王子と女店主
俺達はグレンやアンと別れ、旅を再開。いよいよ全ての始まりであったアーガスト王国へ辿り着いた。
旅はもう少しで終わろうとしている……単なる挨拶回りなので終わりだから何かがあるわけでもない――と思うのだが、リミナと約束をしたからなのか、長い旅に一区切りという予感がして、複雑な心境となる。
そうした中、次に辿り着いたのがフェディウス王子の屋敷。アポイントの一つもないような状況なので入れるのかという疑問があったのだが……幸運にもルファーツと出会うことに成功して、王子と会うことができた。
「お久しぶりです、勇者レン」
「はい」
依頼を請けた時通された部屋で、俺は車椅子の王子と対峙する。以前と異なるのは彼の傍らにエンスがいないこと。
なんとなく彼がいた場所に視線を送ると、どうやらフェディウス王子は気付いたようで、
「エンスについては……私自身色々と思う所はあります。けれど、彼はこの大陸に破滅をもたらそうとした……そうである以上、残念であるとしか言いようがありません」
……王子自身、思う所は多々あるだろう。けれどそれらを全て押し殺し、前に進もうとしている。
なら俺もこれ以上尋ねるつもりはない……俺はこれ以上の言及を控えることにした。
「思えば、この屋敷で護衛をされていた時、勇者レン自身技量もまだまだだったと記憶しています」
「そうですね……自分の内に眠る力を使いこなせていなかったというのもありますけど」
「しかし、一年も経たずして大きな功績を上げた……正直、私自身勇者レンがとても遠くに行ってしまったと思う次第です」
……彼としても、俺という存在は相当なものになったと感じている様子。
「もし今後、何かの舞台で共に戦うことがあったら……よろしくお願いします」
「こちらこそ」
それからいくらか会話をして、俺達は屋敷を去る。フェディウス王子としてはもう少し話をしたかったらしいが、用があるため難しいとの事だった。
「今度会う時はきちんと約束を取り付けてからかな」
「そうですね……ただ、それはどうやってやるのでしょうか?」
リミナから出た疑問。俺は途端困った。
まあ確かに彼とアポイントを取るのはどうやるのかわからない。まさか城に直接訪ねるわけにもいかないし。
「……それは、次会おうとする時考えようか」
「……そうですね」
結局解答を見いだせないまま、俺達は都へ行くべく歩き出した。
次に訪れたのはアーガスト王国首都ラジェイン。最初訪れた時はいきなり謁見しなければならない状況で、何が何だかわからないまま町の中へと入ったように思う。
で、その中俺達が赴いたのはラウニイの店。いかにも魔法屋という感じの建物に入ると、当該の人物がいた。
「……あれ?」
さらに、もう一人。リミナの友人であるクラリスが。
「クラリス!」
「ああ、リミナ。ここに来ていたんだ」
――まだ彼女はアーガスト王国にいるという情報は手に入れていたので、この店を訪れたら向かおうと考えていた。結果としては両方会うことができた。
「いらっしゃい……といっても、物を買ってくれそうな雰囲気じゃないわね」
ラウニイが言う。俺は「すいません」と断りを入れておいて、口を開いた。
「今日は挨拶に」
「戦いに一段落がついたから?」
「そんなところです」
「律儀ね……ま、顔を見せて欲しいなとは思っていたところだし、丁度良かったけれど」
そう言って微笑を見せる。笑い返す間にリミナとクラリスの会話はヒートアップしようとしていた。
「お二人、奥に入る?」
ラウニイが問う。するとリミナ達は動きを止め、
「あ、すみません。お邪魔でした」
「積もる話もあるでしょう? 私としてはお店の裏であればいくらでも話していていいけれど」
「……さすがにそこまでするわけには」
「なら、リミナ達が泊まる宿とかはどう?」
クラリスが提案。とはいえまだ宿を手配しているわけじゃないんだよな。
「あ、その辺りはまだ? なら私が手配しようか?」
「え? クラリスが?」
「そ。この国に滞在することが結構長いから、色々とコネだってあるのよ」
……俺はリミナと顔を見合わせる。目で会話をしてそれもいいかということで同意した後、俺が代表して口を開く。
「なら、お言葉に甘えて」
「それなら良い宿を用意するよ。ちょっと待っていて!」
クラリスは言うと店から飛び出した。それを半ば呆然と見送る俺とリミナ。
「……なら、私も付き合おうかな」
ラウニイが立ち上がる。ん、付き合う?
「ラウニイさんも、ですか?」
「今日はもう店じまい。色々とレン達からも話は聞きたいし」
ラウニイは言う。その態度からすると、事の顛末を色々知りたいようだが――
「……確認ですけど、ラウニイさん。魔王との戦いのことについて、どのくらい知っていますか?」
「世間一般的なことくらいよ。けど、フェディウス王子からその辺りの事情については、いずれ話してもらうように約束はしている。一応、私達も関係者という括りみたいだから」
なるほど……俺は納得するように頷くと、彼女に言った。
「話せないことも多いですけど……魔王をどう打倒したか、というのは説明できますよ」
「お、一番聞きたいのよねそこは。ならじっくり話をさせてもらうことにしましょうか」
ラウニイは言う……雰囲気的に、最後まで話さないと納得してくれなさそうな感じだ。
ま、英雄の真実について語らない限りは大丈夫だろう……うっかり口を滑らせないように注意しようと心の中で思いつつ、俺とリミナは店じまいを始めるラウニイを見て、店内を後にした。
語り尽くせないたくさんのことを話した翌日、俺とリミナはクラリス達に見送られて都から出た。その目的地は、いよいよ――
「次で最後ですね」
「そうだな……さて」
俺はリミナを見やる。彼女は俺の決意に従う気でいるのか、優しい表情で頷いて見せた。
「……それじゃあ、リシュアに向かおう」
「はい」
ここで俺は結論を発さず――最初の村へと、歩み出した。




