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接近開始

 フロディアから「もうすぐ戦いが始まる」と言い渡され、なおかつブレスレットを渡された後俺達は一時待機する。周囲には慌ただしく戦闘の準備を始める騎士達。今回も魔王城に踏み込んだ騎士や戦士が存在し、誰もが最後の戦いに対し厳しい表情で臨んでいる。


「……今回の戦いも、魔王と同じくレンが鍵となるはずだ」


 やがてセシルが呟いた。それに同調するように他の面々は俺に視線を集中させる。


「だけど、レンだけを単独で進ませてもまずい……塔の機能を使うためにシュウが最後の地点にいるのは間違いないと思うけど、おそらくその場所にはラキもいるはずだ」

「ああ、それは俺も同意見だよ」


 こちらの返事にセシルは頷き返し、


「だからこそ、複数人……正直、英雄とレンと互角に戦える力を持つ人間がいる以上、最低でも三人は欲しい所だな」

「魔王アルーゼンとの戦いでは明確に人数を選べたし、なおかつ一対三だった……まあ、それでも圧倒的に劣勢だったわけだけど……」

「正直、同じ一対三でも、シュウ相手の方が大変そうだと僕は思うんだけど……」


 それに関しては、誰も何も言わなかった。ただまあ、言いたいことはなんとなく理解できる。

 魔王アルーゼンの場合、魔王である以上強くて当然であるという、一種の開き直りのような作用が働いていた。とはいえ俺は早い段階でアルーゼンの動きをある程度読めた上、フィクハ達の考えた策もあったということで、相手の自陣ではあったけれど策が通用している事実から戦える、という考えもあった。


 だが今回の場合、シュウ達と戦う状況はほとんど対策もできない……いや、俺達に対し策を用い続けた相手である以上、何かこちらを不利にさせるような手段を構築しているという嫌な確信がある。

 加え、策によりこちらに少しでも有利にできるような手段も思いつかない。なおかつ時間制限まである……不利な材料ばかりで、厳しい戦いになると誰もが考えていることだろう。


「……けど、嫌な情報ばかりじゃないよ」


 ここで発言をしたのは、フィクハだった。


「確かにシュウさんを相手にするのは厳しい状況……でも、ロサナさんやフロディアさん達の魔法が通用していれば、攻撃は確実に通用すると思う。場合によっては、一撃で倒せるかもしれないよ?」

「その一撃当てるのが困難という話なんだけどね」


 セシルが肩をすくめる。それにも俺は同意する。


「まあ、僕が言ったことはこの場にいる人なら誰もが考えているはずだけど……ともかく、その中でも一撃当てられる可能性が高いのはレン……だけど、当然シュウやラキも警戒するはず」

「私達はいかにしてレンを最上階まで到達させるか、だね」


 ノディが言う……そういえば彼女はジュリウスと話をしていた。それを活用して――などと考えている可能性もある。


「当然、レン一人だけではまずい……戦闘が始まってみないとどうなるかわからない以上これ以上作戦も立てられないけど」

「ま、こうやって話し合っただけでも十分だよ」


 フィクハが言う。それに対し俺達は彼女に注目した。


「意見を統一させておいた方がいいって話……何より優先する目標はレンをシュウさん達の所まで到達させること。なおかつ、できるだけ他の人達も同行する事。それだけ決まっていれば十分でしょ」

「――そうだな」


 ルルーナの声。視線を転じると、カインやマクロイドと共に歩く彼女の姿があった。


「魔王との戦いと同じだ。私達はレンを守りながら、最終地点まで到達させる……現状策の読み合いのような形となっているが、やるべきことはシンプルだ」


 俺、責任重大だな……そんなことを考えつつも、それほど緊張はしていない。

 いや、俺は心の中で思っている……今回の戦いは、自らの手で決着をつけたいと。


「とはいえ、シュウとラキ両方戦うとなると、どういう戦い方がいいのだろう」


 ここでグレンが疑問を口にする。ふむ、その辺りも少し考えておかないといけないか。


「……正直、闘技大会の時のようにはいかないと思う」


 俺の意見。それにカインが同調するように頷いた。


「ラキの能力は魔族……というより、先代魔王の力を所持していることを踏まえれば、闘技大会以上の力を所持していると考えて間違いない。その上、シュウの存在……ここで一つ疑問だが、ラキとシュウ、どちらが強いと思う? 順当に考えればシュウだが……」

「同じくらいに強い、と考えておいた方がいいだろう」


 ルルーナが発言。さらに、続けざまに彼女は言葉を加える。


「二人同時に相手をする場合、理想的なのは各個撃破だが……まあまず無理だろう。とはいえレンにまかせっきりというわけにもいかない。レンがどちらと戦うかは状況によって考えるとして……もう片方を、レンと共に到達した面々で対応しなければならないだろう」

「覚悟をしておけ、ということね」


 アキの発言。ルルーナは即座に頷き、


「そうだ……正直、魔王城の時もどういう戦いとなるか読めなかったが、今回はそれ以上だな……それが余計に不安を助長させることになっているのかもしれないが……もっと自信を持っていいと思うぞ」

「魔王を倒したという、自信か?」

「そうだ」


 こちらの質問にルルーナは深く首肯した。


「私達は魔王を倒すことのできる力を所持している……これは紛れもない事実だ。罠があるのは間違いないため油断は禁物だが、決して絶望的な状況でもない」

「そうだな……今は、少しでも状況が良い状態で戦えることを祈ろう」


 俺がそうまとめた直後、フロディアから声が掛かった。準備が整ったらしい。


「行こうか」


 ルルーナが言い、俺達は全員歩き出す。その間にジオなどの騎士達も俺達と合流し、共に歩き始める。彼もまた塔への突入を行う面々だろう。

 やがて森の前に到達。茂みの奥は陽の光は少なめだったが……朝方ということもあってか、視界に困るようなことはなさそうだった。


「武運を祈っている」


 フロディアが言う。その隣にはアクアが控え、なおかつ護衛としての役割を仰せつかったかオルバンの姿もあった。他にもロサナを始めとした魔法使いの面々もいて……俺はフロディアの言葉に頷いた後、一度周囲を見回した。

 号令を待っている騎士や戦士の姿……これは護衛ではなく森にいる魔物を倒すべく動く人達だろう。続いて仲間達に視線を向ける。目が合うと誰もが俺に頷いてくる。心配するな――そう声を掛けたいのかもしれない。


 やがて俺は首を森へと戻す。そしてフロディアと目が合った瞬間、


「攻撃――開始!」


 号令が下った。とうとう、最後の戦いが始まった。

 先陣を切るのは魔物を倒す面々。森の中に入り込んだと同時、周囲に魔物の雄叫びがこだまする。


「さすが、魔物も気合入っているというわけか」


 セシルが茶化すように発言したと同時、ルルーナを始めとした現世代の戦士達が先んじて動き出した。

 一歩遅れて俺達新世代の面々が追随。それと同時に仲間達は俺を取り囲むように陣形を作った。俺を守る――というより、余計な体力や魔力を使わせないようにするため、ということだろう。


 それに俺は何も言わなかった……シュウやラキと戦うにはベストな状態であるのは重要。だからこそ、俺はセシル達の動きに従い、ただ森へと入る。

 入った直後、さらなる雄叫びが聞こえた。もしや、魔力に反応して魔物同士が連携をとっているのだろうか――そんな推測がよぎった。


 まだ俺の視界に魔物の姿は見えない。今の内に進めるだけ進むべき――そう考えた矢先、

 突如――足元から、魔力が溢れ出た。


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