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闘士が発見した事実

 マクロイドの能力は、闘技大会で見た上では毒のような性質を持っている技だが……それを使うのか、それとも正面突破なのか。

 彼の剣戟に対し、エンスはすぐさま薙ぎ払った。だが力負けしたのかエンスは多少後退する。


 衝撃波を使ってマクロイドを吹き飛ばしてもよさそうな状況だが……それをしなかった。マクロイドに対し警戒しているのか――衝撃波を使えない理由でもあるのか。


「ふふん、やはりなぁ」


 そこで、マクロイドは意味深な声を上げた。


「闘技大会で観戦していた時から色々と考えていた……お前らはあの時全力で戦っていただろう。そして今、シュウの持つ力でさらに力を得ている。だからあの場でああして戦っても問題ないと考えていた」

「それが、どうかしましたか?」

「だがなあ。どれだけ力を得ようとも技を放つ時の癖や特性まで変わるわけじゃないってことだ」


 マクロイドがそう述べた瞬間――突如、エンスの顔つきが変わった。


「お前の技には、明確な弱点がある。ここに向かってくる間に観察したことと、今しがた打ち合った結果、現在のお前もその弱点があるとわかった」

「弱点、ですか」


 エンスは興味深そうに呟く。そんなことはあり得ない。ブラフか何かだと一蹴しそうな雰囲気だが、


「今お前が衝撃波を使おうとしなかった。それが決定的な要因だ」


 マクロイドの発言にエンスは眉を跳ねさせる。本当のことだというのか?

 俺には彼の言うエンスの弱点が何なのか皆目見当もつかないのだが……沈黙していると、マクロイドは剣を構え直した。


「俺の言葉が本当かどうかは……実際、打ち合ってみたらわかる話だ!」


 マクロイドが踏み込む。森の中でも一向に落ちない突進速度は、さすが歴戦の戦士という感じだった。

 対するエンスはさらに後退し剣を受ける構えを見せる――が、同時にアキが右に回り込み鞭と短剣を携えいつでも仕掛けられる体勢を整える。こうなってはエンスもそちらに注意を向けざるを得ない。二対一であり、こちらにとって有利な状況に持ち込んだのは間違いない。


 アキの攻撃は確かに先ほどのやり取りで通用しなかった。だが衝撃を完全に殺すことはできないようなので、マクロイドの刃を届かせるために動きを止めるような方法をとることはできる。よってエンスはアキにも警戒し――その状況下で、マクロイドが剣を放った。

 またも受け、後退。一方的な展開でありエンスは反撃すらもできない状況。衝撃波を使うタイミングを逃しているのか、もしくはマクロイドがそれをさせまいと動いているのか。


 マクロイドの追撃。エンスはそれを横に避けると刺突を放つ。その時、アキの鞭が彼に入った。

 それは正確にエンスの腹部に直撃したが、僅かな身じろぎの後彼は何事もなかったかのように行動を再開する。


 やはりアキ単独でダメージを与えるのは無理そうだ。だが、身じろぎさせるくらいの衝撃を与えることはできている……これが、もしかすると勝機となるかも――


 その時、エンスの方に動きが。刀身に注がれる魔力と淡い光、とうとう衝撃波を生み出す様子だが……俺はどこか、探りを入れるような雰囲気を見て取った。

 もしかするとマクロイドの言葉の真偽を読み取るためにわざと――考えている間にマクロイドの剣戟とエンスの剣が触れた。


 当然そうなれば衝撃波が刀身を伝い、マクロイドへ――俺の予想通り青い光がマクロイドを包もうと動く。思わず声を上げそうになるが、それでもマクロイドの動きは止まらなかった。

