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宴の時間に

 夜、とうとう宴の時間がやってきた。とはいっても集まったのは基本知り合いばかりなので、宴開始の合図なども一切なくなし崩し的に始まった。なんだかグダグダしそうな要素が満載だったのだが、いの一番にマクロイドが騒ぎだし場を盛り上げ始めたので、見ている分には結構楽しい。


 で、集まった面々は仲間内の他現世代の戦士達……後は魔王城攻略に参加したジオのような騎士もいたし、さらにその時見かけなかったオルバンなどの姿もあった。彼に事情を訊いたところによると、塔側の警戒をしていたらしい。で、現在はそちらに軍を傾けているので、一度戻ってきたとのこと。


 人数は結果的にそこそこなものとなった。用意された部屋は屋敷一階のダンスホールで立食形式だったのだが、ここは基本マクロイドを始めとした騒ぐ面々達が占拠し、落ち着いて話す場合は食堂へ移るという形に自然となった。

 俺はしばらくの間ダンスホールにいたのだが、マクロイドの視線が時折こちらへ向けられているのを悟り、そそくさと退出した。まあ戦いの主役ということで後々呼び出されるかもしれないけど……そんなことを思いつつ食堂へ行こうかと歩んでいると、廊下の途中でルルーナに出会った。


「あ、ルルーナ」

「ん、レンか。ホールの方でやっている馬鹿騒ぎには参加しないのか?」

「そういうルルーナは?」

「私はもう少しマクロイドが酔ってから行くことにする。あいつがいると飲み比べになるからな。有利な戦況で争った方がいい」

「……ルルーナって、どのくらい飲めるの?」

「私はザルだな。どれだけでも」


 小さい体でよくもまあ……と思ったが言わないでおいて、彼女の隣に立つ。


「少し、話さないか」


 唐突な言葉。首を振る理由もなかったので頷き、彼女についていく。食堂からも離れて辿り着いたのは、庭園の見える場所。

 夜なので当然周囲は暗く、背後に屋敷で灯される魔法の照明だけが俺達を照らしている……月明かりもあるにはあるが、光源としては少々心もとないくらいだ。


「貴殿には、一応伝えておこうかと思って」


 ルルーナが言う。何のことかと思ったのだが……おそらく幻術世界の話だろうと思った。


「別に、話さなくてもいいんじゃないか?」

「いずれわかることだからな……気になっているだろうし、顛末くらいは語っておこうかと」


 ルルーナは軽く咳払い。まあどういう結末に至ったのか気にはなるけど……考えている間に、ルルーナはこちらに首を向けた。


「ちなみに、従士である彼女についてはどうなった?」

「……何でリミナの話題?」

「二人の関係が気になった一人でもあるからな」


 まったく……俺は肩をすくめ、


「それほど深く語ってはいないよ……けど、納得できるような結果にはなった」

「そうか。それは良かった」

「で、そっちもそういう感じなのか? 態度からすると正直わからないんだけど」

「……平たく言うと、だな」


 ルルーナはそこで苦笑。


「プロポーズされた」

「……え?」


 目が点になる。え、ちょっと待て。


「待った待った……それって、魔王城の中の話だよな?」

「カインは何も言っていないが、魔王に聞かせて戦意を削ぐような意味合いがあったのかもしれないな」


 いやいや、そこまで考えてするのか? 首を傾げている間に、ルルーナは続ける。


「その辺り効果があったのかは魔王が消滅した以上確認できないから置いておこう……ともかく、二人になってカインに告げられたのは、そういうことだ」


 笑うルルーナ。浮かんだ笑みは、紛れもない苦笑だ。


「あんな場で……と思いつつ、回答については保留したよ。さすがにそこまで魔王に聞かれるのは癪だと思ったしな」

「……だとすると、カインは」

「絶賛生殺し中というわけだ……まあ、奴はそういう境遇の方がしっかりと働いたりする性分だから、このまま頑張ってもらおうかと思っているが」


 おいおい……と思ったが、ルルーナは今度は微笑を見せる。


「とはいえ、私の雰囲気からどういう答えなのかはなんとなく察しているだろう」

「カインもわかっているのか?」

「付き合いが長いからな。なんだかんだ言って言葉はなくともそれなりに意思疎通ができてしまうものなのだよ」


 憮然とした表情を示すルルーナ。気配的には照れ隠しの意味合いもありそうだ。


「……まあ、私としては生き残るためのモチベーションができた。頑張らせてもらうさ」

「そっか」

「ところで、レンはこの戦いが終わったらどうする? 元の世界に帰るのか?」

「……それは難しいという結論が既にあるんだけどね。元の世界に帰る手段を模索するのか、こちらの世界で勇者としてやっていくのかは、戦いが終わった後考えるよ」

「中々面白そうな世界だったが」


 アキの幻術世界の時に見た事を思い出し語っている。俺はそれに肩をすくめた。


「正直、暮らす分には今よりはずっと退屈だと思うよ」

「それは貴殿の感覚だろう? それに、貴殿も元の世界のことを全て知っているわけではあるまい」


 ……確かに、一理ある。俺は単なる高校生で平凡な人生だったわけだけど――あのまま暮らしていれば、劇的な何かが起きたかもしれない。

 まあそれでも「異世界に赴いた」という事実と比較するとどうだろうと思う所だが。


「ふむ……貴殿がそう言うのなら、ゆっくり考えるといい。そう焦る必要もないだろう」

「そうだな」

「レン……死ぬなよ」

「わかっているって。ルルーナも」

「もちろんだ」


 俺の言葉に返事をしたルルーナは「よし」と一言呟き、踵を返した。


「さて、食堂にアクアがいたはずだ。マクロイドはもうしばし放置しておくとして、そちらの様子を見に行くとしよう」

「……アクアには、色々追及されるんじゃないのか?」

「それも覚悟の上だよ。放っておくと、噂で何を喋るかわかったものではないからな」


 なるほど、そういうことか……俺はルルーナが歩き去る姿を見送り、小さく息をついた。


「元の世界、か」


 リミナにも指摘された。決戦を前にして考えるようなことでもないと思うけど、確かにどうするかを決断する時がいつか来ることは間違いないだろう。

 けど、元の世界に戻ることができるのかどうかも不透明な状況なので、なんとも言い難いのが実状。そもそもこういう選択って、まず元の世界に戻れる手段がないことには話としては始まらないし。


 アキが頑張って検証して結局駄目だったことを考えると……いや、だからといって絶対戻れないというのは早計か。


「……ま、いいや」


 俺はその辺りのことを割り切ることにして、戻ろうかと踵を返す。とはいえここからでもダンスホールで騒ぐ声が聞こえるので、ちょっと行きにくい。

 ルルーナと同じように食堂へ行くか……そう考えた時、こちらに歩み寄ってくる人影が。


「あ……」


 アキだった。彼女はこちらを見てちょっと驚いた様子を見せている。


「あれ、レン? てっきりホールにいるものだと」

「いや、マクロイドが暴れているからなんとなく……ちなみにアキは?」

「今の今まで食堂に。ルルーナさんが来たから入れ替わりで外に」


 そうか……ここで俺は幻術世界での彼女のことが気になった。ルルーナなんかから話をされて少し意識したこともあるが――


「何やら、話したいご様子?」


 問い掛けられる。俺はそれに頷き、アキに隣へ来るよう促す。


「ちょっと話さないか?」

「幻術世界のこと?」

「ああ」


 ここでアキに関することを整理しておいていいだろう……アキもそれには同意なのか、俺へと近づいてきた。


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