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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者死闘編

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騎士の斬撃

 再度攻撃する際、一番先に仕掛けたのはルルーナ。だがシュウは罠を利用し剣戟を避けずに彼女自身の体を無理矢理後退させ攻撃を防ぐ。

 壁際で逃げ場がない以上、そういうやり方しかないのもわかるが……疑問が一つ。


 攻撃を防いだ後、普通なら即反撃してもおかしくない。時間稼ぎをするといっても延々五人の攻撃を避け続けるだけでは限界がある。だからこそカウンターを狙っていると考えることもできるのだが、現時点でそれをしている気配がない。

 反撃できないくらいに魔力を消耗する罠なのか、それとも罠すべてを制御するのに相当な労力を使っているのか……正直シュウが反撃できないような状況に陥るような失態を犯すとは思えない。何か考えがあってのことだろうけど――


 爆発の罠を警戒しながらも、セシルとグレンが同時に剣を放った。セシルは二振りの剣を交差するように斜めから一閃。対するグレンは刺突。セシルの攻撃もシュウの罠により届かない。対するグレンの方は――狙いを外されたか、シュウの体の横を通過した。


「突きは悪手だぞ」


 シュウが言う。同時に彼は左手をかざし、グレンに何か放とうとする。

 突きを放ったことにより、斬撃を決めるよりも硬直が長い――カインに放ったのと同じような攻撃が来ると直感した直後、グレンの体が光に包まれた。


 それを、グレンは後退してどうにか抜け出した。とはいえダメージを完全に殺せなかったか、小さく呻くような声が聞こえた。


「多少浅かったか。だが僅かな痛みでも、動きを鈍らせる要因にはなる」


 シュウが告げると同時にカインが仕掛ける。下段からすくい上げる一撃だったが、シュウはそれを避けることもせず、カインの剣は空を切る。


 罠を張り巡らせているとはいえ、ここまでルルーナ達に何もさせないというのは、シュウの策が上回っているということだろう。違和感は拭えないが、少なくとも五人を足止めさせるだけの何かがあるというのは、間違いなさそうだ。

 ならば、どうやって対処するのか……ここで、ルルーナ達はまたも退いた。単純な力勝負ではどうにもならない……となれば、


「察した、というわけではなさそうだな」


 シュウが言う。やはりカラクリがあるのは間違いないが――


「……貴様、ふざけているのか?」


 ルルーナは、どこか怒りを滲ませながら問い掛けた。

 言いたいことはわかる。状況的にシュウは本気を出しているようには見えない。


「本気を出す必要がない、とでも言おうか」


 対するシュウの返答はそれ。五人相手に魔法もほとんど使わずに対応している以上、そんな風に言うのも理解はできる。


「それに、先ほども言ったが君達は現魔王を倒した存在だ。いくら先代魔王の力を所持しているとはいえ、そうした面々と正面から相対するには限界がある。だからこそ直接やり合わない形にした……ただ、それだけさ」


 ――その言葉に嘘偽りはないように見えるが、違和感が残るのもまた事実。


 この場における仲間達は、今や全員そう感じているだろう。けれど実際シュウは俺達を食い止めている……せめてシュウのやっていることの仕組みさえわかれば――


「……ノディ」


 次に発言したのは、ルルーナ。


「先ほどミーシャ達との戦いで見せた全力……あれを、もう一度頼む」

「――わかった」


 なぜかとは問わなかった。ルルーナなりの考えがあるのだと認識し、ノディは剣に力を加える。


「塔の中からでもその力は感じていた。だが――」


 ノディが駆ける。部屋に彼女の魔力が発散し、また同時に他の四人も動き始めた。

 果たして――ノディが縦に振り下ろすが、シュウはそれを避けなかった。またも届かない――そう思った矢先、


 ノディの剣は、シュウに届く寸前にまで……いや、明らかに掠めた。


「ほう?」


 シュウは言葉を漏らしつつノディに攻撃しようと動く。そこへフォローに入ったのはカイン。前に出て、ノディを庇うような動きを見せる。


「もう一度だ!」


 彼が叫ぶと同時に、ノディの魔力がさらに室内に満ちる。原理はわからないが、魔族の魔力を持っている彼女にはシュウの策が通用しにくいらしい……考える間に爆発が起こった。それを受けたのはカイン。直撃である事は間違いなく、先ほどの爆発と合わせ多少なりとも負傷したのは間違いない。

