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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者死闘編

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勇者一閃

 ラキ自身、先代魔王の力を継いでいる以上並の攻撃は通用しない。セシルは高速の剣技を得意としている以上、ルルーナのような重い斬撃を繰り出すことは難しい。だからこそ癖を見極めることを選択したはずだが――

 先んじて仕掛けたのはセシルではなく、リミナ。槍の先端が愚直な程真っ直ぐラキへと突き込まれる。


 それをラキは身を捻り避ける。反撃しようというタイミングでセシルが妨害に入り、事なきを得る。

 二人は組んで戦ったことはあまりなかったはずだが、それでも上手く立ち回っている……基本セシルがフォローをする形ではあるけれど。


 ラキも攻撃が通用しないとはいえ妨害されればそれだけ動きが鈍り、リミナに攻撃する隙を失くす……見様によってはこれもまた癖を突いて攻撃しているということなのだろうか?


 そこへ俺が仕掛ける。間合いを詰め牽制的な意味合いで仕掛けてみるが、弾かれる。

 ラキが反撃しようとしたところでまたもセシルが援護……気付けば、戦局がセシル手動で変化するようになっている。本来攻撃が通用しないにも関わらずこの戦いの趨勢を握るような形となっており――ラキもこれを察したか、剣の矛先をセシルへ向けるような素振りを見せた。


 直後、リミナの魔力が膨れ上がる。セシルへ狙いを定めたのを彼女も感じ取ったらしい。

 だが、彼女はセシルを援護するべく動いたのではなかった。槍を奮い、その狙いは――


「――そうか」


 感嘆の声。同時にラキはセシルへの攻撃を中断し、視線をリミナへ向ける。

 彼女の槍は、ラキではなく地面へと薙がれた。同時に風が炸裂し、ほんの僅かだが石床を切り裂く。


 魔法陣が存在する床を狙って――だが塔に存在する濃い魔力に変化はない。


「残念だったね。この魔法陣は既に役目を果たしているし、必要のないものだよ」


 ラキの反撃。彼女はそれを紙一重で避け、俺は攻撃を中断。セシルとリミナも後退した。


「本当の狙いは魔法陣だったというわけかい? 策としては、お粗末なんじゃないかな?」


 挑発的な言動だが、瞳に宿る警戒の色は消えていない。

 俺は呼吸を整える……それと同時に二人を見る。今までの行動は全て魔法陣を狙うため……正直そうは思えない。実際ラキもそう感じて警戒は解いていない。


「リミナさん」

「はい」


 またもセシルとリミナの短い会話。


「私は、大丈夫です」

「わかった……レン」

「ああ。さっきも言ったとおりだろ?」


 ――信じるさ。当たり前だろ。


 口にはしなかったが、セシルとリミナは俺の気持ちをはっきりと感じ取ったらしい。両者は頷き、互いに魔力を武器に収束させる。

 次で最後だと言わんばかりの気配。それにラキもまた応じるべく、濃い魔力を見せる。


 そして俺も――次で最後だという思いを抱き、一時誰もが沈黙する。

 ラキも同じように感じているのか、それに応じるべく静かに俺達を見据えている……ここまでの戦い、それほど時間も経過していない。けれど、戦局は終盤を迎えようとしているのは間違いない。


 この場は大陸の存亡を賭けた最終決戦であり――そして、今この瞬間がまさに、それを決める時。


 セシルとリミナが動く。互いが何か考えを持っていることは俺にもわかった。それが通用するのかどうか――俺はそれを信じ、二人を追う。

 セシルが先に剣を薙ぐ。二つの剣は先ほどよりも鋭さを増し――否、後先を考えず、今この時こそが決め時だと考えた、持てる魔力を振り絞った最高の連撃。


 だがそれを、ラキは平然と弾く。シュウの力が加わったラキの剣は技術においてはセシルを下回っているかもしれないが、それでも総合的な能力で上回っている。

 けれどセシルは攻め立てる。そしてリミナもまた動く。


 セシルが仕掛けている状況下で、槍を放つ。突きは正確にラキを捉え――なおかつセシルを通過して腹部へと迫ろうとする。


「――届かない」


 ラキは言う。セシルの猛攻を退けてなお、彼女の槍を弾く余裕があった。

 だが次の瞬間、変化が起こる。


 突如、槍の先端から炎が生じた。彼女が放つ火炎魔法と比べればとるに足らない規模のもの。しかしその炎は一瞬ラキの視界を覆ったのは間違いない。


「無駄だ」


 対するラキは視界に頼らずとも絶えず放たれるセシルの剣戟を防ぎ切る。ただ俺は不安はない。目くらましが通用しないことは二人も想定済みだろう。リミナは次の攻撃に入り、槍を縦に一閃しようと動く。

