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決戦の日

 ――その日は、ひどく穏やかな朝から始まった。


 セシルの屋敷にいるメイド達は俺達を送り出すために淡々と仕事をこなす。そして朝食をとる俺達も口数少なく、ゆっくりと時間は過ぎていく。

 やがて食べ終え全ての準備を整えた後、俺達はメイド達に見送られ屋敷を後にした。今から決戦だというのにずいぶんと頭の中は冷静――いや、むしろ余計な思考をしないように頭の方が意図的に思考をシャットアウトしているのかもしれない。


 そうして俺達はベルファトラスの城へと入る。転移魔法を利用し移動――訪れた場所は、シュウとの対決の場である『揺らぎの塔』の近くだった。


「――よく来た」


 転移した直後フロディアの声が。周囲は森に囲まれているが、その中に一本だけ道が存在し、彼はそれを背後にして立っていた。


「まずは状況を説明しよう……その後すぐに戦いとなる。覚悟してくれ」

「ああ」


 セシルが代表して答える……するとロサナがフロディアの隣へと移動し、話しながら歩き始めた。

 俺達はそれに追随する――やがて魔王城の近くに存在していたようなベースキャンプに到達した。


 その内の一つに入り、俺達はフロディアと共に円を形成するように立った。


「さて、現状では既にシュウ達が動いており……魔王が派遣していた魔物や魔族は全て撤退した」


 フロディアが語り出す……ということは、現状シュウが好き放題しているというわけか。


「おそらく、シュウは私達の動向などを予測していたはずだ。塔の力を用いて魔王城のような絶対的な結界を創り出す……その対抗手段を構築するには、どうしても数日かかる。そのタイムラグを利用して、シュウ達は塔の機能を利用する準備を整えた」

「残る時間はどのくらいだ?」


 問い掛けたのはリュハン。フロディアは途端厳しい顔をして、


「半日程度だ」

「半日か……まあ、十分だろう」

「とはいえ、その時間となると悠長にはしていられないな」


 セシルがコメント。それにフロディアは頷いた。


「半日……ここに存在する全軍を塔へ向かわせ、猛攻を仕掛ければ数時間と経たずして塔の包囲はできるだろう……いや、レン君達がいる以上、何事もない場合二時間もあれば塔の最上階まで到達し、シュウ達と戦うことだって可能だろう」

「……何事もなければ。そこが曲者ってことだね」


 ノディが独り言のように呟いた。それにフロディアも反応。


「時間的に考えれば、シュウの所まで到達するにはまだ余裕がある。しかし当然罠なども存在していることは間違いなく……それを突破するのに時間が掛かる。それを考えると、あまり時間的猶予は残されていないかもしれない」


 そう語った後、彼はさらに難しい顔をした。


「加え、半日という時間……これについてもあくまで私達の希望的観測だ。シュウの手元には様々な場所で手に入れた魔法の道具などが存在している。そうした物を利用して塔の機能が完全となる時間を早めることができるかもしれない……だから私達としては慎重かつ、できるだけ急ぐ必要がある」


 それは普通に考えて両立できない内容だが……そんな無茶をしなければならない状況ということだろう。


「まず、障害となる存在に関して説明しよう」


 さらにフロディアの話は続けられる。


「塔の周辺にいるのは、シュウ達が作り出したモンスターだ。種類や見た目などは様々であるため特徴に関してはここで言及はしない……ただ、そうした魔物達に指示を送るには魔法を使う必要が出てくる……となると使役しているのはシュウではない」

「ミーシャかな?」


 フィクハが呟く。シュウと共に助手をしていた身である以上、思う所はあるのだろう。だが、フロディアは予想外にも首を左右に振った。


「彼女はシュウ達の護衛だろう……そしてラキでもない。おそらく魔物達の指揮官は戦士団の裏切者であるロノだ」


 ロノ……俺が最後に見たのは戦士団襲撃の際なのでずいぶんと前の話にある。とはいえ彼にも色々と役割があり、今まで裏方に徹していたということだろう。今回もおそらくそうだ。


「塔の中に入り込む以上できれば魔物を片付けたい所だけれど、問題はロノを倒したからといって魔物が消えるかどうかということ。彼らは生み出した魔物をあくまで操っているだけ……その操っている糸が切れた場合、暴走するなんて可能性も考えられる」

「となると、下手に刺激しない方がいいと?」


 今度はグレンの質問。それにフロディアはまたも首を振り、


「現在もモンスターを生み出していると仮定した場合、生成に限界はあるけれど厄介であることに変わりはない。よって対処はする。理想的なのはモンスターを全て倒した上でロノを捕らえることだが、さすがにそういう形にはならないだろう。ともあれ、彼を捕らえる必要はある」

「……その役目は誰が?」


 リュハンが再度問う。そこでフロディアは俺達を一度ぐるりと見回した。


「塔の中に入り込むメンバーと塔の外で魔物を倒すメンバーで役割を決める必要がある。魔物を撃破しロノを捕らえるのだって相当時間が掛かるだろう……だからそこだけに注力しているわけにもいかない」

「ま、分断させるというのは予想できたことではあるね」


 セシルが肩をすくめた。それに俺は心の中で同意。


「加え、シュウに対する策もやらないといけないわけ」


 次に話し出したのは、ロサナだった。


「私やフロディアは、シュウに魔王の遺跡や魔王城でやられたような結界を構築させない手法をどうにか確立させたけど……これを維持するにはその魔法にかかりっきりになる必要がある。だから今回の戦いに私やフロディアは参加できない」

「重ね重ね謝罪したい。結局、私は最後の戦いでも裏方に回ることになってしまった」


 申し訳なさそうにフロディア。だがそれに対し、リミナが応じた。


「それこそ必要なことですから……お願いします」

「わかった……それで、私達の魔法を維持するためにもそれなりの手勢が必要だ。よって大まかに役割は三つある。塔に直接踏み込んで戦う者達。次に塔周辺で魔物を迎撃、及びロノを捕らえる者。そして私達の護衛を行う面々」

「そのロノというのは塔の中にいるのでは?」


 俺が質問。するとフロディアは微妙な顔をした。


「その辺りは正直わからない……ただ塔の中は基本逃げ場がない上、私達の最終目的地である以上確実に人が来ることはシュウもわかっているはず。だとしたら塔の中で魔法を行使するのはリスクがある……だから、塔の外で活動している可能性の方が高いのではないかと私は考えている」

「その可能性に賭けて、探すというわけですね」

「ロノが塔の中に入れば塔に侵入するメンバーで対処すればいいだけだしね……話を戻そう。役割は先ほど言ったように三つある。よって、どの役割を受け持つかを考えないといけない」


 俺達は沈黙する――すると、フロディアは続けた。


「この場にいるメンバーはシュウと対抗できる戦力なのは間違いない……他の二つの役割は兵や騎士でも対処できるが、一つ目はそうもいかない」

「となると……」

「この場にいる……レン君を中心とした面々は、一つ目の役割である塔への侵入をお願いしたい」


 ――俺は当然のことながら、仲間達も一緒にということらしい。


「ちなみに、他に突入する人達はいるんですか?」

「現世代の戦士がつく。今回現世代の戦士達はそれぞれ役割を分担してもらうことになっている。ルルーナについては君達と同様踏み込むことになるが、例えばアクアは結界の護衛だ」


 魔力の少なさとかも関係しているのだろう……俺はそう解釈した。


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