行動方針
その後フロディアはベースキャンプの状況などを簡単に説明し、会話が終了。するとフロディアは「ついてきてくれ」と一言。俺達はそれに追随すると、少し地面が隆起した丘へと到着した。
「まず地形を確認してくれ」
フロディアが言う。俺はそこで視線を周囲に向けると……正面い目的地である塔を発見した。
塔の後方には山脈が立ち並び、塔の入口周辺には森が茂っている。土色をした塔は人工物にも関わらずずいぶんと周囲の景観に溶け込んでいた。
「背後の山は相当急であり、登ることは難しい……加え、結界も構築されている。必然的に、侵入経路は下にある入り口だけとなる」
フロディアが解説。それを聞きながら俺は塔を見据える。
窓のような外を窺うような物が一切見られない。もっと近づけば外の様子を窺うものはあるのかもしれないが、ここからでは確認できない。なんとなく、堅牢なイメージを抱く。
そして周囲の森。地面が一切見えずただ鬱蒼とした森が広がる周囲からは、動物――いや、モンスターの唸り声が聞こえる。
「シュウ達はこちらの動向を把握しているはずだ」
さらにフロディアは語る……なんとなく仲間達を見ると、全員が例外なく塔へ視線を向けていた。
「今はまだ目立った動きはない……向こうの目論見はあくまで塔の機能を活用することである以上、こちらが仕掛けて来なければ何もないだろう……つまり、あくまで専守防衛というわけだ」
「俺達が攻撃した瞬間、シュウ達も動き始める」
俺が呟くと、フロディアはすぐさま頷いた。
「森の中で分断して……という戦法が、シュウ達にとっては最も都合が良いはず。シュウ達は少数であり、各個撃破の戦法が一番いいだろうから。おそらく私達が森への侵入を開始した時点で、攻撃を仕掛けてくるはずだ」
……分断、か。その点を危惧する必要があるとなると、厄介そうだ。
「森の中の様子は?」
フィクハが問う。フロディアは一度森をぐるりと見回してから、答えた。
「現在の所、魔物の動きも緩慢だ……とはいえこちらが攻撃を仕掛ける気配を見せるとモンスター達は固まって行動するようになる」
「固まる?」
「そう命じられているんだろう……つまり、モンスターが攻撃を仕掛ける場合、必ず徒党を組んで襲い掛かってくるというわけだ」
ずいぶんと嫌な攻撃方法だ……感想を心の中で呟いていると、フロディアはさらに続ける。
「とはいえ、レン君たちの力ならばはっきり言ってモンスター達は敵じゃない。だからこそ森の中では魔物よりも罠に警戒する必要があるんだが……」
「その辺りは確かめているんですよね?」
リミナが問う。だがフロディアは苦笑した。
「調べているんだけどね……罠を張るとしても魔法によるものだろう。その場合、魔力解析を行う必要があるわけだけど……そんなことをすれば当然、モンスターが近づいてくる」
そこまで言うとフロディアは肩をすくめた。
「魔法使いを護衛しつつ調査しようと思ったんだが……さすがにそれをさせるわけにはいかないと思ったか、多数のモンスターが襲い掛かってくる。それらを倒すと周囲の魔力が乱れるため、検証はできない……つまり、森の中での魔力解析は実質不可能というわけだ」
「不可能……」
俺は森を見下ろす。モンスターの声なんかも聞こえるのだが、どこから発せられているのかは見当もつかない。
「となれば、私達は罠を強引に突破して塔に近づく必要がある……なおかつ、敵はこちらを分断しようとするのは間違いない。よって、ここで作戦を伝えておく」
フロディアは言う。そこで俺達は彼を注視した。
「とはいえ、そう難しいことをやる必要はまったくない……相手の手はこちらもなんとなく想像できる以上、それに対する対応策を今の内に決めておこうというだけさ」
「つまり、分断された場合に対してどういう行動を取るか決めるということですね」
俺が問い掛けると、フロディアは「そう」と返事をした。
「罠によって……例えば仲間などとはぐれた場合の話だが……モンスターを撃破するのは君達の実力があれば単独でも十分可能だ。よって、孤立としたとしても構わず塔を目指すのが一番だろう」
「そして入口付近である程度集合したら、塔へ侵入を試みると」
「そういうことだ」
うん、それに対しては異存はない……するとここでグレンが問い掛けた。
「罠、といっても分断させるだけではなく、例えば拘束させるようなものもあるのでは?」
「その疑問はもっともだ。罠というと、例えば傷を負わせるトラップなんてのも考えられる……けど、この場合はそうした罠である可能性は低い」
「何か根拠が?」
「現在、森全体に魔力が存在しているが、例えば極端に魔力の濃い場所などは見当たらない……で、例えば相手を拘束させるとか、攻撃を仕掛けるとかいう罠は、君達の能力を考えれば相当強力なものにしないといけない。並の拘束魔法ではあっさりと弾かれるくらいの力は有しているし、なおかつ生半可な攻撃魔法では通用しないくらいの防御力があるからね」
そう語り、フロディアは俺に視線を移す。
「シュウ達もわかっているはずだけど……今回の戦い、騎士など軍勢をつれてきてはいるけど、最終的に勝負をつけるのはレン君達……もっと言えば、統一闘技大会で活躍したような面々なのは間違いない。シュウもレン君達を止めるために罠を仕掛けているだろう」
「それは、わかります」
「その状況下で、攻撃機能を備えた罠などはレン君達を足止めすることを前提とする以上、相当な魔力が必要となる。けれど先ほど言ったように森全体の魔力は目立って濃いポイントは見当たらない。つまり、そうした罠を張っている可能性が低いというわけだ」
「となると、シュウさんは……」
「考えられるのは簡単な短距離転移。踏んだ一瞬だけ魔力を発し、森のどこかへ飛ばす……この罠なら大した魔力は必要としないため、森の中に自由に仕掛けることができる」
「その転移の距離はどのくらいでしょうか?」
「魔力の多寡から推測しても、森の外に出すようなことはできないはずだ。とはいえシュウ達にとってはそれで十分。後は合流させないようにモンスター達をけしかける……これで、分断は完了だ」
一番やりやすい手段ということか……俺は納得しつつ、さらに言及。
「問題は、森の中で迷う可能性があるということでしょうか」
「それについても対応策はある。後で全員にブレスレットを配る。塔に存在する魔力の方向を示す道具だ。それさえあれば、森の中で孤立し迷っても塔へ進むことができる」
ならいけそうだな……俺は納得し「わかりました」と答えた。
「さて、他に質問はなさそうだな……先ほども言った通り、分断されてしまう可能性は高い。けれどレン君達の能力ならモンスターを蹴散らしつつ対処はできるだろう。だからそうなっても迷わず進んでほしい」
俺達は全員「はい」と返事をする。フロディアは力強く頷き返し、俺達は丘を立ち去ることとなった。
そしてベースキャンプまで戻ってきた段階で、フロディアの下に報告があった。
「準備、整いました」
「わかった」
「準備とは?」
尋ねるとフロディアは俺に目線を合わせ、
「シュウが魔王城なんかで使用していたような、絶対的な結界を防ぐ魔法だ」
なるほど、となればいよいよ……考え他の面々を見ると全員が覚悟できているという表情を示した。