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鍛冶師と魔法使い

 フィベウス王国の宴会の最中、俺が異世界で最初に行った仕事で出会ったマーシャなどから話も聞いた。火山活動が活発だったジェクン山も落ち着いたそうだが、今後はフィベウス王国で暮らしていくとのこと……俺とリミナは前にお世話になったことを改めてお礼を述べたりしつつ、別れの日となった。


 王様やフロディア達と別れ、俺達は一路ナナジア王国の交易中心地であるファザンクへと向かった。目的は一つ。俺に剣を授けてくれた鍛冶師ルールクに会うためだ。


「よお、久しぶりだな」

「はい、どうも」


 再会はルールクからの挨拶から始まった。以前と変わらない汚れた格好に、不精ひげ。相変わらずだった。


「話は噂程度だが聞いているよ。魔王なんかを倒したんだって?」

「……はい」


 一般人である彼に詳細を話すわけにもいかない――レイナに話したのはあくまで例外であり、なおかつ閉鎖的な場所だったので問題ないという判断だったためだ。

 アレスやリデスについては国が公にするまでは秘密にしておいた方がいいので、それについて喋れないのが少しばかり歯がゆかったが、仕方がない。


「今回は、お礼に」

「よしてくれよ。魔王なんて出現した以上、こちらが礼を言う立場だろう」


 笑いながら話す彼。その表情は晴々としていた。


「俺が訊きたいのは一つだ。俺が渡したリデスの剣はどうなっている?」

「仲間である闘士セシルが」

「なるほど、統一闘技大会ベスト4の闘士か。そして勇者レンと共に戦い続けた戦士……剣を持つには十分だな」


 笑うルールク。俺はなんとなく、セシルもここにいつか来させた方がいいなとなんとなく思った。


「剣の処遇がわかっただけでも十分だ……雰囲気からなんとなくわかる。色々話したいが、国から止められているような雰囲気だな?」


 正解だった。頷いた俺にルールクは笑い、


「真実を知ることができないのはちょっとだけ悔しいが……ま、それについては待つことにするさ。レン達が気にする必要はない」

「ありがとうございます」


 礼を述べる。それにルールクは俺達を一瞥し、


「ま、話せる範囲でいいから色々と聞かせてくれよ……あ、場所を移すか? 一応こんなナリだが、いい店の一つや二つは知っているんだぜ――」






 ルールクと話し込んだ翌日、俺達は彼と別れ南へと向かった。その目的はシュウの屋敷――いや、現在はフィクハが管理しているので彼女の屋敷か。


 シュウがあの戦いの首謀者であることはまだ公にはされていない。だが彼が動き回っていたことは貴族なんかが知っているため、これについてはきっと漏れてしまうだろうと誰かが言っていた。その時ダメージがないようにする――そんな風にナーゲンやフロディアが言っていたことをふと思い出した。


 田園風景が広がる道を歩きながら、やがて俺達は周囲と比べ場違いな屋敷の前に辿り着く。門を抜けドアノッカーを叩くと、少しして扉が開いた。


「レンと、リミナか」

「元気だったか?」


 問い掛けると、フィクハは疲れたような笑いを見せた。


「元気……かどうかは微妙だね」

「なんだよそれ」

「屋敷を管理するのがすごく大変だなって話」


 腐心しているらしい。とはいえフィクハは知り合いの来訪を歓迎するのか、迎え入れてくれた。

 それから食堂で侍女からお茶なんかをもらいつつ話をする。フィクハはシュウに任されたということでこの広い屋敷の管理を始めたのだが――自身の勇者としての活動などできるはずもないし、さらに言えば自身の研究なんかもまったくできないくらいには忙しいとのこと。


「まあそれもある程度落ち着いてきたから、そろそろ研究くらいはしたいと思うけれど」

「シュウさんの研究を引き継ぐのか?」


 質問してみると、彼女は肩をすくめた。


「それもありだけど、何をするかは決まっていない感じかな」

「そっか……大変だろうけど、頑張ってくれ」

「わかった。こんな立派な建物だし、きちんと残さないと」


 フィクハは笑う。そこには大変さはあれど、充実していることはわかった。


「ところでレン達は今後どうするの?」

「フィクハの屋敷を後にしたら、今度は勇者の証争奪をしていた場所に」

「ああ、そういうこと。それに参加はできなかったから、残念だったな」

「まあ仕方がないさ……そこからナナジア王国の首都に向かおうかなと」

「行ったことあるの?」

「ないけど、グレンにも会いたいからさ」

「ああ、なるほどね……あ、そういえばグレンは勇者の試練があった場所の周辺で仕事をしているって最近耳にしたけど」

「え、本当か?」

「うん。運が良ければそこで会えるかもしれないね」


 それはいいことを聞いた……そこからは取り留めもない雑談だったのだが、ある時俺はふと思い出した。


「そういえば、フィクハ」

「うん? 何?」

「この屋敷にある蔵書から、本を持ち出していたんだけど……」

「ああ、それなら持っていてもいいよ」

「構わないのか?」

「うん。本来なら書庫に収めている本は持ち出し禁止なんだけど……レンなら特別に」

「そっか」

「もし他に読みたい物があったら、別に持ち出してもいいよ? 私が許可する」


 うーん、どうしようか……ここでリミナを見ると、ちょっと興味深そうにフィクハを見ていた。


「あの……書庫に入っても?」

「いいよ。あ、ゆっくりと調べものでもしたい?」

「え、えっと……」

「リミナ、そういうことならここでゆっくりしてもいいんじゃないか?」


 俺からの提案。するとリミナは「本当ですか?」と聞き返した。


「しかし、旅の方は……」

「急ぎの旅というわけじゃないし、お金にもまだ余裕があるし……」

「ここにいる間くらいは、衣食住保証してあげるわよ」

「だそうだ。リミナが納得いくまで色々調べてみてもいいだろ……あ、でもさすがに半年とかは勘弁してくれ」

「わかっています」


 そう答えつつも、リミナは笑みを見せた。


「なら、少しだけ滞在してもいいでしょうか?」

「もちろんだよ。フィクハ、いいよな?」

「ええ」

「俺の方は何かできることはある?」

「なら、もしモンスターが出現したらその駆除を頼もうかな。それほど強い奴がでるわけでもないし、レンだけでも戦えると思う」

「わかった」


 俺は了承。というわけで、しばらくの間俺とリミナはシュウの屋敷に滞在することになった。



 ――結果として、十日ほど屋敷にいた。リミナは満足した様子だったし、フィクハも仲間である俺やリミナという話し相手がいてずいぶんとリラックスしながら仕事ができたようなので、よかった。


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