 ノディがその横を抜け、再度剣戟を見舞う。今度は横薙ぎ、捉えられるか――そう思って見守っていると、


 とうとう剣がシュウへと到達する。だが、


「簡単に斬らせるわけにはいかないな」


 刹那、斬撃は結界によって押し留められる。


「二重三重の手は打ってある。罠の特性を読んで動いたのはいいが――」


 一方的に語る間に……俺は一つ気付いた。ノディをカバーするためい動いていたルルーナの姿が、突如消えていた。

 いや、違う。彼女はいつのまにか俺から見てシュウの左側にいた。腰を落とし視線でシュウに悟られないように動いている。


 だが、魔力で知覚し動くシュウにどれほど効果があるのか――考えている間にルルーナが剣を振った。直後、


「――何?」


 シュウが驚きの声を放った。同時、対応に遅れたか罠が起動せず、ノディの剣戟と同様結界により斬撃を止める。

 だが、ルルーナはそこで終わりではなかった。


「――おおっ!」


 吠えたと同時に、結界を無理矢理叩き壊した。魔王を滅する力を利用しての一撃のはずだが……それにしても、無茶苦茶だった。

 そこでシュウも回避に転じた。壁際によって初めての移動。だがそれはノディにさらなる攻撃を行う好機を生み出す結果となる。


 彼女の追撃。結界に阻まれるかと一瞬思ったが、ルルーナの剣を避けるシュウは咄嗟に結界に構築できなかった。

 刃が、とうとうシュウの体に触れる。ノディはそのまま振り抜き――鮮血が舞った。


 その瞬間、俺は嫌な予感がした。傷を負わせたのは間違いない――現状対策をしていたのを突破したというシチュエーションだが、以前はあれだけ一撃当てるのに苦労したにも関わらず、今回は――無論俺達が腕を上げたのもあるだろう。けれど、腑に落ちない。

 そして予感は――嫌な形で的中する。


 突如、シュウの周囲に光が生じた。音も魔力もなく発光したそれを見て、俺は咄嗟に叫ぼうとした。

 刹那、俺は理解する。シュウが、笑っている。


「――二人だ」


 言葉と同時に、閃光と爆音が響き渡った。俺は思わず駆け寄ろうと足を踏み出したが、リミナが声を上げそれを止める。

 粉塵が舞ったが、それはすぐに払われた。シュウが魔法を行使したらしい。


「……できれば三人いきたかったが、やはりそれは成功しなかったか」


 シュウが語る……状況は一変していた。


 ルルーナとカインは、剣を構えているが双方とも負傷していた。特にカインの怪我がひどい。立ち回れるレベルだと思うが、それでも厳しい状況に追いやられたのは確かだろう。

 そして先ほどの閃光と爆発は二人を狙ったものだったのだろう――いや、ノディやセシル、グレンの三人が健在ということは、三人を庇ったということだろうか。


「わざと誘い込んで、一切合切蹂躙するつもりだったのか?」


 ルルーナが問う。動けないレベルでは決してないし、戦うことはできるだろうけれど……それでも、全快とは程遠い状態となっているのは間違いない。


「だがまあ、二人なら安いかもしれないな」


 ルルーナが言う。一体……?


「わかったぞ、お前がこんな戦いを仕掛けている理由が」


 シュウは彼女の言葉に笑う――その言動すらも、予想していたという風に。


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