 剣が交差する。衝撃波を抜け、マクロイドの剣が、エンスの体に触れる。


 すると、エンスは即座に身を翻す。そこへアキの鞭が背中を打った。衝撃により後退が一歩遅れ、マクロイドの斬撃がしかとエンスの体に入った。


 鮮血。それと共にエンスは大きく後退する。


「……やはり、俺の予測通りだったな」


 マクロイドが告げる。衝撃波をまともに浴びたにも関わらず、彼は超然としていた。一方のエンスは大きく負傷。動きを止め、体から魔力を発する。生じた傷でも癒すのだろうか。


「衝撃波は、出始めの瞬間については魔力収束も甘く、完全に刀身から離れた状態となってようやく威力を発揮する」


 マクロイドが語る。それにエンスは何も答えない。


「なおかつ、魔力収束の際お前自身の身体強化などの能力も刀身に魔力を加える故に鈍るというわけだ……お前の敗因は、闘技大会という場で技を連発したことだな」

「なるほど、あれだけ撃っていた以上、解析されて当然と言いたいわけですか」


 エンスは淡々と告げる――だが、マクロイドは肩をすくめた。


「もちろんお前の癖がブラフなんて可能性もあった。それを前提に戦術を組み立てるのもリスクがあった以上、情報共有はしていない。だがまあ、俺は自分自身の勘でお前のその動きが癖か、もしくは技の性質上どうしてもなってしまうことだと見当をつけたわけだ」

「……勘、ですか。なるほど」


 苦笑するエンス。その表情にはしてやられたという雰囲気が見て取れる。


「個人的に、あなたについてはそう注意を払ってはいませんでした……あの闘技大会でもラキ殿にあっさりやられていましたし」

「評価されていないのはむかつくが……ま、それにより油断を誘うことができたという事実がある以上、悪くは言えないな」


 マクロイドが突撃の姿勢を見せる。なおかつアキも、鞭を構え援護する体勢に入る。


「俺達を食い止めるのが役割みたいだが……負傷した体で、どこまで戦えるかわかったものではないだろ? この辺りでやめにしないか?」

「残念ながら、降伏という選択肢は私達にはありません」


 決然と言い放った直後、エンスが走る。胸の傷は癒えていない……なおも出血しているが、先ほど以上の鋭い動き。

 取り巻いている魔力は治癒ではなく、痛みを忘却させるものか……? そんな推測した直後、マクロイドがエンスを迎え撃つ。


 先んじて仕掛けたのはアキ。牽制とばかりに鞭を放つが、それをエンスは剣で弾く。アキの攻撃自体は今まで通用していないので、構わずマクロイド狙いといったところか。

 そしてエンスは衝撃波を伴わない剣で仕掛ける。だがそれをマクロイドは真正面から受け、


「――さすがに、剣術勝負じゃあお前さんは不利だ」


 受け流し剣戟を叩き込む。エンスはそれも避けることができず、さらに傷を生じさせる。

 もう勝負あったか……そう考えた直後、エンスはさらに踏み込んだ。命を賭して――そういう覚悟と共に、エンスは無謀な剣を放つ。


 マクロイドは即座に後退しようと動き……その時だった。


 エンスの刀身に、青い光が生じる。弱点を看破されたが、構わず放とうという構え。

 その瞬間、マクロイドは目論見を察したかさらに後退しようとした。


 自爆覚悟で……アキがすかさず援護に入ったが、エンスの進撃は止まらない。マクロイドも弾き飛ばそうと試みるが、さらに膨れ上がったエンスの魔力が全てを押し退ける。


 最後は力押しで……魔王の力を得ているエンスでしかできない、無謀な攻撃だった。

 刹那、エンスは自分すらも巻き込む形で衝撃波を放つ。刀身から離れないと威力が出ない――だが、そんなマクロイドの解説が容易に吹き飛ぶ程の、膨大な魔力。これを受ければ威力が減じていようとも無事で済まないのは明白だった。


 俺は即座に氷の盾を形成。衝撃波が到達する前に氷により防御を行い、さらにアキも横に逃れ慌てて短剣を地面に投げ使い魔を盾にする。

 直後――エンスとマクロイドは、青い光に飲み込まれた。


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