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魔族の言葉

 宴が進行していく中で、俺はこの場にいる人達と会話を重ねた。基本面識のある人ばかりだったので、非常に話しやすかったのだが……どうやら誰もが真実に関して大なり小なり思っていることがそれぞれある様子。ただ深くは訊かなかった。いずれ、問い掛けてみてもいいかもしれない。


 やがて宴もピークを過ぎ、とうとうマクロイドが大の字になって倒れ込んだ段階で落ち着き始めた。もう冬ということもありさすがに雑魚寝はまずいということで、しっかりと暖めた客室に眠った面々を連れ込み……そんな感じで、いよいよ深夜に入ろうとしていた。

 俺も寝るか……と思いつつ、まだ食堂に残っている人物達を見つけ、近づいてみる。


「まだ眠らないのか?」


 問い掛けた先にいたのは、ノディとターナ。ここでターナも参加していたのかと首を傾げた。すると彼女はその疑問を察したようで、


「私は部屋に閉じこもっていましたよ?」

「ああ、そうなのか」

『ここにいるのは主に私が原因だ』


 ジュリウスの声。ふむ、ノディとジュリウスが会話をしていたということか。


『さすがに宴の時間に割って入るのは忍びないと思ったからな』

「ノディと話をするために深夜まで待っていたということか?」

『ああ。というより、そもそも彼女から話さないかと提案してきたのだが』


 俺はノディへ視線を移す。すると彼女は肩をすくめ、


「ほら、私って魔王城で全然活躍できていなかったでしょ?」

「セシルも似たようなことを言ったいたぞ」

『なるほど、似た者同士というわけか』

「……なんか、釈然としない」


 そう呟いた後、ノディは言い直す。


「ほら、フィクハが魔王に対し魔王で相対し、なおかつグレンが魔王に傷を負わせた……それを聞いて、いても経ってもいられなくなって」

「セシルも同じようなこと言っていたな」

『やはり似た者同士か』

「二人、殴り倒されたい?」

『私には無理だな』

「変わりにターナを殴るということで」

「ええっ!?」


 見事にとばっちりのターナ。なんというか、彼女は出会ってから今までずっと不憫な立ち位置だ。


「……で、ノディ。何か参考になったのか?」


 俺はノディの隣に座りつつ問い掛ける。すると彼女は「まあね」と答えた。


「いくつかヒントになりそうなものは……以前の私ならできなかったけど、今の私ならできるかもってさ」

「……ジュリウス、見なくてもそんなことがわかるのか?」

『訓練の過程をある程度聞けば推察できる。闘技大会時と比べ訓練を重ねた彼女なら、ある技法が使える』

「それは……?」


 訊いたのだが、なぜかジュリウスは沈黙した。


「どうした?」

『……見てのお楽しみだな』

「何かヤバイことでもやるのか?」

「大丈夫だって、レン」


 ノディの説得力の無いフォローが入る。


「今回は絶対に負けられない戦い……そして、失敗は許されない。さすがに闘技大会のようにリスクのある賭けはやらないよ」

「……本当だな?」

「心配性だね、レンは。ま、大会の時結構無茶したし、当然と言えるけど」


 ……大会時、ノディはルルーナ相手に魔族の力を暴走状態にさせて戦っていた。それの応用でもしそうな気配で、大丈夫なのか不安になるが――


「大丈夫だって」


 ノディはそう告げると、俺に笑みを浮かべた……これ以上話す気はなさそうだし、話題はここで打ち切られる。

 そこで、俺は一つ気付いた。すぐさまターナに視線を移し、


「そういえばジュリウス……ターナについてだけど、いつ魔界に戻すんだ?」

『このままベルファトラスに定住してもらおうかと』

「ええっ!?」

『冗談だ』


 なんというか、主であるジュリウスからも言いように使われている……やっぱりターナが一番不幸な気がするなぁ。


『今回の件がひと段落したのなら、魔界に帰還させようと考えているが』

「そうか……ちなみに、現時点で魔界に変化は?」

『魔王が敗れたということで多少魔族に動揺が広がっているが……今回はシュウという存在がいる以上人間達が襲ってこないというのはわかっているため、そう混乱しているわけではない。ただ』

「ただ?」

『魔王城そのものが魔界から消え去っているので、この代替を用意するとなると大変そうだ』

「……なるほど」

『どちらにせよ、魔王が滅ぼされた以上今後何かしら起こる可能性はある……が、そちらの世界に影響が及ぶ可能性は低いだろう』

「根拠があるのか?」

『立て続けに魔王が滅ぼされるという結果……最初のティルヴァデインに関しては事情が複雑なようだが……ともかく、人間に魔族が敗れたという事実は動かない。その事実から、復讐などと考えるより関わらない選択をとることが濃厚ということだ』


 そこでジュリウスは一拍置いて、


『もしそちらに干渉する輩が出たのなら、私が色々と行動を起こそう』

「……ずいぶん親切だな」

『真実を見つけてくれた礼とでも思ってもらえればいい』


 ティルデに関することか……こちらが沈黙していると、さらいジュリウスは続ける。


『そういえば、もう一つ……君の魔法についても大変興味深い』

「星渡りについてか?」

『そうだ……実は魔界にもそうした文献が存在していた』


 それは初耳だ……興味を抱き沈黙していると、ジュリウスは面白そうに述べる。


『どういう経緯でこうした魔法が生み出されたのか……調べたところによると、過去異界の存在について研究していた魔法使いが、偶然この世界の魔力を用いて異界と門を繋ぐ術を編み出したらしい』

「魔力を用いて……」

『この魔法、入れ替わった後は戻れないという結論に達しているだろう?』

「ああ……アキは研究していたみたいだけど、無理だと」

『それはおそらく、繋げた異界……つまり君のいた世界に魔力という概念が存在しないためだろう。こちらの魔力を用いて門を作り出す以上、一方通行という可能性がある』

「それはつまり、元の世界に戻りたくても戻れないと?」

『帰りたいのか?』


 問い掛けに、俺は沈黙した……ふむ。


「……結論はまだ出ていない。全ては、戦いが終わってからだ」

『そうか……結論から言うと、検証してみなければわからない。だが、異界とこの世界を繋ぐことができた以上、不可能ではないと思うぞ』

「その魔法について、あんたは調べる気なのか?」

『面白そうだからな』


 ジュリウスは言う。結局、この魔族は自身の知識欲を満たすために行動するというわけか。


『研究結果は、全ての戦いが終わった後になるだろう……楽しみにしていてくれ』

「期待しないで待っているよ」


 答えた後、ジュリウスは笑い、そして――


『此度の戦い、少なからず応援している』

「……応援とはずいぶんだな」

『こうやって君達と長く関わっている以上、死んでほしくないという思いは多少ながら存在している』

「光栄とでも言っておけばいいか?」

『それでいいぞ』


 そっけない返事。ただ、言葉の端々からはこちらを慮るような態度があるような気がしないでもない。


『私自身、今回そちらと関われてよかったと思っている。できれば、私としても長い付き合いていたいと思っている』

「……あんたも、ティルデさんと同じく人間側の味方に近い魔族みたいだな」

『そうかもしれんな』


 答えたジュリウスはまたも少し間を置いて、最後に述べた。


『最終決戦までにそう時間もなく、なおかつこちらが教えられることはそう多くはない……私は魔界から魔王の残党などを観察することにしよう。さすがに主君が倒れた以上、無茶な行動をするとは思えないが……注意は向けておいた方がいいだろうからな』


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