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真実を知った者達

 魔王城を出た俺達は最初の拠点まで戻り、テントの中でフロディアから話を聞くことになった。ちなみにロサナやリュハンはいない。ここにいるのは新世代の面々だけ。


「どうやら城は、魔界に送還などされず残るらしいな」


 何事もなく佇んでいる魔王城……それについてどうするかなども協議する必要がありそうだけど、こればかりは俺達でどうにかなるものではないので、偉い人に任せることにする。


「そして、判明した事実についてだが……ひとまずあの場にいた面々には話さないよう口止めはしておいた。内容は衝撃的すぎるし、公開してもデメリットしか感じられなかったからね……信用できる者しかあの場にはいなかったし、これで大丈夫なはずだ」

「それで、今後はどうするのですか?」


 リミナの問い。フロディアは彼女を見返した後、話し始めた。


「とにかく、最終決戦の場が判明した……といっても、相手にだって準備に時間が掛かることくらいはこちらもわかっている。南部……『揺らぎの塔』の機能を使って魔界から魔力を引き寄せるにしても、あの塔の力を起動させるだけで数日かかるからね」

「数日……?」


 聞き返すと、フロディアは頷いた。


「元々あの塔は、あの周辺にあった小国が隣国にあった大国に対抗するために建造したものなんだが……基本的な機能は塔の力を使っての魔力増幅。広範囲系の魔法を行使すれば、領土の範囲外にすら極大な魔法となって攻撃することができるものだったんだが……それをきちんと機能させるために、最低でも数日準備がいるんだ」

「塔の増幅機能をきちんと起動させるために、色々と準備がいるというわけですね」


 今度はフィクハの言葉。それにフロディアは再度首肯。


「そういうことだ……こちらの見立てで、最低三日準備には必要だ。一度魔法発動に失敗すれば塔の機能を一から組み直す必要があるため、彼らも万全な準備を整えるだろう……よって、この日数は動かない」

「その間、俺達はどうすれば?」


 こちらが尋ねると、フロディアは腕を組んだ。


「ひとまず、ベルファトラスに戻ってもらって構わない」

「え?」

「先ほど報告が来たんだが、塔の周辺にはまだ魔王の配下である悪魔やモンスターが存在している……本当ならそれらを倒しいち早く制圧してシュウ達を塔へ入らせないことが一番だが、魔王との戦いもあったため態勢を整えるのに時間が掛かる。加え、シュウ達に対応策はあるだろう……ならばこちらも三日という時間を利用し、万全な準備をした方がいいという結論に至った」

「準備、ですか」

「遺跡と魔王の城……二度もああまで一方的な展開となったんだ。塔の機能を把握していれば、またこちらの攻撃を防ぐ手立てを構築しないとも限らない……それをさせない――いや、手を打たれても対抗できる準備をする。そのために、時間を多少もらいたい」


 俺達は一様に頷いた。フロディアの言葉はもっともなので、否定することはしない。


「こちらの準備が整い次第、連絡は行う……ほんの数日だが、英気を養ってくれ」


 そういう言葉で話は締めくくられた。俺達はテントを出て、転移魔法を準備する魔法使い達を見ながら、会話を行う。


 最初に口を開いたのは、セシル。


「なんだか、ずいぶんと複雑な戦いだったみたいだね」

「シュウさんがああして荷担している以上、あのくらいあってしかるべきだとは思っていたけどね」


 これはフィクハの言葉。驚いていた様子だが、彼女は既に冷静さを取り戻している様子。


「まあ、あの戦争にも悲劇的な裏があったということだけはわかった……けど、魔王が大陸を蹂躙したのは間違いないし」

「俺も、ティルデさんのことを全面的に賛同することはできないな」


 ここで俺が発言。全員、こちらに視線を集中させる。


「ただまあ、この場にいる皆はわかっていると思うけど……俺は本来部外者に近い立場なわけで、戦争なんかについても大して考えを抱いているわけじゃないから、こういうことが言えるのかもしれないけど」

