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魔法についての概要

 その日は以後、何事もなく一夜を明かした――イベント的なものがなかったのは、決して俺がヘタレなせいでないと、ここに宣言しておく。


 そして翌日、目を開けると雲の無い青空が見えた。なぜ部屋の天井ではなく空が見えるのだろう……そう考えた時、自分が見知らぬ世界にやってきたことを思い出し、小さく息をついた。


「……朝か」


 呟きつつ、上体を起こす。


 周囲は森。さらに昨日と同じ格好。うん、間違いない。異世界のまんまだ。

 特に感情も湧かず周囲を見回した。燃えカスの残る薪を挟んでリミナが座り込み、支度をしている。


 彼女はこちらに気付くと、微笑みながら口を開いた。


「おはようございます、勇者様」

「……ああ」


 俺は頷き、頭をかく。

 森の中から、鳥のさえずりが聞こえる。気候も程よく、目覚めとしては悪くない。だがこの世界に来てまだ二日目。ちょっとだけ頭が混乱する。


「朝食は、歩きながら済ませましょう」


 俺の考えを他所にリミナは言う。彼女は周囲に刺さっていた札を回収したらしく、ザックにまとめていた。

 その行動を見て、俺は尋ねる。


「札は、再利用するのか?」

「はい。使い捨ての物もありますが、この札は使用者の魔力を装填して使用する物なので、破壊されない限りは使えますよ」


 言うとリミナはザックの紐を閉じ、静かに立ち上がる。


 俺は周囲を確認する。傍らにはザックが一つ。特に使うことも無かったため、紐も結ばれている。

 それを手に取ると、リミナに合わせ立ち上がった。


「じゃあ、行くか」

「はい」


 俺の言葉に従いリミナは歩き出す。無論、彼女が先頭で。

 この辺をもう少しなんとかしないなぁ――思いつつ、足を動かし始めた。






 朝食のメニューは昨日の夕食とほぼ同じ。木の実の種類が若干変わったくらいなのだが、


「あ、これも食べられます」


 森を進みながら、解説がてらリミナが何度か木の実を渡すので、結構食べた気がする。

 そうこうしている内に森を抜ける。正面には見上げるくらいの高さを持った山が存在していた。


「これを、登るのか?」


 俺はリミナに問い掛けつつ自分の服装を見る。とてもじゃないが、登山する装備ではないが。


「登ると言っても、中腹くらいまでですよ」


 彼女はそう返答した。いや、中腹と言っても結構距離があるぞ。


「あ、それと一つ言い忘れていました……今から進む目の前の山は、少しばかり危険なので注意してください」

「危険?」


 聞き返すと、リミナはコクリを頷いて言った。


「この山、休火山なのですが……魔法による観測で、活発化しています。最悪、登っている最中に噴火する可能性が」

「……おい」


 思わず声を上げた。

 そんな場所まで赴いてドラゴンをどうにかするとは、どういう了見なのか。ついでに、注意しても意味が無いような気も。


「あ、そうは言ってもかなりの低確率ですよ? 観測の見立てでは、今から半年から一年後くらいが危ないとのことなので」


 告げられたが――それでもなお怖い。

 というか今の俺にとって『魔法による観測』というのが、果たして信憑性(しんぴょうせい)のあるものかわからない。


「では、行きましょう」


 しかしリミナはあっさりと言い、移動を始める。俺は山を見上げ、深呼吸をした後覚悟を決めて歩き出した。


「山の、どの辺まで登るんだ?」


 途中で訊いてみると、リミナは黙って指を差した。

 見ると山の中ほど……というか、大体三分の一くらいの場所に、岩肌の目立つ一角がある。


「あそこが住まいですね。事前情報通りです」


 なるほど、ドラゴンの巣に直接殴り込みか――火山よりもそちらが怖くなってくる。体が覚えているとはいえ、記憶の上で戦闘経験は一回だけ。経験不足も甚だしい。


 これ、スライム倒した後いきなり大ボスに挑むようなものではないか――けれど、ここまで来た以上仕方がないか。いや、それでももう少しどこかで戦っておいた方がいいのではないか――


