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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
屋敷護衛編

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新たな事実と彼女の秘策

 ルファーツと剣を交えた襲撃者は、短剣で攻撃を逸らし横をすり抜けようとする。


 そこへラウニイのナイフが放たれる。ルファーツが阻んでいる以上、彼に当たる可能性も考えられるが――その一撃は横に逃れようとする襲撃者の真正面に迫る。


 相手はそれを弾き――途端にパアン! という破裂音が廊下に響いた。さらに、襲撃者の動きが鈍る。


「ふっ!」


 生じた隙に対し、ルファーツが追撃。

 やや大振りの剣戟だったが、襲撃者は避けることができず短剣で受け止め、風を受けたとの同じように後退する。


 さらにラウニイの投擲(とうてき)。彼女の狙いは正確で、またも襲撃者の真正面にナイフが到達する。

 加えてルファーツが動き――襲撃者はナイフを短剣で叩き落す。するとまたも破裂音が響き、動きが鈍る。


 ――おそらく、ラウニイのナイフは触れたり弾かれたりすると魔法が炸裂する仕様なのだろうい。だから襲撃者が短剣で防ぐと、魔法が発動している。

 しかし、効いている様子はない。これで本当に大丈夫なのか――ラウニイに視線を送ると、彼女は笑っていた。


 さらにナイフが放たれる。ここに至り襲撃者はルファーツの攻撃を防ぎながら、ラウニイのナイフをかわすという二重苦に陥っている。確かにこちらが優勢に見えるのだが、決定打がない以上――


「……え?」


 そこで、今更ながら気付く――襲撃者は、なぜ攻撃を避けているのか。あの絶対的な防御力があれば、無視して突破できるのではないか。


 考える間にラウニイがさらなる攻撃。ここまで来ても彼女は、ルファーツに誤射することなく襲撃へ仕掛けている。この点は、彼女の精度によるものだろう。


 襲撃者はよけようとしたが、ルファーツがそれを阻む。またも短剣で防ぐ結果となり、魔法が発動。襲撃者はまたも衝撃波を受ける。

 そしてルファーツの剣。襲撃者はそれをからくもかわし、俺達と大きく距離を取る。


 背後には倉庫。それと背中合わせとなり、短剣を構えじっと俺達を睨みつける。


「……やっぱりね」


 ラウニイの声。首を向けると、なおも笑みを浮かべる彼女の姿。


「あなたが使っているその魔法、強度に限界があるのね?」


 その言葉により――襲撃者の瞳が、僅かに細くなる。


「おかしいと思ったのよ。絶対的な防御力があるのなら、どんな攻撃が来ても知らんふりしていればいいだけの話だからね……けどそれをしないのは、その防御能力を最後まで残しておきたいのよね?」


 最後まで――その言葉に、襲撃者の目つきが険しくなる。


「ま、だからこそ私の策が効果的ね」


 ラウニイは言うと、襲撃者に見せつけるようにナイフをかざす。

 その態度は、どこか挑発するようなもの――瞬間、襲撃者は彼女に走る。


 ルファーツが応じて、腹部目掛け一閃した。しかし迎え撃つ襲撃者はそれをもろともせず、なんと体で受け止める。


「っ!?」


 ルファーツが呻き――同時に襲撃者は刃に触れながらすり抜けた。

 目標はあくまでラウニイ――彼に対し今度は俺が立ちはだかる。


「させるか!」

 だが襲撃者は止まらない。俺は覚悟を決め剣を薙ごうとする――


「レン君!」


 直前、ラウニイの声とヒュン、という空を切る音。


「腕を狙って!」


 言葉の直後、俺の横をナイフが通り過ぎる。それはまたも襲撃者の正面を捉え、相手はそれを短剣で弾く。


 ――おそらく、多少の衝撃波を無視してもラウニイを潰そうとする魂胆だったはず。俺もまたそう認識し、彼女の指示を聞き入れながら敵を見据えた。

 次に聞こえたのは――鉄でもひしゃげるような、あまりに重い音。


「え――」


 俺が音に驚き思わず攻撃を中断した時、襲撃者は大きくのけぞっていた。

 ラウニイの魔法による効果だ。先ほどとは比べ物にならない威力の魔法に、相手も虚を衝かれ大きな隙が生じている。


 そして、腕――俺はすかさず、目標を短剣握る右手に変える!


「――切り札は」


 ラウニイの言葉が発せられる。その間に俺は反動で振り上がった手の甲目掛け、すくい上げるような一撃を放つ。


「最後まで、残しておくものよ」


 言葉の後俺の剣が直撃し、短剣が宙を舞った。

 同時に俺は、彼女の策を理解した――最後の攻撃までは、言わば仕込み。襲撃者が俺との戦いで虚実を織り交ぜたように、ラウニイも切り札を確実に決める準備を進めていた。


 さらに彼女は、いち早く襲撃者の特性に気付いた。リミナなどから聞いてわかったと思われるその事実――襲撃者は攻撃によるダメージを防ぐことはできたが、攻撃による反動までは殺していない。それを利用したのだ。


 思えば、リミナの魔法で動けなくなった他、クラリスの雷撃であっても動きが鈍っていた。だからこそラウニイは最後の衝撃波で大きく隙を生じさせ、連携により見事武器を吹き飛ばした。

 考えていると――ルファーツが襲撃者の背後から攻撃を加える。相手はそこに至り体勢を立て直したが、避けることができずまともに食らう。


 ダメージはない――しかし大きくよろけ、今度は俺の攻撃が入る。狙いは、右足。


「はあっ!」


 掛け声一つと共に振り抜いた斬撃は、目論見通り足に直撃した。


 その衝撃により足が床を離れ――ルファーツが左足を狙おうとするのをしかと見た。

 このまま転倒させれば、一方的に攻撃できる。ラウニイの言う通り防御能力に限界があるなら、このまま猛攻を加えることで魔法は破壊できるはずだ。


 俺はルファーツの攻撃に合わせさらに剣を振ろうとした――だが彼の剣が決まる前に、襲撃者は跳んだ。

 その跳躍は横方向で、俺の目から見てかなり無理な体勢――しかし目論見は成功し、挟み撃ちにする俺とルファーツの間をすり抜け、床に転がりながらも距離を取る。


「くっ!」


 ルファーツがすかさず追おうとする。だが襲撃者の動作は速く、俺達が剣を放つ前に立ち上がり走った。

 そしてラウニイの横を通り過ぎようとした――次の瞬間、彼女からまたもナイフが投擲される。


 グオッ――空気を震わせる重い音と共に魔法が発動。横からの一撃に、襲撃者は壁に体を押し付けられる。

 その間に俺とルファーツは走る。このまま動きを止めていてくれれば――そう願ったが、到達するよりも早く襲撃者は体勢を整え走り出した。


 俺は全速力で後を追う。けれど、襲撃者の方が速く、差が少しずつ生じてしまう。ルファーツも同様だった。ただ彼は鎧を着る以上、仕方ないと言わざるを得ない。

 襲撃者が角を曲がる。遅れて俺が続いた時、兵士が敵に突き飛ばされているのを発見する。


 目標はペンダント――ならば目指す場所は王子の部屋。俺は確信していたが決定的に間に合わない。差が大きく開いた中、襲撃者は王子の部屋の前に到達した。

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