決戦開始
「確認だ……僕らはあくまでサポートに回る。レンはラキに剣を加えるべく集中するってことでいいかい?」
セシルの言葉にリミナやフィクハは同調したらしく頷いた。俺は小さく「わかった」と応じ……次の広間へと入る。
その瞬間、今まで以上の魔力が俺達を取り巻き始めた。空気が明らかに変わった――そう思うと同時に階段に目を向け、悟る。
あの階段を上れば、間違いなくラキのいる場所へ到達する。
「……全員、覚悟はいいな?」
確認の問いに全員頷き、俺達は階段を上る。その途中、俺は仲間達に訊く。
「魔力の回復薬をまだ持っているけど……俺はほぼ全快だから必要ない。誰か飲むか?」
「なら、私に飲ませてくれない?」
声は、フィクハからだった。
「実の所、森の戦闘でずいぶん魔力を使っていたから」
「わかった」
「でも、レンはいいの?」
「……この戦い、ラキを止めるのは当然としても、場合によっては魔王復活の魔法を止める必要性が出てくるかもしれない。それを少しでも抑えることができる可能性があるのはフィクハかリミナ……なら二人のどちらかは最後まで魔力を保有しておいた方がいい」
「わかった。ならその役目は私が」
フィクハの言葉に俺は「頼む」と告げ、ストレージカードから薬を取り出し彼女に渡す。それを飲み干した彼女は再度俺に礼を述べ――さらに進んだ。
歩いていくと、やがて光が見えてきた。それは間違いなく出口の光――俺達はそこを目指しとうとう上り切った。そして、
「待っていた」
黒衣を身にまとったラキが、真正面に立っていた。
塔の最上階――とはいえ円形の空間に数メートルの壁が囲うように存在するため、景色を見ることはできない。
その中央に、ラキは立っていた。上には綺麗な空。正直な所、晴天の青空の下で戦うというのは、どうにも変な感じがした。
「お前を倒せば、計画はご破算になるってことでいいのか?」
セシルが問う。するとラキは深々と頷いた。
「そういう認識でいてくれて構わない」
「なら、話は早いな」
剣を構えるセシル。それにラキは微笑を浮かべ、
「そう焦らなくてもいいじゃないか……ああ、そうか。急ぐ必要があるって認識なのか」
ラキはどこか面白そうに語る……口ぶりからすると――
「魔王復活のための魔法は、まだ収束途中だよ。この塔の機能に組み込んでしまったため特定の条件なしには解除できないけどね」
条件……ラキの立っている床には魔法陣が刻まれている。それが魔法発動条件に絡んでいるのか……いや、それはブラフで他に何か必要なのかもしれない。
俺達の第一目標はラキを倒すことではなく魔王復活の阻止なわけだが……こちらの目的はラキ達も気付いているはず。なおかつ、魔王復活はラキ達の悲願であり最重要な事……当然魔法を解除されないよう二重三重と対策を立てていると考えて間違いない。
「……レン、色々考えているようだけど」
そんな中、フィクハが発言。
「一番ベストなのは、ラキを倒すこと……そうでしょ?」
「ああ、わかっている」
「方針は決まったかい?」
ラキが問う――そう、魔王復活を止めるとしても、最もわかりやすいのは目の前でその魔法の発動権限を持っているラキを倒すことだ。
きっとそれがなおかつ一番達成しやすい手段だろう……俺は、覚悟を決めた。
剣を構える。セシルが横に来て剣を構え、さらにリミナも前に出て槍を構えた。
唯一フィクハだけは後方にいて、いつでもフォローできるように構えている……先ほど会話を行った通り、彼女は魔王復活の魔法を行使された時のために魔力を温存。もちろん彼女自身、俺達が危なければ後方から支援をするだろう。
ほんの一時、沈黙が生じる――時間にして一分にも満たないものだったはずだが、恐ろしい程長く感じた。ラキは表情を引き締め俺達に応じる構えを見せる。