 槍の先端に、俺は風の魔力を感じ取る――避けたら風を炸裂させるか。けれど近くにはセシルもいる。どうするのか。


 一方のセシルはリミナの攻撃に構わず剣を振り続ける。全力で攻撃し続けるのはそう長くはもたないだろう。もし何か策を用いようとしているのなら、今しかない。

 セシルがさらに一歩間合いを詰める。さらにそこから剣戟を浴びせるつもりか――


 そこへ、リミナの槍がラキへと迫る。


「ここまで連携できるとは、驚きだよ」


 ラキが言う。その顔はまだ余裕を滲ませた雰囲気を持っていた。


 リミナの槍を最小限の動きでラキは避ける。そしてセシルの全力の剣戟を――同時、セシルの剣戟がラキの動きを僅かに鈍らせた。ラキにとってそれは予想外だったのか、目を僅かに細めた。そして――

 彼の斬撃がとうとうラキに入った。だが、


「……通用しない」


 その体には、傷が生じていない。黒衣すらも切り裂くことができなかった。

 けれど、セシルは攻勢を緩めなかった。すぐ後方には俺が剣を放つべく魔力を収束させ間合いを詰めている。ラキもそれを警戒し俺へと視線を流し、


 畳み掛けるようにセシルが再度仕掛ける。


「――おおおっ!」


 声と共に最後の力を振り絞るような剣戟。今までセシルがこの場をある程度制御してきた。もし彼が力尽きたとしたら戦局は大きく不利となるだろう。しかし彼は賭けに出た。


 なら俺は、その賭けを成立させるべく前に進むだけだ――!


 先ほど以上に鋭い剣戟。ラキは攻撃が効かなかったとしても何か仕掛けがあると踏んでかセシルの攻撃を弾き続けている。そこへリミナも迫る。


 俺は直感する。この一瞬の攻防で、決まる。


 セシルの背後で縦に一閃するべく剣を構える。するとセシルは剣を向けながらも僅かに左へと逸れた。俺が間合いを詰められるスペースを譲る――この猛攻は、ラキの足止めと移動できるだけの時間を稼ぐためのものだったのかもしれない。

 リミナも右から迫る。ラキの動きを見て、俺の攻撃を防御しようというのなら邪魔をするべく――けれどラキはそれを正確に読んでいた。


「この一瞬に勝負を賭けるか」


 二人の行動に気圧されたか、ラキの警戒が強くなった。だから彼は足を動かす。右にリミナ、左にセシルがいる状況で、そちらに動けば追撃される。だからこそ彼は後退を行い――


 ラキが地面に足を取られたのは、その時だった。


「――え?」


 一瞬の出来事。一瞥すると石床に、ほんの僅かだがくぼみができていた。

 リミナの魔法――俺は瞬時に悟り、それを気付かせないようにセシル達は猛攻を仕掛けていたと悟る。


 ラキにとってはそれはひどくささいな攻撃。だから体勢を崩すのも一瞬。俺の剣が届く前に体勢を立て直す――はずだった。

 直後、セシルの高速剣が放たれる。それをラキは防いだが、鋭い剣戟は容易く剣を通過しラキの右腕に殺到した。


 これまで見抜いた癖を利用し、今この時右腕の動きを制限した――悟ると同時に俺は剣を縦に薙ぐ。足を取られ、右腕の動きを鈍らされ――その一つ一つはラキにとって些細な変化。だがその二つが合わさり連鎖的に動きが鈍り、


 俺の渾身の一撃が、ラキの体へと入った。


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