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闘技の都

「……で、戻ってきて僕の所に?」

「ああ」


 セシルの屋敷の食堂。時間的に昼前だったので、セシルは早めの昼食をとっていた。で、俺とリミナはそれに付き合う形となった。


「ま、いいけどね。それで、ファルンの村では納得いくような形になったのかい?」

「ああ」

「そっか。それならいいさ」


 パンをかじりつつセシルは言う。


「で、屋敷には戻るのかい?」

「いや、このままナーゲンさん達に挨拶をして出て行こうかと思っている」

「帰りたくなさそうな気配がプンプンするね」


 図星なので俺は誤魔化すように肩をすくめてみる。セシルはそれ以上何も言わず……ここで、リミナが質問した。


「セシルさん、ノディさんは?」

「闘技場地下の訓練場じゃないかな。ナーゲンさんに会いに行くのならノディにも会えると思うよ」


 ――そう、戦いの後多くの仲間がセシルの屋敷を離れたわけだが、唯一彼女だけは残っていた。主だった理由は訓練とのことだが……まあ、深く詮索するつもりはない。


「なら、昼食後すぐにでも闘技場に足を運ぶよ」

「ああ……それと、レン」

「ん? どうした?」

「次闘技大会に出場する時には、決勝で決着をつけようじゃないか」

「出場する気はまったくないんだけど」

「えー」


 不満を零すセシル――ここで俺は、閃いた。


「まあ、決着云々については考慮してやってもいいか」

「お、本当に?」

「ああ、ただし――」


 と、俺はちょっと挑発的な目線を伴い、


「統一闘技大会で優勝くらいはしてもらわないとな」


 と、言った瞬間セシルの瞳がひときわ輝いた。あれ? これって――


「二言は無いな?」

「え? あ、ああ、まあ……」

「なら、きちんと憶えていてくれよ」


 もしや、こういうことを言わせるためにセシルは闘技大会の件を持ち出したのだろうか。そうだとしたら俺は墓穴を掘ってしまったことになる。

 視線を転じるとリミナは「頑張ってください」とでも言わんばかりの視線を向けていた。同情とかではなく、応援していますといったところだろうか。


 ――結局、仲間になってもセシルとはとことんこういう間柄らしい。


 まあそれも一興かなどと思いつつ……俺達は食事を終え、セシルに別れを告げ闘技場へ向かうことにした。






「そうか、今日中にベルファトラスから出るのかい?」

「はい。今日は近くの宿場町で一泊することになるかなと」

「屋敷に帰りたくないんだね」


 ……決して、嫌というわけではない。けどなんというか、今の俺にとって落ち着かないだけなのだ。


「えっと、そういうわけなので……」

「わかった。挨拶に来てくれてありがとう」

「ところで、ノディは?」

「今はマクロイドと訓練している。休憩中だからその内戻ってくるよ」


 そうナーゲンが語っている間に背後から声。振り返るとノディとマクロイドの姿が。


「やあレン。帰って来てたんだ」

「ああ。けどすぐにでもベルファトラスを発つけどね」

「屋敷に帰りたくないんだ」


 ……ひょっとして、みんなわかっているのか?


 まあその辺りについては訊かないでおくことにして……戦いが終わり色んな場所に挨拶しに行こうと思っていることを伝えると、ノディは少しばかり行こうかなという雰囲気を見せる。


「うーん……けど、訓練しないといけないし、今回はやめとこうかな」

「ま、懸命だな」


 と、これはマクロイドの発言。


「セシルに追いつきたいんだったら、今以上に訓練しないとな」

「ま、そういうことだね」


 ……二人は意外にも馬が合うらしい。


「それで統一闘技大会で大いにへこましてやるんだから」

「頑張ってくれ、ノディ」


 先ほどセシルと約束してしまったことを思い出し告げる。するとノディは笑みを見せ、


「うん、レンも戦いたくないだろうから私を応援してね」

「……あれ? 事情は知っているのか?」

「毎日のように言っているから」


 そうなのか……余程なんだなと思いつつ、苦笑する他なかった。

 次いで俺はマクロイドに視線を向ける。すると、


「いや、まさかこれほど短い間に抜かれるとは思っても見なかったぜ」


 改めて言われる……彼は前々回における統一闘技大会優勝者なわけだが、彼自身それは過去の事であると結論付け、訓練を行っている。


「なあレン。俺は統一闘技大会の覇者だが次回大会も出場しようと思っている。で、俺が優勝したら戦ってくれるか?」

「……なぜ、こうまで俺と戦いたがるのだろうか」

「当然だと思うよ」


 ナーゲンの言葉。それと同時に訓練を行う幾人かの戦士が顔をこちらに向けた。


「君ほどの功績を持つ新世代の戦士は他にいない。当然、打ち負かしてやろうと考える人間もいるはずだよ」

「……そうですか」

「アレスも戦いが終わった直後大変だったという話だし、こればかりは仕方がないな」


 有名税というやつだろうか。名は知れ渡っていても顔を知っている人間はいないので、名を明かさなければそれほど問題はないはずだが……ベルファトラスでは知れ渡っているので、どうしてもナーゲンが言ったようなトラブルが起きてしまうのかもしれない。


 まあ、いいか……とりあえず絡まれないように注意を払うとしよう。とはいえ俺の家はこの場所にある。今後もそういう騒動が待っているとなると、家があったとしても危ない気もする。


「レン君」


 ふいにナーゲンから呼び掛けられる。


「ルルーナ達にも会いに行くんだろ? 戦士団がどこにいるかについては多少情報が入っているから、教えておくよ」

「ありがとうございます」


 礼を言い俺とリミナは戦士団に関する情報を貰う。で、俺達はナーゲン達に別れを告げ、闘技場を出る。直後リミナが問い掛けた。


「それでは、早速移動しますか?」

「ああ、そうだな」


 歩く間にも俺へ視線を投げかける人間がいるのがわかる。騒動にならない内にさっさとベルファトラスを出るに限るだろう。

 その時、ふと俺は闘技場を振り返る。ベルファトラスを本拠とした時から、ずいぶんとこの場には世話になった。屋敷を構えた以上、ベルファトラスにいるなら今後もここに訪れることが多いだろう。


「勇者様?」


 リミナが問う。俺はそれに「ごめん」と告げ、改めてベルファトラスを出るべく歩き出した。


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