この戦いで、大陸の運命が決まる――ここまで気負うつもりはなかったが、そう改めて考えると体に力が入る。
俺は一度目を伏せ、ゆっくりと開ける。ラキは変わらず目の前にいる。気配からはわからないが、シュウの魔力も手に入れ以前とは比べ物にならない力を有しているだろう。それでも――
「フィクハ、援護は頼む」
「任せて」
「セシル、存分に暴れてくれよ」
「もちろんだ」
「リミナ……絶対に、勝つぞ」
「はい」
言葉と同時に、俺は走った。それと共に、セシルとリミナも駆け出す。
「――決着の時だね」
ラキが言う。剣を抜き、俺達を迎え撃つ様子。
最終決戦――そうした言葉が頭に浮かんだ直後、ラキとの戦闘が始まった。
俺より先行してセシルが剣を薙ぐ。二刀流の剣戟は凄まじい速度でラキへ襲い掛かったが、彼はそれを一本の剣で防ぎ切った。
「シュウから受け取った魔力は……そういう使い方をしているのか」
セシルが言う。その間に俺は右腕に魔力を込め、なおかつ左手に氷の盾を生み出し、剣を放った。
技を行使したわけではないが、威力は『桜花』にも匹敵する渾身の一撃――だがそれを、ラキはいとも容易く弾いた。
それを受け、俺は理解する――セシルも同じように感じたはずだ。
シュウの魔力は、全て身体強化に費やされた。
「――反撃だ」
ラキが剣を振る。反射的に盾を構えようとしたが――ゾクリと背筋が凍った。
即座に聖剣でそれを防ごうとする。剣先が触れた瞬間、途轍もない力で剣が押し込められる。
「くっ!」
このままだと剣が弾かれ刃が当たると悟った俺は、足を後方へ動かす。ラキの一撃による反動もあって俺は数メートル以上吹き飛ぶが、どうにか体勢は維持した。
「壁際まで吹っ飛ばすつもりだったんだけどね」
ラキは悠然と言いながらセシルの猛攻を弾く。時折彼は反撃するが、セシルはそれを上手く避けていた。
一方のリミナは槍を放とうという構えではあるが、両者の攻防に応じきれないか動けない様子。そして俺はラキの剣を見据える。単なる長剣のように見えるが、先ほどの予感からすると、氷の盾で受けるのはまずいかもしれない。
よって俺は盾そのものを解除。剣を両手に持ち、その全てを刀身に収束させる。
「賢明な処置だ。対応が早くて感服するよ」
ラキが皮肉なのか、そんなことを呟いて見せる。それと同時にセシルが再度剣を放つが、彼は平然と防いだ。
「孤軍奮闘という感じだけど、君の攻撃では致命傷を与えるのは無理だよ?」
「――そんなこと、僕自身よくわかっているさ」
セシルは言うと同時に一度後退。合わせてリミナも距離を置いた。
「けどまあ、無策のまま突撃をしているわけでもない……この戦いが続けば、わかるさ」
「なら、期待しておくよ」
ラキが答える。表情はまだまだ余裕という感じにも思えるが……いや、顔は笑みだがまとう気配は俺達を警戒している。最後の障害である俺達に、全力で応じようとしているのは理解できる。
ここで僅かながら沈黙が生じた。ラキと対峙し……どう動くかを思考する。
ラキはこちらの手の内を闘技大会からある程度把握している……とはいえ、俺達がその頃のままでないことは百も承知だろう。となると闘技大会の戦いを参考にしつつ攻撃を行うわけだが……シュウのように傷を負いながらという戦術は使えないだろう。下手に怪我を負って魔王復活の魔法が使えなくなるのは本末転倒だからだ。
なおかつ身体強化に魔力を費やしたことを考える。セシルの二刀を防ぎ切ったことから考えて腕の振りなどの基礎的な速度から、反応速度だって上がっている可能性がある。となると俺達は彼に一撃加えるのも大変ということであり……また、俺の攻撃が入ればいかにラキとて魔族の力を所持する以上致命的である可能性が高い。なら、勝負はそれほど長く続かないかもしれない。
そんな予測を立てた時――今度はリミナが一歩前に出た。