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闘士の策

 リミナが持つ槍先には、光。それを見たラキは、笑みを消し彼女を注視する。


 対する彼女はさらに一歩踏み出すと同時に、槍先から光を放った。光の塊とでも言うべきそれは、風や炎といった具体的なものではなく、ただただ愚直なまでの魔力の塊。身体強化能力を考慮し、風などでラキを押し留めることは不可能だと考えたため、そのような攻撃に出たのかもしれない。

 それに対しラキは――その強化能力を避けようと思えば避けられたはず。だが彼は剣を振り、


 その光を正面から弾き飛ばした。


 リミナは動きを止める。とはいえ動揺するような様子は見せていない。シュウの力まで取り込んだ以上、こうなることも予想していたという雰囲気。

 次いでラキは俺を見る。セシルとリミナの攻撃は防いだ。どうする――そういう意図が見え隠れする視線だった。


 俺は――呼吸を整え、再度足を前に踏み出す。


 一歩で間合いを詰めると、セシルやリミナもまた動く。二人の動きは非常に直線的。小細工は通用しない。だから持ち得る力を結集した攻撃を加える……そういう意図がはっきりと窺えた。

 ラキもそれに応じる構えであり――これだけの出力を行使できる時間は限界がある。


 つまり、ラキに勝てるとしたら俺達が全力を出せている間だけ――


「ふっ!」


 先んじて仕掛けたのはセシル。先ほどにも劣らぬ高速の剣戟がラキへ襲い掛かったが、彼は平然と防いだ。

 続けざまにリミナの槍。渾身の突きはラキにあっさりと受け流されたが、セシルの攻撃もあって反撃されるようなことにはならなかった。


「さすが、と言いたい所だけど」


 あくまでラキは涼しい顔。二人の攻撃なんて通用しないという姿勢を貫いているが……そこへ、俺が踏み込んだ。

 上段からの振り下ろし。ラキはそれを真正面から受け止め、しばしせめぎ合う。


 そこでラキと目が合う。感嘆とも怒りとも、そして悲しみともつかない複雑な瞳の色に、俺は叫び声で応じた。


「――おおおっ!」


 声と共に振り抜く。力でラキを上回ることは現状難しいようだが、勢いをつければまだラキの刃を動かすことはできる。

 ラキは押し返そうとしたようだが、左右からなおも執拗に迫るセシルとリミナを見て、後退を選択した。


 せめぎ合っていたラキの剣が離れる。追撃してもよかったが、俺は出方を窺うことを選択して態勢を整えるに留めた。


「……意外だな。ここで僕ら三人をまとめて攻撃するとか思っていたんだけど」


 セシルが茶化すように告げる。するとラキは肩をすくめ、


「さすがに、全力で攻撃する相手にそこまで悠長なことはしないさ」

「涼しい顔をしていながら、警戒は怠っていないということか」

「当然だろ?」


 ラキは剣を軽く素振りする。


「仮にも統一闘技大会の上位入賞者だ。全力でやらせてもらうよ」


 この場で、統一闘技大会という文言がどれほど意味を成すのか――途端、セシルの体から魔力が発せられる。


「闘技大会のことを言ってもらえるのは光栄だね」

「ああ。そしてあなたがやろうとしていることは……こちらも把握しているよ」


 ラキのそんな言葉に、セシルは無表情。というより、端から相手がわかっているという前提で考えている様子だった。


「策を見破られたとわかっていても、なおその策を使おうとするのかい?」

「……看破したからといって、どうにかなるようなものではないだろう?」

「ま、確かに」


 ラキは言う――ここで俺はセシルの魂胆を理解する。


 闘技大会のことをラキが持ち出し策をわかっていると宣言したということは、闘技大会に見せたセシルの戦い方はわかっていると言いたいのだろう。で、この場で考えられるとすれば間違いなく相手の癖を見極める『神眼』だ。

 つまりセシルは最初からシュウの力を取り込み魔王に匹敵する存在となったラキを相手にするのではなく、剣士としてのラキと戦うつもりでいたということだ。剣士であり剣術を使う以上、セシルの目なら癖を見極め突破口を見つけられるかもしれない。


 ただそれは間違いなくラキを倒す決定打とはならない。セシルが考えているのは、癖を見極めそれを利用し俺の剣がラキに当てられるよう隙を作ることだろう。


「あんたは確かに、魔力の保有量なんかはこの場の誰よりも上回っている。だが……壁を超えた時期が早かったとしても、あんたの剣技は発展途上だとあの闘技大会でわかっている。なら、どれほど頑張っても隙は出てくるというわけさ」


 俺の推測通りセシルは『神眼』の話を出す。するとラキは苦笑し、


「確かに、ね。まさかこの最終決戦でそういうアプローチに出るとは思わなかったよ」

「……失敬だな。そもそもこの戦い方は、英雄リデス直伝なんだけどな」


 セシルの言及に、ラキは苦笑を止める。


「英雄アレスが魔王を倒せる力を持っていた……それを最後まで援護したのは英雄リデスだ。彼は持ち前の剣技で魔王の攻撃を弾き、アレスはとうとう魔王に刃を突き立てた。まあ、当の魔王はその時点では生きていて今回の話に繋がってしまうわけだけど……ともかく、剣技が強大な存在にも通用する一例というわけだ」

「なるほど、ね」


 心底納得したようにラキは声を上げる。


「よくわかったよ……だけどそれで、本当に僕にレンの剣が届くとでも?」

「届かせてみせるさ」


 宣言。力強い発言であり、その背中には確固たる意志がある。

 それはリミナも同じことで言え、彼女は槍を構えながら静かに魔力を収束させている。


 彼女もまた、セシルと同様何か勝機を見出そうとしている――それが果たして功を奏すのか。


「――ここに来た以上、僕は四人全員が最強の敵だとは思っているよ」


 表情を変えることのないまま、ラキは俺達へ告げる。


「けれど、どれだけ足掻こうとも僕の十分な傷を負わせられるのはレン一人のはずだ」

「そうだな」


 セシルは同意し――それでいて、笑みを見せる。


「――リミナさん」

「はい、わかっています」


 セシルとリミナが会話を交わす。まるで以前から打ち合わせをしていたかのような言動。それがブラフなのか本当に何か話しあっていたのか……とはいえ、ラキは目を細めた。


「レン抜きでもどうにかするということかい? それとも、二人が犠牲となってレンの剣を僕に当てるということかい?」

「――見てのお楽しみだ」


 セシルが告げる。そして、


「レンは……ラキに一撃当てることだけ考えてくれ」


 そんな言葉を発した後、再度セシルは動き出した。


 話の流れからは、まるで自分が犠牲になるような雰囲気にも感じられるが……俺自身、彼の声音からそうは感じなかった。リミナと話したこともあり、おそらく何か手があると思った。

 それは本当に事前に話し合われていたことなのか……ただ少なくともセシルが自己犠牲のような動きをしているわけではないことはわかっている。


 ラキにはどう見えているのか……策がある、もしくは自らを犠牲にしてという両方の可能性を考慮して動き出すのは間違いないが――


 セシルやリミナに遅れて俺は走る。ともかく、セシルやリミナがラキに剣が届く道を作ってくれるのなら、それに応じるべく俺は剣戟を放つ必要がある。

 だからこそ――俺は魔王アルーゼンを滅した力を起動させる。ただ魔力を込めた極めてシンプルな一撃だが……これなら、確実にラキへと届くはずだ。


 それを携え、セシル達に続く。対するラキはどこまでも俺達に涼しい表情と警戒の眼差しを向け――迎え撃った。


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