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鞭と青

 アキは手始めに光の鞭をエンスへと放つ。その鋭さは先ほど悪魔に決めたそれ以上のものだったが、エンスは余裕でそれを剣で防いだ。


「通用しませんよ」


 端的に告げた矢先、彼の剣が青白く光った。衝撃波――それと共に彼は俺達と間合いを詰めるべく走り出す。

 正面から――思考する間にアキが再度鞭を放った。気付けば左手に短剣が握られている。闘技大会の際、地面に短剣を突き差し使い魔を出現、結界代わりに使っていたはずだが……それを行うべく生み出したということだろう。


 エンスもそれを見越して攻撃を仕掛けているはずだが……彼は鞭を弾きなおも迫る。俺は剣を構えなおかついつでも迎撃できるような体勢を整えつつ、アキを見る。

 彼女の鞭が、弾かれた先でさらに轟いた。突如意思が宿ったかのように動き、鞭の先端がエンスの背後へ襲い掛かる――


 本来ならば避けるべき部分。だがエンスは、それを回避せず剣を振り抜こうと動いた。


「っ……!」


 アキが短く呻くのを俺は聞き逃さなかった。とはいえ突撃されること自体は想定していたのか、素早く左手に持っていた短剣を地面に投げた。

 刹那、魔力が地面から噴出――同時にエンスの青い衝撃波が、アキを襲う。


 俺は咄嗟に後方に退いて範囲を脱する。大丈夫なのかと思いアキのことを注視すると……やがて、


「まさか、捨て身でくると思わなかったわ」


 アキの声。衝撃波の光が消えると、負傷していない健在な姿が見て取れた。

 一方のエンスは一度後方に退き、剣を構え直している。


「さすがに、あなた方勇者二人を前にして易々と時間稼ぎができるとは思っていませんよ」

「……ますますわからないわね。魔王の復活が目的であるなら、あなたはその顕現に立ち会いたいとか思わないの? 今の動きは、明らかに死を賭したものだったけれど」


 ――エンスの背中は見えていないが、鞭は間違いなく直撃している。負傷しているかの判断はつかないが……少なくともアキの攻撃を顧みない動きだったのは間違いない。

 最初から死ぬ気で時間稼ぎをするということなのか……思っていると、エンスは歎息した。


「その辺りの疑問は、全てひっくるめてシュウ殿あたりに聞けばいいかと」

「あなたのことなのに他人に丸投げってどうかと思うけど」

「私から話すつもりは毛頭ありませんので」

「そう……なら、お言葉に甘えさせてもらって、ここは容赦なくあなたを倒すことにするわ」


 鞭が放たれる。またもエンスの真正面から放たれたのだが――軌道が少し違う。

 蛇行するするような動きで、直線的な動きと比べてどういう軌道になるのか判別がつかない……エンスは即座に刀身に魔力を集めた。そして衝撃波を繰り出そうとして、


 瞬間、アキの鞭の軌道が変わる。右に大きく折れ曲がると、そのままエンスへと迫る。


「無駄です」


 エンスはそれを剣で薙ぎ払う。衝撃波も同時に放たれ、鞭の先端部分が丸ごと消失した。


「さすが」


 アキは声を発すると同時に一度鞭を消し、再度生み出す。同時、エンスが再び間合いを詰めようと動き出す。

 そこで、アキも少し動きを変えた。鞭を出現させ、一瞬だがその鞭に魔力を込めたようにも見られる。


 どういう意味を持つのか――事の推移を見守っている間に、アキが鞭を放った。左手には短剣を握り、衝撃波が来ても大丈夫な態勢を整えている。

 対するエンスは――やはり攻撃に構わず突撃を行う。まるで先ほど戦った悪魔のようであり、どことなく無策であるようにも見えるのだが――


 エンスが剣を薙ごうとした時と、アキの鞭が迫るのはほぼ同時。このまま衝突して双方の攻撃が相殺されるか――そう思った直後、

 アキの鞭の先端が、突如六つに分裂した。


「っ――!?」


