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英雄の策略

「……駄目か」


 ルルーナがシュウの狙いがわかったと表明したと同時、横にいるフィクハが呟いた。見れば彼女は床面に手を押し当てていた。おそらくシュウの罠を解除できるか探っていたのだろう。けれど口ぶりからできないと判断したようだ。


「お前の目的は、こちらの戦力を減らすこと……理想的なのは、レンにダメージを負わせることか」

「そうだな」


 ルルーナの言葉にシュウは同意する。そして、


「そしてお前がこんなバカな戦略を立てている……まさかそんなことをしているとは思わなかったぞ」


 さらに語るルルーナに対し――今度は、フィクハが口を開いた。


「……魔力が」

「そうだ」


 聞こえたのかシュウが返事をする。フィクハは先ほどから察していたが、それを確信したのだろう。


「タネがわかった以上、話してもいいか。つまり、今私の中に魔力はほとんど残っていない」


 ……え?


「ラキ君にその大半を渡したからな。だからこういう手段でしか、私は戦うことができないというわけだ」


 ――そうか。


 違和感の正体がわかった。シュウの所持している魔力を使えば、さらに効率よく攻撃を行うことができるはずだった。しかし、現実は違う。ラキに力を渡したがために、こういう戦いしかできなくなっているということだ。

 攻撃に対し防ぐだけで反撃しなかったのは、所持している魔力では罠を制御するので限界だったからだろう。魔力がないというのなら今までの戦いも理解できる……だが、そうなると、


「だからこそ、ここでそちらの戦力を減らすことができれば、私達の勝ちは確定する」

「ここで滅んでもいいという覚悟なのか?」


 今度はカインが問い掛けた。するとシュウは、


「どちらにせよ、魔族の力を持つ以上復活できる」

「……何?」

「霊殿の力だよ。死んだり滅んだりしても、その場に数時間程度は魔力が残っているものだ。霊殿は魔族の力が入っている人間も対象となる。それを利用して再度復活することができる」


 だから、死を賭して……そういう事情があったからこそ、エンス達も無茶をしていたのだろう。


「ここで時間を稼げば、私達の目的は達成される」

「どこまでも、お前達の計略通りだと言いたげだな」


 ルルーナは剣を構え直すと、怒りとも苛立ちともつかない声音で発言した。


「だが、タネを理解した以上、こちらにも考えがある」

「誰か一人犠牲にでも、突破するといった感じか? その手もありかもしれないが、それは私も予測しているぞ」


 タダではやられないという気概に満ちている。一人を犠牲にしてなどと考えているようでは、勝てないのだということを無言で語っている。

 ルルーナ達は動かない。タイミングを窺っているのか、それとも踏み込むことができないのか。


 シュウが魔力を所持していないという点については間違いないだろう。だがそれでシュウの目論見を容易につぶせるかと言えばそうではない。現にルルーナ達は警戒し攻撃できないでいる。

 ただそれほど時間もない……だからこそ、ルルーナは走った。


「君が最初の犠牲者か?」


 シュウはルルーナに問う――彼女が踏み出したのは、怪我をしている以上ラキの所に行っても全力で戦えないと悟ったためだろう。だからこそ覚悟を決め、シュウへ迫った――合わせてカインも動く。

 二人の動きは息がぴったりであり、セシル達も咄嗟に反応できない程に俊敏。よって、ルルーナ達はセシル達を半ば置き去りにするような形でシュウへと向かい――


「正直、そういうスタンスは感心しないな」


 シュウが言う。言葉と同時に彼の周囲の空間が――発光した。

 あれだと自分すらも巻き込んでしまうが……いや、シュウのことだから対策を立てているのは間違いないだろう。直後、室内に轟音が響き、俺はその中でも特攻するルルーナ達の姿を確認する。


 今までのことを考えれば、ルルーナ達は返り討ちにあってもおかしくないが……その時、大きく引き下がるルルーナとカインの姿。爆発で全ての攻撃を抑えることはできなかったらしく、多少怪我が増えている。

 そしてシュウが姿を現し、体には確かに斬撃を受けた形跡が残されていた。


「シュウ、お前は確かに戦略では私達の上をいくかもしれない」


 ルルーナが、シュウへ語る。


「だが、私達の対応力を舐めないでもらいたい。仕込んだ罠に関する情報と、貴様自身の能力限界……ここまで把握すれば、突破は容易い」

「決して舐めているわけではないのだが……確かに誰一人倒すことができないまま終わってしまう可能性もあるな」


 歎息するシュウ。考える素振りはなんとなく奇妙に映り、


「では、少しばかり動くとするか」


 重い腰を上げるが如く……シュウは、一歩足を踏み出した。

 彼の言う通り魔力はあまり感じない。ラキに渡した以上、魔力で威圧することもできないのだろう。けれど、その圧倒的な存在感は健在であり、魔力がないというのに気圧された感覚さえ抱いてしまう。


「さすがだな」


 カインは俺と同じような心境を抱いたか、そう発言。


 シュウは右手をかざす。どのような攻撃を繰り出すのか……対する仲間達は、まずリミナとフィクハが俺を庇うように立つ。その前にはセシル達が。加え、先頭にルルーナとカインが立ちはだかり、


「言っておくが、私の手持ちにある武器はそう多くない」


 シュウが告げる。そんなことを口にするとは、意図が一体何なのか。


「だが、そうであっても君達をどうにかするくらいの余裕はある」


 右手が発光を始める。そして彼は――俺達に突撃を開始した。

 その狙いは紛れもなく俺。先ほどとは一転して攻勢に出たシュウに、俺は思わず剣を構え魔力を刀身に注ぎそうになった。


 だが寸前にルルーナが相対する。放たれた斬撃はシュウの右腕によって弾かれるが、すぐさま体勢を立て直しなおも追いすがる。

 戦士としての技量は当然ルルーナの方が圧倒的に上。だが、シュウは捨て身でかかっているためか、その進撃を押し留められず――また、罠などを警戒しているためか、ジリジリと後退する。


 そこを、シュウは見逃さなかった。


「心理的な読み合いは、まだまだ私の方が上のようだな」


 右手から光が拡散する。戦い始めた当初と同じような戦法だが……セシル達は距離を置いていたためなんなく防げたが、ほぼゼロ距離にいたルルーナについては対応ができなかった。

 彼女の体に光が突き刺さる――短く呻くのが聞こえ、それでもルルーナはなおも剣戟を放つ。


「見事だ」


 称賛するようなシュウの声と共に、ルルーナへさらに光を注いだ。彼女は避けられない――だがそこへ、カインが前に出た。

 咆哮と共に、彼は全力で剣を薙く。それによって光は弾けとび、ルルーナの危機を救うことに成功する。


 次いで、ルルーナが前に出た。なおも執拗に仕掛ける彼女にシュウは一瞬険しい表情を浮かべたが、


「それでも、私が優位だ」


 言葉と共に右腕――いや、両腕が発光し、爆散した。


「――防げ! 天使の鎧!」


 直後フィクハが結界を構築した。範囲は俺やリミナに加え、動かずにいたセシル達仲間三人。結界が俺達を取り巻いた直後、凄まじい光が結界に着弾した。

 もし、何もしなければ……セシル達が防ぐにしても、負傷の一つくらいはしていたかもしれない。


「ルルーナ……カイン……!」


 そして俺は二人の名を呼ぶ。結界外でまともにシュウの攻撃を食らった二人。果たしてどうなっているのか。

 その時、光が消えた。後に残っていたのは、なおも立つルルーナ達と、またも負傷したシュウの姿だった。


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