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阻む者

 アキは言葉と共に鞭を振るう。その狙いは正確で、悪魔へ襲い掛かった――しかし、

 悪魔は即座に攻撃を弾く。ダメージはあるがすぐに再生される。それに限度はあるのだと思うが、傍から見て再生能力が落ちる気配はない。


「どうするんだ?」


 俺が尋ねる間に、アキはさらに鞭を放つ。先ほどと同じような攻防――だが、今回のは今までとは違った。

 悪魔が再度攻撃を弾こうとした矢先――突如鞭の軌道が変わった。放たれたにも関わらず不自然なくらい軌道が曲がり、悪魔を背後から貫いた。


 だが、やはり再生される――そう考えたのだが、ここからアキは猛攻を仕掛けた。鞭の先端が背中から抜け出したかと思うと、今度は悪魔を囲むように鞭が動き始める。

 悪魔はそれを阻もうとするが――触れただけで体を損傷させる。とてもじゃないが鞭の軌道を変えることはできない。


 となれば、残る攻撃手段はブレスか……悪魔もそう思ったか口を開こうとした。しかし、一歩遅かった。

 光の鞭が高速で回転し、悪魔の全身を一気に薙ぐ。ここからは一瞬の出来事だった。悪魔の体があっという間にバラバラとなり、その体躯が微塵に砕かれていく。


 これなら――そう思った直後、魔力の胎動。コナゴナになったにも関わらず、まだ再生するのか……!?

 そこでアキが動いた。さらに鞭を操作し――その先端が何かを捉えた。


 それは、手のひらに乗るくらいの大きさを持った水色の立方体……明らかに悪魔にそぐわないような物体。それをアキは何の躊躇いもなく破壊した。

 直後、悪魔の再生が停止し――光となって消えた。


「……これは」

「最後に破壊したあれが、再生の核となっていたわけ」


 アキは鞭を消しながら語り始めた。


「気配を探ると、あの球体自体は悪魔の体の中を移動しているのがわかった。最初それを狙って攻撃したんだけど、回避するくらいの知能はあったみたい」

「だからバラバラにして、か……しかし、これは厄介だな」


 再生能力……しかも、特定の物を破壊しないと倒せない。戦士達もかなり大変なのでは。


「数はそう多くないようだけど……いや、もしかすると温存しているのかな? 騎士や戦士だって戦い続ければ攻略法は見つけられるかもしれないけど、あれが群れとなって襲い掛かって来られると厄介なのは間違いないか」


 アキは周囲を見回しながら発言。悪魔を警戒しているといった雰囲気。

 さすがにあれが多数存在しているとしたら……かなりまずい。戦況がひっくり返る可能性すら考えられるが――


「ともあれ、先に進ましょう」


 アキが言う。俺は頷き、二人してさらに塔へと突き進む。

 さらに悪魔が出現するという可能性を考慮したのだが……その気配もなく俺達はどんどんと塔へと迫っていく。ここまではひどく順調だが……なんだか嫌な予感もする。


 もしや、俺達をわざと先行させて退路を断つやり方だろうか。いや、そうだとしたらあんな悪魔なんかをけしかけるわけはないはずだし……色々と考えてしまうのだが、結局答えは見いだせない以上、俺達はただ進むしかない。

