないのと同じ。出てきたモンスターを倒した結果、入口が封鎖されてここに来るしかなかった」

「そうですか……ちなみに手紙は?」

「読んだわよ」


 頷くリリン。


「なんというか、タネがわかってしまえば拍子抜けもいいとこね」


 肩をすくめつつリリンは語る。同意する部分もあるのだが、一応見解は述べてみる。


「けど、この形だと卑怯者が証を横取りするなんて真似もできないので、方法としては良いのではないかと」

「そうかもね」


 リリンは答えつつため息をつく。


「この方式だと、セシルが圧倒的に有利なのよね。何も考えずに進めるだろうし」

「……ですね」


 俺はセシルの力量はわからない……のだが、闘技大会の覇者である以上、第一関門なんてそれこそ、赤子の手を捻るようだろう。どんどん先へ進んでいてもおかしくない。


「で、レン。一つ疑問なのだけれど、この状況は何?」

「何……とは?」


 聞き返すと、リリンは視線を大きい通路を向ける。


「ここには全部で六本の道があるわけだけど……あの大きな道以外は私やレンの通って来たように、第一関門を突破した人が来る通路じゃないかと思うのよ」

「俺もそう思います」

「で、わざわざ人を合流させる意味は何? あんな手紙を用意している以上、ここで殺し合いをしろというわけじゃないだろうし」


 問われるが、こちらも見当がつかず肩をすくめる。


「道の先に何かあるってことでは?」


 俺は答えながらとりあえずザックを拾い上げた。


「現状道は一本で、俺達は一応競争相手なわけですけど……どうします?」


 敵なので質問するのもおかしいのだが、確認を取ってみた。すると、


「セシルのこともあるし、少しでも早く先に進むために、しばらくは共闘しましょう」


 提案が返ってきた。


「……わかりました。ひとまず手を組むということで――」


 俺がまとめた時、またも靴音。そちらに首をやり少しすると、相手が姿を現す。


「お、レンじゃねえか」


 右手に干し肉、左手に俺と同じようなザックを手にしたフレッドだった。


「フレッドさん……突破できたんですね」


 彼を見て思わず感想を漏らした。対するフレッドは不服そうに口を尖らせた。


「おい、その言い方だと俺が実力無いみたいじゃないか」

「見た目的に、戦えなさそうよね」


 続いて手厳しいリリンの発言。


「体つきと魔力は別物だし……なんだか力一辺倒に見えるわ」

「言っておくが、俺だって傭兵歴長いからな? 舐めてもらっちゃあ困る」


 リリンの言葉にフレッドが反応。干し肉を口に入れザックを地面に落とし、背中にある柄に手を掛ける。


「試してみるか?」

「……遠慮しとくわ。無駄なことで魔力を使いたくないし」


 フレッドの問いにリリンはこざっぱりと答え、俺に目を移した。


「さっさと行きましょう」

「って、おい。ちょっと待て。除け者にするなよ」


 リリンの言葉にフレッドが食らいつく。


「ここで話をして大方、二人で組もうとしていたんだろ? なら混ぜてくれよ」

「協力する気、ある?」

「当たり前だ」


 深く頷くフレッド。リリンは僅かに目を細め、品定めでもするような目で彼を見つめ、


「……ま、数は多い方がいいわよね」


 結論付ける。フレッドは当然だと言わんばかりに胸を張り、


「危なくなったら、俺が是非とも助けてやる」

「こっちのセリフよ」


 リリンは面倒そうに言うと、突如ポケットに手を突っ込み何かを取り出した。


「はい、どうぞ。協力のお礼ということで、使って」


 言葉と同時に、俺にそれを放り投げる。受け取って確認すると、タロットカードみたいな一枚の札だった。


「お、すげえ。ストレージカードじゃねえか」


 フレッドは受け取ると感嘆の声を上げる……ストレージ? 収納とか保管とかいう意味だったはずだけど。


「闘士の景品でよくもらうのよ。渡したのは破損した時の予備」

「へえ、お前闘士だったのか」

「そうよ。ちなみに貸すだけなのでよろしく」

「わかっているさ」


 フレッドは答え、地面に置いたザックに札を押し当て――直後、ザックがいきなり震え、


「へ?」


 いきなりザックが札に吸い込まれた。


「見たことない?」


 俺の間の抜けた声にリリンが問う。こちらがコクコクと首を縦に振ると、彼女は説明を始めた。


「カードに魔力を込めながら物に当てると、物質を魔力に分解して収納することができるの。ちなみにこの札は魔石を加工して作られるもので、一般でお目にかかることは、ほとんどないわね」

「ベルファトラスでは結構あるんですか?」

「景品としては珍しい部類だけど、闘士として入り浸っていたら一枚くらいは誰でも持てるようになるわよ」


 俺は彼女の声を聞きながら、とりあえずザックに魔力を込めて札を押し当ててみた。途端にザックが一瞬震え、札の中に吸い込まれる。


「……すごいな」


 こういう技術もまた、魔法の一つなのだろう。


「一応補足しておくけど」


 リリンはなおも俺に続ける。


「破損しても中から物は取り出すことはできる。ただし、二度と入れることはできなくなるから注意して。もう予備はないから、壊れたらお終いよ」

「壊したら弁償?」

「そうね」


 なら気をつけないと――思いながら札を懐にしまった。


「ありがとうございます、リリンさん」

「どういたしまして……じゃあ、行きましょうか」


 リリンが告げる。俺とフレッドは無言で承諾し、大きな通路へ足を向けた。


 こうして、勇者の証を手に入れるため、にわかパーティーが結成されることとなった。

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