「レンからしたら、単なる歴史の一ページって感じかな?」

「それに近いかもしれない……ただ、ラキがああやってティルデさん達を復活させるようとしていること自体は、なんとなくわかる気がする。是が非でも止めなければならないのはわかっているけれど」

「正直、どちらが正しいなんてことを問うのは、ナンセンスだと思うよ」


 ここで、ノディが発言。


「私達が考えるべきなのは、英雄シュウ達が大陸を死の大地に変えようとしている……だからそれを止める。それでいいんじゃない?」

「……まあ、物事はシンプルに考えた方がいいだろうな」


 グレンが言う。その表情は、どこかさっぱりとしていた。


「真実を知り、色々と考えることはあるだろう……が、やるべきことは変わらない。最後の戦いが起こるまでの数日間でその辺りを整理し、備えればいいだろう」

「そうだな……」


 同意した時、俺達に近づいてくる複数の人影が。ルルーナやカインといった現世代の戦士達だった。


「レン、ベルファトラスに戻るのか?」


 尋ねたのはルルーナ。俺は首肯し、


「ああ……そっちは?」

「私達もひとまず休めと言われた。解析などに私達はまったく役に立たないため、仕方がないが……ただナーゲンはしばらくここに残るらしいが」

「そっか……」

「……色々と、衝撃的だったな」


 ルルーナは憮然とした表情で語る。誰もが無言となったが、全員例外なく彼女の言葉に同意するような様子だった。


「とはいえ、理由を語ったからといって彼らの行動を肯定するわけにはいかない。次で最後の戦いだ。気を引き締めておくべきだろう」

「ああ……で、ルルーナ達はどこで休むんだ?」

「戦士団の所に戻ろうかという話にもなったのだが……さすがに今日くらいは休まないとキツイ」


 確かに……思えば今日は魔王と戦い、そしてその後シュウ達とも一戦行った。シュウ達の方は戦闘より会話がメインなわけだけど……内容的に、精神的な疲労が生じている。

 時刻としては、まだ昼を回ったくらいだろうか。けど体は疲れ切っている。正直、すぐに眠りたいところだった。


「ルルーナ達は、どういう準備をするんだい?」


 セシルが問う。それにルルーナ他、戦士達を顔を見合わせる。


 代表して答えたのは、カイン。


「魔王との戦いの時点で、戦士団の方はどういった結果であれ問題ないよう態勢を整えていたからな……シュウとの戦いもある以上、警戒を解く必要はないだろう」

「そっか」

「何か考えがあるのか?」

「いや、そういうわけじゃない」


 首を振るセシル。そこで今度は後方にいたマクロイドが声を発した。


「なら明日までに、たんまりと料理の準備をしておいてくれよ」

「……は?」

「いや、ほら。決戦だろ? 魔王との戦いでは後でシュウとも戦うってわかっていたから何もしなかったわけだが、決戦前夜ということで宴の一つでもあっていいかと思ったわけだ」

「どこまでもご陽気な発想だね」


 皮肉を込めてセシルは呟く……が、その提案自体は賛同するのか、


「ま、いいや。ベニタさんに言っておくよ」

「おい、本当にやるのか?」


 思わず俺は声を上げた。それにセシルは小さく笑い、


「そのくらいはあってもいいと思うよ? ただし、呼ぶのなら僕らが知っている人間に限るということにしておくけど」

「身内ばっかりで、というわけだな。結構結構。それじゃあ戻ろうじゃないか」


 マクロイドは明るく言う。悠長なと思いつつも、この場にいた面々の表情が柔らかくなったのは事実。おそらく彼は、場を和ますような意味合いもあって告げたのだろう。

 そして、この場は解散する。俺は様々な感情を内に抱きつつ……ベルファトラスへと戻ることになった。


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