 やがて、俺達の前方に開けた空間が見えた。間違いなくそこは塔の真正面に位置する場所……そう感じた時、またも咆哮。まるで俺達に警告しているような響き。


「そっちに行くなってことかしらね」


 アキは言う。俺は「そうかもしれないな」と答えつつさらに歩を進めようとした――矢先だった。


「悪いが、ここから先は通せませんね」


 男性の声――俺達にとってはひどく聞き覚えのある声が、真正面から聞こえてきた。


「……エンス!」

「どうも、勇者レンと、勇者アキ」


 茂みの奥から出現したのは、以前アーガスト王国で王子に仕えていた人物である、エンス。全身を黒衣に身を包んでおり、最初に出会った雰囲気は欠片も存在していない。


「ここで真打登場というわけか」


 アキはすぐさま鞭を生み出す。まだ距離があるため、鞭という判断をしたのだろう。もし接近されれば短剣に切り替えるに違いない。


「真打、というのは少し違うと思いますよ」


 一方のエンスは極めて冷静に語る……それがひどく不気味で、俺達は訝しげな視線を彼へと送る。


「まあ、ともかくここは私が受け持つ場所なので、食い止めさせて頂きます」

「……最初の門番ってことだな」


 俺の言葉にエンスはにっこりと笑みを浮かべた。

 最初の相手はエンス……統一闘技大会で彼の能力については見ている。青い衝撃波を際限なく放つ様は今でも思い出せる。


 闘技場といういくらでも立ち回れる場所で、回避できないような広範囲攻撃を繰り返していた――現状、森の中である以上どうやっても回避能力は落ちる。となれば彼が青い衝撃波を惜しまず使えば、非常に危険。


「先に言っておきます。私の能力に適合した戦場ですが……かといって、普通に戦って私一人で食い止められるとは思っていませんよ」

「ずいぶんと、弱気ね」


 アキのコメント。それにエンスは再度笑う。


「事実ですからね……私の役目は儀式を止めるあなた方の時間稼ぎと、体力消耗です」


 決然とエンスが言った――さて、どうするか。


 まず魔力についてだが、魔王城に踏み込む際に渡された魔力回復の薬が残っておりストレージカードの中に眠っている。よって多少強引し後で回復させればいいという考え方もありだが……後にも敵は控えている。こんな所で使用したくない。

 ただシュウ達と全力で当たりたいためここでは節約して戦う、というのも……正直、そんな甘いことを考えていられる相手でもない。


 正直エンスはこの場で相手にしたくない存在でもある。統一闘技大会で見せたあの青い衝撃波は足止めなどに有用な攻撃方法。連発してこちらに魔力を使わせるとか、それとも手傷を負わせるか……どのみち、嫌な戦法をとってくるのは間違いない。


「……一つ、いいかしら?」


 そんな折、ふいにアキがエンスへ問い掛けた。


「あなたはなぜ、ラキに従っているの? ロノという魔法使いもそうだけど、あなた達については従っている理由が見当たらないのよね」

「理由ですか? それほど難しくありませんよ……単純に魔王復活という事柄に魅力を感じ、そのために動いている。ただ、それだけです」

「そのために、あなたは命まで張って協力するの?」

「さすがに深く理由を語るような真似はしませんよ。まずありえませんが、弱みなど握られるのもまずいですからね。もし知りたければ、シュウ殿やラキ殿に訊くといいでしょう。二人なら理由を知っていますので、塔まで到達できた褒美として話してくれるかもしれませんよ」

「……わかったわ。何か込み入った事情があるのならやりにくいと思ったのだけれど、そういうのがないなら容赦なくやれる」

「しかし、あなたの手の内は把握していますよ」

「あなたのもね」


 アキが負けじと言い返す。だがエンスは肩をすくめた。


「あれで、全力だと? それに、あなたの攻撃に関するタネは理解できている。いくら気配を消す技術があろうとも、そういう攻撃があると認識していれば対処できますよ」


 ――あの闘技大会でエンス達はある程度実力を隠していた、と考えることもできるが……いや、この場合闘技大会から今まででさらに強くなったと解釈した方がいいか。

 俺は一瞬迂回しようかとも考えたが、エンスは容赦なく追撃してくるだろう……後方から仲間が来ない所を見ると、やはりこのシチュエーションはシュウ達にある程度制御されていると考えていいのかもしれない。


「……ま、やるしかないわね」


 アキが口を開く。どうやら覚悟を決めたらしい。


「レン、まずは私一人でやる。危なそうだったら、サポートよろしく」

「それで、大丈夫か?」

「ええ」

「……わかった」


 承諾。アキは「お願い」と告げると――エンスと向かい合い、交戦が始まった。


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