 エンスが驚いた表情を見せ――だがそれでも剣を振った。衝撃波が鞭を包んだが、それでも分かれた鞭を全て消し飛ばすことはできず――光の奥で鞭が直撃するのを目に留めた。

 これは――注視しているとエンスが大きく後退する姿。けれど外傷はほとんどない。


「……魔王の力を多少ながら使っているようね」


 ここでアキが断定。対するエンスは肩をすくめ、


「ええ……さすがにあなた方相手に生身では辛い、というのは事実ですし」

「だからこその特攻というわけか」

「命を賭す、というのは紛れもない事実ですが、あなたの攻撃に対し防御できるという裏打ちがあるからこその攻撃ですよ」


 ……ということは、背中を打った最初の攻撃もほとんど通用していないということなのか? 疑問に思っているとアキは短く嘆息。


「なるほど……私のやり方じゃあ確かに今のあなたの防御を抜くのは、大変でしょうね」

「だと思います」

「……なんとなく思うのだけれど、もしかしてあなたは私と戦う気でこの森の中にいたの?」


 疑問は、闘技大会のリベンジをするという意思があるから――そういう推測をしたのだろう。

 対するエンスは答えない。しかし、沈黙が言外に肯定しているように感じられた。


「なるほどね……よくわかった。結構根に持つタイプだったというわけね」

「ご想像にお任せしますよ……この力がある以上、あなたは私を傷つけるのは難しいはず。仕留められればそれに越したことはありませんが、さすがにこちらもリスクがあります。ここで退いてくれると助かるのですが」

「さすがに、それは――」

「ここまで来て、それはないだろうな」


 後方から、新たな声。即座に振り向くと、そこには、


「マクロイド!」

「よおレン。どうやら俺達が先頭を突っ走っているみたいだな」


 マクロイドが笑みを浮かべつつ告げる……すると、


「ほう、もう到着しましたか」

「えっと、お前確かエンスだったか? ふん、色々策を講じているみたいだが、もう少し骨のある奴を動員しとかないとあっさりと突破されちまうぞ」

「なるほど、少しばかり見誤っていたということですか」

「ずいぶんと過小評価されたもんんだ」


 マクロイドが剣を構えながら呟く。どうやらマクロイドにはそれなりの戦力をあてがって時間稼ぎをしていたようだが……それを予想以上の早さで突破した、ということなのだろう。


「さて、アキさん。どうやらあんた一人では荷が重いみたいだし、手伝うぜ」

「ええ、お願い」

「ふむ、これは少し方針を変える必要が出てきましたね」


 どこまでも冷静なエンスの呟き……こういった状況に対応した備えはおそらくあるはず。それをマクロイド達は突破できるのか――


「見たところ、魔王の力といってもシュウ達程強力なわけじゃなさそうだ。俺達の攻撃でも、十分突破できる」


 マクロイドの断定。それにエンスは無言だが、アキもそれに同意したのか鞭を構え、


「だと思う……それじゃあ」


 言葉と共に、アキとマクロイドは同時に走り出す。

 二人はそう関わりがあるわけでもなかったので、連携だって経験がないはず……果たして、どうなるか。


 エンスは即座に剣を構え直し、刀身を青白くさせて迎え撃つ構えを見せる。そして衝撃波を放とうと動くが――それを、アキが封殺すべく短剣を投げた。

 短剣はエンスが衝撃波を放つよりも早く、彼の足元に到達する。刹那、使い魔として出現した魔力の塊が衝撃波に着弾。エンスが青い光に包まれる。


 自爆――とまではいかないだろう。だが動きを止めることには成功し、その間にマクロイドとアキが迫る。


「一気に、いくぜ!」


 豪快な叫び。マクロイドが先行し、大振りな一撃をエンスの立っている場所へと浴びせた。


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