 心の内では色々巡っているのだが、リミナがお構いなしに進むため考え込むこともできなかった。とはいえ、ウジウジしているよりはマシかもしれない。俺一人では、逃げそうな気もするし。

 勇者なのに、逃げるのはな……思った時、ふいに疑問が生じた。


「なあ、リミナ。勇者としての俺は……どういった能力を持っているんだ?」

「能力……とは?」

「氷の力を持っているのは昨日の内にわかっているけど、他にはある?」


 何かドラゴンと戦うための糸口を見つけないと――そういう感情からの言葉だった。

 前にいるリミナは、首だけ振り向き俺を一瞥した後、ゆっくりと話し始めた。


「まず氷の力は、勇者様もご存知ですね。後は、雷の力をお持ちです」

「雷……か」


 氷と雷。なんだか相性の悪そうな組み合わせだが、使っている姿を想像すると悪くない気がする。


「そういう力を身に着けるに至った経緯は?」

「私が出会った時はもう、二つの力を使っていましたから、わかりません」

「そうか……それで、どんな風に使用するかは……」

「勇者様次第、ですね。他には、簡単な魔法くらいですか」

「そうか……と、魔法?」


 俺は聞き返す。そういえば昨日から魔法という単語が出ていた。なんとなく想像はつくが、訊いておくべきだろう。


「それについても教えてくれるか?」

「はい。魔法とは私達の体の中にある魔力を引き出すことによって使う能力です。やり方や種類は千差万別なので詳細は省きますが、勇者様の氷と雷も、これらに該当します」

「ふむふむ……けど、俺はリミナみたいに何かを呟いていないし、札とかも使っていないぞ?」


 昨日の光景を思い出しながら問う。水を汲む時彼女は何事か呟いて魔法を使っていた。さらに野営の時は、札を用いていたはず。


「魔法の手法が違いますから」


 対するリミナは、俺にそう返答した。


「勇者様の剣には、体の魔力が発露しやすくする力が加えてあります。柄を握るだけでも体中の魔力が反応し、魔法が扱えるはずです」


 そうか、だから戦闘中手に熱を感じたのか。


「俺の場合は、特に呪文を覚えたりしなくてもいいのか」

「そうですね。ただ明かりの魔法を使ってた時は口で呟いていたので、その辺りは勉強し直しですね」

「……そうか」


 勉強、と聞いて少しばかり嫌になる。けれど、この世界で生きていくとしたら覚えなければいけないだろう。


 会話をしていると、いよいよ目的地が近づいてくる。険しい山道なのだが、俺の体は疲労を感じていない。体は結構丈夫だと認識していると、今度はリミナから声が発せられた。


「勇者様、私から一ついいですか?」

「ん? ああ。どうぞ」

「私の目から見て、勇者様は戸惑っているように見受けられます。突然の旅ということも関係していると思いますが……他に理由はありますか?」


 鋭い。俺はその質問に少し考えた後、返答した。


「いや、純粋に自分が勇者だということに驚いているだけだよ」


 これは間違いなく事実だ。だがリミナは納得しきっていないらしく、再度こちらを見た後、口を開こうとした――


「ん、もうすぐか」


 しかし(さえぎ)るように俺が声を上げる。正面には(ふもと)から見えていた岩肌が間近に迫っていた。


「……話はこのくらいにしておきましょうか」


 どことなく不服そうだったが、リミナは言う。

 程なくして到達する。遠目からは見えなかったが、岩肌に隠れるように洞窟と思しき穴があり――


「……扉?」


 俺は呟いた。人間用の鉄扉が一枚、洞窟内部と外を仕切っている。


「ここで間違いないようですね」


 リミナは言うと、扉を手で指し示す。


「では、参りましょう」

「……ああ」


 鉄扉を見ながら、俺は首肯する。

 扉、というのが少しばかり引っ掛かったが、入ることにする。少しばかり緊張を伴いながら、扉を開け洞窟の中へ侵入した。

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