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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者選択編

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そして彼は――

 その夜、俺は異世界に辿り着いた簡素なベッドで眠った……そして俺は夢の中で、レンと出会う。


「事情は、理解しているのか?」

「ああ、わかっている」


 頷くレン。ここで彼は小さく笑みを浮かべた。


「まさか戻ることのできる選択肢を得られるとは思わなかったよ」

「俺もだ」

「……それを話し合う前に、こちらから報告させて欲しいことがある」

「どうした?」


 問い掛けると彼は、一呼吸置いた後話し始めた。


「シュウさんの件だ」

「……会えたのか?」

「ああ。蓮に伝言だ……『ありがとう』だってさ」

「そっか」


 返事をした俺は――消えゆくシュウが残した言葉を思い出した。


 彼は消える寸前に、元の世界で言う大学名を言及した。そこにレンと同様『星渡り』の魔法を使ったシュウがいる。彼に会いに行ってほしい――そういう意図があったのだと俺は思い、レンに伝えた。


「少し先の話になるけど、俺とアキとシュウの三人で集まって色々やろうという話になった」

「本当か? 俺としてはいいと思うよ」

「その詳細についてはまた、ここで語る……と、言いたい所だけど。結論を決めないといけないな」


 戻るか、戻らないか――言葉を待っていると、レンは俺に言った。


「話し合うために来た蓮には悪いけれど……俺には、魔法を使うか使わないかの判断はできないと思っている」

「え? それは……?」

「俺の勝手な行動により、蓮は俺のいた世界に来た。けれど戦い続け、最終的に魔王まで倒した……どうするかは、蓮が決めて欲しい」

「……俺は」


 言葉が詰まる。言いたいことはわかった。


「でも、それだと……」

「どういう結論であっても、俺は従うよ」


 レンの言葉。そこには確かな覚悟があった。


 俺はしばし考える……きっとそれは長い時間だった。元の世界のこと。異世界に来訪して起こった出来事。それらが頭の中でグルグルと回り、少しずつ形となっていく。


「……レン」

「うん?」

「一つ……思い浮かんだことがある」


 この考えが合っているかどうかはわからない。けれどレンに考えを伝えると、彼もまた理解を示した。


「わかるよ、言いたいことは。俺はそうした方がいいと思った……どういう選択をすべきでも」


 ――そして俺達は会話を重ねる。最後、俺は至った結論を改めて語り……レンは、静かに頷いて見せた。






 朝、起床した段階で既にリミナは起きているのか、いい匂いが部屋に立ち込めていた。俺は支度を整え部屋を出ると、キッチンで料理をする彼女とテーブルにジュリウスが座っているのが見えた。


「おはよう」

「……ジュリウス、頼みたいことがある」

「決まったんだな?」


 リミナの肩が僅かに動く。俺はそれを確認しつつ、内容を伝えると――


「……可能だが、いいのかそれで」

「ああ」


 リミナが振り返る。俺は彼女に肩をすくめた後……改めて、ジュリウスに告げた。


「……いつまでも、元の世界に戻れるという選択肢を持ち続けるのもありだとは思う。けど、なんとなくそれが逃げの道になってしまうようにも思えて、元の世界にもこの世界にも悪いと思ってさ」


 ――帰ることはない。そして、この家にある俺が帰れる手段を、潰して欲しい。


 そう俺は要求した。理由は、今ジュリウスに言った事が全てだ。


「確かに未練がないとは言わない。けど、俺はこの世界で生きていく」

「勇者様……」


 リミナが俺を見据える。それを見返し笑みで応じた後、ジュリウスに告げた。


「俺が要求したのは、その決意を後腐れなく実行するためのものだ……ジュリウス、やってくれ」


 こちらの言葉にジュリウスは一度目を細め、そして――


「……わかった。勇者レンの言葉に従おう」






 ジュリウスは俺とリミナが食事を終えるよりも早く家を去った。帰り際「またどこかで会おう」という約束を交わし……俺達は支度を整え、村長に礼を述べた後村を出た。


「……勇者様」


 道中、リミナが尋ねてくる。


「本当に、これで良かったのですか?」

「ああ」


 返事にリミナはどこか呆然としながら俺を見る。


「私は……その、戻るのではないかと思っていて」

「そっか……けど、これはこちらの世界にいたレンとも話し合って決めた事だから」


 ここまでしなくてもよかったのではないか、という意見はあるだろう。けれど――


 俺は改めてリミナに視線を送る。見返した彼女に対し、ゆっくりと口を開いた。


「……リミナには、色々迷惑を掛けた」

「とんでもありません……その、魔法を使用したのは勇者様なわけですし、お二方が話し合いそうした結論に至ったのであれば、何も言いません」

「ありがとう、リミナ」


 ――きっと、この先様々な出来事があって、後悔する日だってあるかもしれない。あの時戻れる可能性を残しておけばなんて思う時だってあるかもしれない。

 けど……それでも、俺はこの世界で生きていくと決めた。だからけじめとして……何より自分の意志として、この世界に残り続けるために道を断った。


 もし天寿を全うし、振り返った時……幸せだったと思うようにしないといけないな。


「さて、リミナ。旅も一区切りついて、俺もこの世界で生きていくこととなったわけだが……」

「はい」

「今後の目標を決めないといけない」

「そうですね」

「リミナは、どこか行きたい所とかあるのか?」


 質問に、リミナは逆に驚いたような顔をする。


「私、ですか?」

「だってほら、この世界にいたレンの時から従士をしていて、リミナは行きたいと思った所にも満足に行けなかったんじゃないのか?」

「……私の旅自体武者修行という感じでしたから、特に目的があったわけではないんですよね」

「そうなのか……で、今はどう?」

「と、言われても……勇者様は?」

「そもそも、俺はこの世界について知らないことばかりだから」


 旅をして、多くの仲間を出会い魔王すら倒したわけだけど、俺はまだまだこの世界のことを知らなさすぎる。


「なるほど……そうですね」


 リミナは少しばかり考え込んだ後、話す。


「なら、いくつか行ってみたいと思っていた場所があります……そこへ行くのは?」

「いいよ。ちなみにどういう場所?」

「絶景のある場所、と言った所でしょうか。そういう場所を巡る旅人も多いんですよ」

「なるほど……そういうのんびりした旅もいいな」

「では、そういうことで」

「ああ……と、待った」


 立ち止まる。リミナもまた足を止め、俺と彼女は向かい合う。


「最後に重要なことを聞いていなかった」

「何でしょうか?」


 小首を傾げるリミナに対し、俺は少し間を置いて尋ねる。


「――今後も、ずっと一緒にいてくれるか?」


 質問にリミナは少し目を見開き――次に満面の笑みを見せた。


「もちろんです!」

「よし、それじゃあ行こう!」

「はい!」


 返事と共に俺とリミナは歩き出す。空は快晴。絶好の旅日和。


 俺達の新たな旅の始まりを祝福しているようであり――俺は、この異世界で勇者として生きていくことを、改めて胸に誓った。


これにて完結となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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