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故郷の村

「ふう……ようやくだな」

「はい」


 目の前には見慣れた……といっても一度しか来た事がないけれど、レンの故郷であるレーティル王国内の村、ファルンが見えていた。


「レイナさん、元気かな」

「元気ですよ、きっと」


 俺達は会話を行いつつ、村へと歩き始めた。






 ――ラキとの戦いから、半年近くが経過した。季節は春。本来この村には戦いが終わった後すぐに訪れたかったのだけれど、色々戦いの後の処理だったり、恐ろしい程長く続いた王様主導の宴会などによって冬が来てしまい、来れなくなった。よって雪解けした今、ここを訪れた。


 俺達は村の人達に挨拶を行いつつ、屋敷へ進む。どうやら俺達の情報が行き渡る前に雪が降ったらしく、ここには魔王を倒したことなどは伝わっていない様子。

 まあ俺達としてはその方が色々詮索されなくてありがたい。


 屋敷へ近づきドアノッカーを叩く。少しすると出てきたのは、レイナの姿。


「お久しぶりです」

「レン君とリミナさん……よく来たわ」


 歓迎する彼女。そこから適度に雑談をしつつ食堂に向かい、お茶を飲みながら本題に入ることにする。

 彼女にだけは……ここを管理してもらっている彼女には、直接俺やリミナも伝えておきたかった。ラキ達のことを。


「……そう」


 事の一切を聞いたレイナは、苦笑を交え言葉を漏らした。


「なんだか、数奇な運命ね。そして人知れず、この世界の趨勢を決める戦いが行われていたなんて」

「本当は、最初に訪れた時話しても良かったのですが……」

「不安を抱えて欲しくなかった?」

「それもありますし、何より魔王と戦うのは俺達も予想外でしたし」


 レイナは笑う。その表情は晴々としている。


「そう……なんだか信じられない話ではあるけれど、二人が言う以上信じるわ。それに、いずれこの村にもそういう話が入って来るだろうし」

「そうですね」

「ちなみに今、レン君達はどこを拠点としているの?」

「ベルファトラスです。とはいっても、あんまり長居していないんですけど」

「そうなの?」

「戦後処理で色々と動き回っていましたし」


 実はこの半年間、魔王が残した魔物や悪魔の討伐なんかが仕事として入って来ていた。グレンやフィクハを始めとした勇者達は全員所属していた所に戻り魔物の討伐なんかをしている。戦士団についてもフル稼働していたが……今は少し、落ち着いている。


「俺達はベルファトラス領内とその周辺を」

「そうなんだ。今回はそれも一段落したってこと?」

「それもありますけど……まあ仲間のセシルからは『僕に任せてくれればいい』と言われたりもしたんですけど、冬場ここに来れないというのもありましたし」

「そっか……ありがとう、話してくれて」


 レイナは言う……けれど、やっぱり少し寂しい目をしていた。


「この屋敷の持ち主は、誰もいなくなったのよね……しいて言えばレン君がそうだけれど、ここに来るつもりはないのよね?」

「……はい」


 それだけは明確に答えた。するとレイナは「わかった」と告げ、


「この屋敷をどうするかは、今後村の人と話をすることにするわ。悲しい話となってしまうけれど、いずれラキ君のことについても話すと思う。だからそのタイミングで」

「はい……けど、その」

「あまりラキ君を悪者にして欲しくない?」

「それは、レイナさんにお任せしていいですか?」

「いいわよ。安心して。問題がないように話すから」


 微笑を見せレイナは語る。俺は「お願いします」と告げ、ひとまず話を打ち切った。


 それから少し屋敷の中を散策する。前訪れた時は事情があってあまり落ち着かなかったのだが、今ならゆっくりと屋敷を見て回れる余裕がある。


「一つ、訊いてもいい?」


 同行するレイナが訊く。俺はどういう言葉が来るか予想しつつ「どうぞ」と返答。


「また、ここに来てくれる?」

「もちろんです」

「それならこの屋敷はずっと残しておかないとね」

「はい……ここにある蔵書なんかも貴重だと思いますし、できる限り残して欲しいとは思います」


 レーティル王国領内ではあるが、ルファイズ王国なんかが上手く話をすればどうにかなるかもしれない。俺はその辺りのことを記憶に留めておきつつ、ゆったりとした時間を過ごした。






 それから数日間はこの村に滞在した。戻ってきたということで色々村人から歓待を受けそうになったのだが、俺はこの村にいたレンじゃないし、ちょっとばかり対応に苦慮しつつ出発の日を迎える。

 といっても来るのは大変で戻るのはリミナの転移魔法を使用するだけなんだけど……考えていると屋敷のエントランスで準備を整えたリミナと合流した。


「勇者様、これからどうなされますか?」

「うーん、そうだな。戦いの前に行っていた通り挨拶回りをしようか」

「はい」

「というわけで、まずはベルファトラスからだな。転移魔法を使用した後セシルの屋敷に向かおう」

「はい……といいますか、ずいぶんと近所から始めるのですね」


 ……実は俺、統一闘技大会優勝者ということでラキとの戦いの後屋敷を貰ったのだが……三軒跨いだ所にセシルの屋敷がある。

 ものすごい近所ということでセシルが爆笑していた記憶がある。まあ近くだから問題があるわけでもないので俺は気にしていないのだけど。


 あと、屋敷を貰ったのはいいけど正直あまり落ち着かない。セシルの屋敷に滞在していた頃は部屋は大きくても俺が自由に使えるスペースは一部屋だけだったのでまだよかったのだが、屋敷全体が俺の所有物というのは首を傾げたくなる。魔物の討伐とかに動いていてあんまり屋敷に寄りついていないこともその原因だとは思うけど……あの場所で暮らしは始めたら慣れるのだろうか。


「ちなみに勇者様。お屋敷に戻られますか?」

「……いや、とりあえずやめとくよ」

「なんだか、帰りたくなさそうですね」


 帰ったら帰ったで屋敷と一緒についてきたメイドやら執事やらが出迎えてくれるのだが、はっきり言ってそれが余計に落ち着かない。俺は勇者で大陸を救った英雄なのでそのくらいはあってしかるべきなんて言う人もいるのだが……ちょっとやり過ぎなのではと考えたりもする。


「ひとまずベルファトラス内を回ってから……ルファイズの方にはここに来る途中挨拶したし、ベルファトラスを訪れる前の旅路を逆走しようか」

「あ、それはいいですね。フィベウス王国の方々にも挨拶したいですし」


 リミナも同意。というわけで今後の方針が決定。


「レン君。リミナさん」


 そこへレイナがやってくる。


「もう行くのね……また会えることを楽しみにしているわ」

「はい、レイナさんもお元気で」

「ええ」


 にっこりと笑みを見せるレイナ。彼女に見送られ……俺達は、屋敷を後にした。


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